表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

紅梅や 拳握りて 吾子浮かべ

 二月の第二週の月曜日。公安委員会から呼び出しを受けた。

 昨年末、例の事件に首を突っ込んで、訓告を受けて以来、あの件には一切探りを入れていない。なのに、呼び出しされた。

 全く身に覚えがなく、呼び出された理由が分らない。

 行ってみると、親父さんの事を質問された。どうやら、親父が調査を再開したらしい。

 俺は全く関与してないが、それで、また訓告か? そう思っていたら、今度は、いきなり、稲川会の中堅ヤクザ安井泰三の話になった。

「ええ、良く知っています」

「その安井泰三と、昨年末、密会したらしいが、間違い無いかね」

「自分が更生担当なので、彼からの情報提供で会いました」

「一人でかね」

 規則では、二人一組で行動することになっている。まさか別件で、訓告か?

 だが、チンコロでは一人で会うのが普通だ。そもそも係長が俺を名指しで指名した。一人で行くに決まってる。

「一人でも、問題ないと判断し、単独で会いました」

「情報提供の内容は?」

「埼玉スーパーアリーナのクリスマスコンサートの前日に、稲川会の幹部が、会場前で嫌がらせ行為を計画しているとの情報提供でした」

「謝礼は払ったのかね」

 そういう事か、しまった。確かに、この程度の情報なら、情報提供料の最低額五千円がいいとこだ。だが、ヤクザからの身内の情報提供料は通常最高額の十万円で扱っている。うちじゃ、そういう慣例だ。そもそも、ヤクザがたった五千円や一万円で、組織内のゴロ情報を吐くわけがない。ちゃんと経費として承認され回収済みだ。

 十万円の謝礼と言えば、大臣級のVIP暗殺計画等の極めて重要度のもの。大事な税金を、そんな些末な情報如きに、支払うとは不当だと追及しようとしている。

「情報提供料として、最高額の十万円を支払いました。しかし、ヤクザの情報提供は命がけの英断です。情報提供料としてとしては妥当な金額と考えております」

「この程度の情報でかね。安井泰三自身が、あの情報の価値は一万円で、君からも一万円しか受け取っていないと、証言しているのだがね。しかも、領収書は金額未記入のものに署名させられたと言っている」

 そんなことはしていない。確かに十万円を支払い、ちゃんとした領収書で処理をした。

「経理課でもね。一万円程度が妥当と考えていたらしいが、ヤクザが一万円なんかで情報提供するわけないと、以前に、君にごねられて、止む無く承認したと言っているんだ。複数で確認が取れている。事実だよね」

 そりゃ五年以上も前の話だ。それ以降は、素直に承認して貰っている。

「過去十五回も十万円の情報提供料が発生している。安井泰三以外からは、証言がとれていないが、少なくとも内七回の安井泰三の情報提供料は、毎回謝礼一万円だったと言ってるんだがね。それなら二人で行動しないで、一人で動く訳だ。なにか、反論があれば言いたまえ」

「安井と、話をさせて下さい。私はきちんと十万円を支払いました」

「君は、あの情報が十万円の価値があると判断している訳だ。そして、安井泰三を脅迫して、偽証工作する気かね。君の事は分った。処分は後日、言い渡す」

 これが公安委員会のやり方か? ヤクザよりも汚い手を使う。俺が長年にわたり情報提供料を水増し着服していたとして、業務上横領の冤罪を無理やり仕掛けてきた。業務上横領なら、懲戒は確実だ。

 しかし、親父が動くと、こっちが責められるとは予想していなかった。俺には大輔、祐輔がいるのに、どうすりゃいいんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