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境界人の活路  作者: ぴのもどき
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「転移した日」 ~001~

初投稿です。


これまで文学作品に触れた経験は乏しく、見切り発車で何となく書いております。

意味段落や改行もなんとなくしているだけなので、見にくい等の指摘があれば改善いたします。本文は修正の報告や必要に応じて、編集すると思います。


ご意見、ご感想頂ければ嬉しいです。




 

 信号の伝達速度が足枷に感じる。手に汗握る試合、限界までに研ぎ澄まされた僕の感覚は、モニター内のアバターの吐息さえ聞こえていた。


 ふっと息を止める音。来る。僕は素早く後ろに飛んだ。コンマ一秒遅く、相手の刀剣が振り下ろされる。刃渡り110cmの刀剣が前髪をかすめた。のけ反った体をすぐに立て直して、左足で地面を軽く蹴り体勢を低くして相手に飛び込んだ。

右手で刀を構えて、左手で顎のガードをした。相手との間隔は腕一本分にまで迫っている。抜ける。そう確信した瞬間、相手の剣が鋭く光った。カウンターだ。急いで空中で腰に掛けてある鞘を地面に突き刺し、それを軸にして右側に体を大きく回転させ相手との距離をとる。


 直後、相手の刀剣からバチッという音と共に相手は鎧に稲妻をまとった。突き刺す光は目を刺激して、空気の焦げる匂いが鼻についた。

相手の踏み込み、息つく暇もなく刀剣がなぎ払われる。それを足を浮かせてわざと鞘で食らう。鞘からの強い衝撃を感じ、遅れてガンッと音が聞こえる。焦らず相手の力をいなすように、空中で回転し力を拡散させた。高速で回転している中、相手に焦点を合わせて1本の風の矢を放つ。勢いよく飛び出した矢は、大気を駆け抜け相手の肩に命中した。




 「ガガガガガ」朝起きると蝉の鳴き声を打ち消すほどのエンジン音が聞こえる。もう慣れた音だが、今日は一段と大きく聞こえる気がした。カーテンから透ける朝日を浴びながら、窓を開ける。目の前に広がる一面の畑に隣のおじさんがまたなんかやっている。

 何を育てているかはよくわからない。けれど、たまに母がお隣さんからのおすそ分けと言って、食卓に肉がなくなりネギばかりになる。だからきっとネギだろう。生意気な奴だ、肉国に進行するんじゃない。食卓の上はいつだって紛争地域なのだ。


僕の地元、横浜市鉄町、横浜市と聞くと多くの人がみなとみらいのような都会を思い浮かべるだろうが、実際は違う。周囲を見渡すとほとんどが畑や山に囲まれている。農作業をしているおじさん達を観察していると、時折見える小奇麗に改装された住宅に横浜市を感じるんだ。


 夏もいよいよ本格化、ニュースでは毎年のように最高気温が更新されている。リビングへ向かう途中の冷房のない玄関は異常に暑い。蒸し焼きにされてるようだ。僕はニュースを尻目に、アイスを食べようと冷蔵庫の中を覗くとラップに包まれた豚肉しか入っていなかった。


 仕方ない、買いに行こう。この暑さとアイスとではアイスが勝る。

 上下ユニクロの半袖短パンに、財布を持ってクロックスを履いた。勢いよく扉を開くと、じめっとした暑い空気が全身を包む。うっとうしい太陽の光と闘いながら、アイスだけを考えてコンビニへ向かった。


 朝、少し歩けば農作業している人を嫌でも見かける。

おじさん達は畑の手入れをし、おばさん達はすることもなく複数人で井戸端会議をしているのがこの町のルーティーンだ。話を聞けば、どうやらその内容は区役所で見た映画みたいだ。


 最近の映画はよくわからない、なぜ女の子は飛べなくなったのか、やっぱり映画は火垂るの墓だ。と色々な意見が飛び交っていた。会話の内容から察するに、恐らく見た映画は魔女の宅急便だろう。最近の映画について話をしてるみたいだけど、とてもじゃないが最近の映画とは呼べない。少しどころかだいぶ遅れている。


