開梱の 取る手重なり うららなり
何で開業時から居る私より、後から入ってきた磯川さんの方が上なのか、未だ納得がいかないものの、探偵部門統括管理責任者と言う専務待遇で、明日の木曜から、磯川さんが便利屋昴の一員になる。
といっても、彼の意向で、専務は四月から。それまでは見習い研修期間で、月給二十五万円のヒラ扱いとなっているらしい。
そして、本日が、磯川さん一家の引越しの日。神谷邸の二階の三部屋が、夕実さん一家の新居になる。
でも、妊婦の私が、なぜその手伝いをしなければならない。しかも今日は、本来は定休日なのに、社長命令で強制召集させられた。
まぁ、このお手伝いが、産休・育休の交換条件なので、手伝うに決まっているけど……。
本当なら、八月末で会社をやめるつもりだった。けど、昨日、裕ちゃんから魅力的な提案があった。再来年の四月から働くつもりなら、産休・育休中として、給料の七割を支給すると言う。通常なら、給与ゼロで、共済等で産休中は三分の二のお金を補填する。育休中は五割なので、こんなおいしい話はない。しかも、来年度の基本給は二万円アップ。何も働かないで三百五十万円近くを貰える計算になり、これを選ばない人などいる訳がない。
というわけで、今日は昼から神谷邸で待機している。主人も一緒。そして、夜は新歓祝賀会の予定。私は酒を飲めないので、少し残念。
義兄さんは、向こうで、昼を食べてから出たとの事で、予定より一時間遅い到着になる。
そして十四時頃に、磯川が引越し便のトラックに同乗して到着した。なぜか義兄の車は、引越し業者の人が運転していた。
「お袋、約束通り、巨大なトラックで、この家に来ましたよ」
磯川さんのジョークの意味が判らないので、聞いてみようとしたら、裕ちゃんも何の事と、お義父さんに聞いていた。聞耳を立てたが、聞き取れなかった。
「未季ちゃんは、万一があるといけないから、居間の方で休んでおいで。代わりに武生を使うから」 義父はそう言ってきて、今日も、私は蚊帳の外。
「よっ。妹よ。おめでただってな。良かったな。子は宝。奥で休んでな」
こいつは、リトル昴だ。言う事が、何時も同じ。
明日からはダメ男が二人か……。リトル裕子も、頑張らねば……。
夕実義姉さんも、邪魔者扱いされたのか、居間での退避組だった。二人も出産している先輩なので、この機に聞けなかった質問をしてみることにした。
「ぶっちゃけ、聞いちゃいますが、セックスは普通にしていいって、ネットに書いてるけど、どうしてました?」
義姉さんは、「普通にしたい時にするのが一番」と言って、かなりあれこれ体調の変化の詳細を話してくれて、最初の妊娠の時、初めて本当のセックスの楽しさを知ったと話してくれた。
私がまだセックスで行ったことがないと言うと、クリイキ以外にも、Gスポットの膣イキや、ボルチオの子宮イキがあると、専門用語や隠語を使って詳細に教えてくれた。
磯川さんの妻だけあって、かなりのむっつりスケベの好きものだった。
裕ちゃんが呼びに来て、衣類等の開梱片づけの手伝いが始まった。
二階に行ってみると、なんと、一部屋は、セミダブルのベッドを二つも並べて、ほとんど寝るだけのスペースに配置換えされていた。もう一つの部屋は結局未使用。残りの部屋は、隅に机が2つ並べて配置され、その隣に冷蔵庫があって、逆の壁際には、二十四インチのテレビがあるちょっとしたリビング風の八畳空間となっている。子供たちと、おもっいっきり遊べる磯川家専用リビングにしたみたい。
食器類は、結局開梱せずに、未使用部屋を倉庫として、そのままにしている。私たちのお仕事は、衣類と子供の玩具類を開梱して、備え付けのクローゼットに片づけること。
女性が三人も居ると、あっという間に、綺麗に片付く。
夜の宴会は、磯川さんが仕切り、何故か私の妊娠祝いになってしまい、出産した訳じゃないのに、磯川家からプレゼント贈呈なんかしてもらい。楽しいひと時を過ごせた。
私の妊娠を知らせた時に、お義父さんが言っていた「また昔みたいに良い波が来てる」と言う言葉を思い出した。裕ちゃんの意識が戻り、私に赤ちゃんができ、昔の裕ちゃんも復活し、磯川さんまで、うちに来た。
昨年末は最悪だったのに、去年の平和で楽しい時間が戻って来ている。そう実感した。