最近の若者の映画といえば、君の名はだろうに。君の名はであってるよね、あれ、心が叫びたがっているんだだっけ。それとも未来のミライだろうか。僕もあまり自信はない。でも大きく外れてもいないだろう。


区役所でしか映画を見れないのだから遅れているのも仕方のないことなのだけれどね。デジタルデバイドとはこうゆうことなのだ。少し歩いて電車に乗れば映画館で最新の映画が見れるっていうのに。区役所の全年齢対象の優しい映画しか知らないのだ。この町らしいや。


 汗で背中がビショビショになりはじめた頃、コンビニ前の信号までやってきていた。車など通るはずもないのに律義に信号は赤く光っている。もはや信号機など、この町では任意の職質みたいなものだ。任意では僕は止められない。しかしタイミングよくバスが走ってくる。交差点前の停留所で止まったのを見て足を止めた。停留所ではちらほら制服を着た学生が乗り降りしている。どこまでもタイミングが悪いことだ。僕は学生に気づかれないように、そっと目を伏せた。


 このバスはスクールバスみたいなもので、経由してくる駅で学生たちは詰め放題のように無理やり詰め込まれる。バスの中は冷房が入っているとはいえ、シャツをズボンからだしている男子やセーター姿で登校している者もいた。セーターを着ている者全てが女子だ。なぜ夏にセーターを着ているのか毎年疑問に思う。


 そういえば、最近このスクールバスにも女子専用車があるらしい。年頃の男女が狭い空間に押し込まれるのだから、仕方のないことなんだろう。ますます肩身が狭いよな、男性諸君。


 通り過ぎるバスには、クラスメートもまばらに乗っている。本来であれば僕もそのバスに乗るはずなのだがさぼっている。別にいじめられているわけではないのだけど、あまり登校していない。ゲームにのめり込んでしまったからだ。これでも試験前には一夜漬けで、友達から配布される攻略本(授業プリント)を熟読するのだから大目に見てほしい。そんな付け焼刃の知識では、赤点にならない程度が関の山だけど。


 バスを横目にやっと変わってくれた信号を渡り、目先のゴールへと駆け込んだ。自動扉の先から伝わってくるキンキンの冷気は、流した汗のせいで涼しすぎるくらいだった。

早足でアイスコーナーへ行き、目当てのハーゲンダッツバニラ味を買って、コンビニで汗が乾くまでゆっくりと食べた。途中、汗でパンツが食い込んだりしていて不快だったけど、アイスの前では些細なことだった。




「なんだよ。偉く高級品を食ってるじゃねえか、この暑さで金銭感覚までやられたか」

と気の抜けた声が聞こえ、背中を軽く叩かれた。

「今日は大事な大会なんだ。特別感を出そうと思って、少し奮発したんだよ」

僕は隣にいる井上に声をかける。井上はクラスメートで引きこもり仲間だ。たまに朝一緒に時間を潰しては、帰ってネットゲームで一緒に遊んでいる。

「ああ、お前がいつもやってるゲームか。大会に出るってそんなに強いのかよ」

そういうと、井上はガリガリ君に勢いよくかぶり付いた。

「だてにサボってないからな、今日の大会は世界チャンピオンが決まる大事な大会の決勝戦なんだせ」

僕は得意げにそういって、2つ目のハーゲンダッツを買いに向かった。今度は抹茶味。


「まじか、そんなに強いのかよ。なんてゲームだっけ」

少し驚いた様子の井上。

「VERTEXだよ、めっちゃ楽しいからお前もやろうぜ」

すると井上は汗で画面が湿っているスマホをポケットから取り出し、ゲーム名をメモった。

「そんなに強いのか、今日の生配信で見てみるよ。ところで、佐々木が俺の親と二者面談するらしいんだよ。色々とチクり合いがはじまるんだろうが、そっちにも来てるのか」

佐々木とはうちの担任である。生徒の立場で物事を考えてくれる優しい人なのだが、面談が怖いのは生徒の共通認識らしい。


「いや、そんな話は聞いてないな。仮にチクリあっても佐々木先生だからへんなことにはならないって」

「それもそうだな。このあいだのテストも赤点ないし大丈夫だろ」

そういうと、佐々木先生に興味をなくしたのかVERTEXについて話し出した。

「で、そのゲームってどんなゲームなんだ」

「一人称視点で戦う剣と魔法のRPGとPVPゲームだよ」

すると分かりやすく身を乗り出し、少し興奮気味にきいてきた。

「えっ、めっちゃ面白そうじゃん。俺の好みだわ。もっと早く教えろよ」

井上はすぐに手に持っていたスマホでyoutubeを開き、VERTEXと打ち込んでゲーム動画を再生した。


そのあとしばらく井上がこれはなんだとゲームの内容を事細かに聞いてきて、僕が解説する下りが続いた。すぐにしびれを切らした井上が、俺もそのゲームしてみるわ。と言って走って帰っていった。

この暑さの中走って帰るなんて自殺行為だ、とても引きこもり仲間とは思えないほどにアグレッシブな奴だ。でも、井上と2人でパーティーを組んでやるのは面白そうだ。井上の姿が見えるまで、あいつはどこのストーリーで躓くのか想像しながら後姿を眺めた。

 井上が見えなくなり、時計を見たら9時すぎだった。そろそろ僕も帰って練習するか。窓越しに汗だくのサラリーマンを見て気後れしながらも、水を飲みながらゆっくりと帰宅した。


 帰宅後、いつも聞こえる機械のエンジン音と蝉の鳴き声が頭に響き、冷房が効き始めるまでの数分間、イライラはピークに達していた。いつもより乱暴にpcを立ち上げ、そばに置いてある密閉型ヘットフォンをかけた。ゲーミングチェアに深く腰掛け、戦闘モードに入る。数回の深い呼吸。pcが立ち上がりいつものゲームを開く。僕のゲーミングpcはスペックが高く立ち上がりがとても速い。ネットのAmazonレビューや複数のオススメゲーミングpcの記事でトップ3の地位を築いているのだから、優秀なのだろう。詳しいことはさっぱりわからない。


 今日の大会については、予選はネット上の試合でレート制の期間があり、そのレートのトップ50を抜き取って一対一のトーナメントが行われる。僕の予選順位はぎりぎりだった。予選期間がテストと重なり、一気にレートを上げるべく泣きながらゲームをした記憶がある。それでもこのゲームの全プレイヤー4億人のなかから勝ち上がったのだ。その後本戦では、設定された対戦相手とネット上で勝負するようになっている。


最近ではゲームの大会は規模を拡大している。大会で優勝できれば、現金で億が貰える時代なのだ。ゲームって凄いでしょ。親は3億稼いだらお前の生涯賃金より多いぞといって、プロになるなら学校には行かなくていいと言っている。けれど僕はプロになるつもりはない。あくまで趣味でやるから楽しいのであって、お金を意識し始めたら僕はきっと楽しめなくなる気がするんだ。


 いつものマウスとキーボードに手をかけ、お気に入りの布団シーツを指に挟む。ライナス症候群みたいなもので、物心つく頃には肌身離さず持っていた大事な相棒だ。


指の動きに異常はない。試合開始時刻までに日課の練習とウォーミングアップを済ませないと。時計を見るともう10時、よしやろう。唯一感じた異常は、いつもと同じゲーム画面なのに初めてやるような新鮮さがあること。かなり緊張しているらしい、ゲームをすることが億劫に感じた。しかし強く自分の頬を叩き奮い立たせる。楽しもう、僕の好きなことなんだから。


グイッと、ゲームの音量を上げた。少しヒリヒリする頬、まさか痛みが残るとは思えないけど、いつもより少し不安になる。練習が始まって最初の数分はさっきの頬の痛みを引きずっていたが、すぐに痛みは引き練習に集中できた。全ての日課を済ませてから、ふと時計を確認したら1時半になっていた。


そろそろか。運営からの大会招待メッセージを待ちながら、行き場のない緊張をほぐすためゲームのロビーで装備の再確認を行った。




 チロリン、ドキッとする通知音。招待がきた。

焦る気持ちを抑え、さっきより多く深呼吸してからゆっくりと招待を開いた。

すぐに画面は切り替わり、戦闘前の待機画面になった。見慣れた光景、対戦相手はアメリカのプロだ。一息ついたら、画面は暗転して戦闘開始前30秒のカウントダウンが始まった。

今だけは深呼吸のリラックス効果を信じて、30秒間深呼吸し続ける。もはや一種の宗教である、深呼吸教なんて名前のね。


 「Game start」相手は全身銀色の鎧に覆われている。相手との距離は100mで身長は210cmぐらいだろうか、両手には長い刀剣が構えられており、盛り上がった筋肉からすぐにパワー系キャラクターと分かった。


慎重に攻めないとカウンターで体力を一気にもってかれる。けれど至近距離の駆け引きは僕の領域、ここで怯むわけにはいかない。僕は全ての重荷を吹き飛ばせるように勢い良くマウスを動かした。


期待に応え疾走するキャラクター。相手も一拍おいて、銀の巨体の片手を振りかざし3本の雷をこちらに飛ばす。意志があるみたいにこちらへジグザグに進む。すぐに巨体もそれに追従して雷の光に隠れながら不規則に体を動かす。3本と1つの発光体、思わずにやけた。


僕は走りながら足裏と膝に分厚い土のプロテクターを生成して、勢いよく地面に両手を付けたあと全身を捻りワン、ツー、スリーとテンポよく両足裏と膝で雷を蹴り飛ばした。雷を相殺すると同時にプロテクターは空気中で粉々になり目の前の巨体の動きが少し鈍った。敵との距離は3mほど、ここまで距離が近かったらビビった方が負けるのだ。僕は捻った勢いで体を反転させ砂煙の中、刀を一直線に首目掛けて貫いた。ベコッと金属を通り抜ける感覚、確殺の致命傷だ、まずは1本。




「Round WIN」の文字が出る。次のラウンドが始まるまでの10秒の休息、ふう、仕切り直しだ。手は硬くなってはいなかったが、一応グーパーグーパーと動かした。その後も立て続けに2本目を取り、3本目は風の矢で相手の肩に致命傷を与え俊敏さを失ったところを強引に押し切った。




でかでかと虹色に輝く「WINNER」の文字、終わった。体の中の硬い空気が一気に抜けていく。全身の細胞はいまだ騒いでいる。内から溢れかえる歓喜がじんわりと広がり、ポカポカと体は熱を帯びている。さっきまでの戦いが頭の中でハイライトみたいに流れ出した。


勝ったんだな。勝ったんだ。いつまでも消えない高揚感をキーボードとマウスから手を放して大きく伸びをして落ち着かせる。


疲れた、いったん休憩しよう。椅子から立ち上がり、部屋を出ようとした。すると、視界は変わらず、画面のキャラクターが立ち上がっただけだった。辺りを見渡すが僕の部屋はなく、闘技場しか見えないことに恐怖と焦りを感じ唾を飲み込む。えっ。なんだこれ。


 心の整理がつかないまま、視界に映っていた闘技場は雲のように消え去る。代わりにうっすらと広がった霧が霧散すると、見たことのない風景に変わる。


広がる景色は山に囲まれたどこかの畑の中で、僕は鍬を持っていた。鍬を握る手にはしわが寄っていて、目線も高く、全身から感じる違和感から元に戻っていないことだけはわかった。


その一瞬のあとまた霧が広がり、また消える。次に見えたのは、上空からの街並みだった。森の中、多くの家が石造りでできていた。ただ不格好で四角いだけの家々が並んでいる。


どこなのか、なんで見えるのか全くわからない。そんな事とはそれ無関係にそれらは消えていく。どこかわからない場所で何かわからないものをしばらくのあいだ見続けた。そのあと、スライドショーは収まり暗闇の世界だけが目の前に広がる。暗闇が広がると同時に僕の意識もゆっくりと遠のいていった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

投稿ペースはマイペースにゆっくり書くつもりです。少しずつでも更新していく予定ではありますのでたまに覗いて頂けたら嬉しいです。

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