『真夜中』
「ねえ、棗。この前言ってた“最近あった面白い事”、その後何か進展あった?」
相変わらず客の気配がしないBarにたむろしている例の連中。
そこで各々がお酒を楽しんでいる中、唐突に秀星が口を開いた。
相変わらず、以前学校から出された課題を必死にやっていた赤髪の“昴”と呼ばれた男は姿を見せないが、それでもここは正常に動いていく。
「いーや、何も。あの子最近毎回送り迎えが付いちゃってね、妙に警戒されてるみたいなんだよな」
そう言う棗は、警戒されるような態度を取ったのは自分自身だというのに、なんだか面白くなさそうな口ぶりだ。
「へえ。そうなんだ。……ね、その子って蒼と友達だったりしない?」
だが、秀星からしたらそんな棗の状況さえも面白いらしく、棗の話に返す様は楽し気だ。
そして聞いたのは、美月にとってはクラスメイトでもあり、同じバイト先の仲間でもある彼との関係。
まるで、本当はこちらの方が本題だとでも言うように。
「あー、そうそう。蒼のクラスメイトらしいぞ」
「やっぱり」
思っていた通りだと言う彼の口元に浮かぶのは、爽やかな笑み。
だが、その笑みの裏に何か良からぬことを考えているのではないかと想像してしまうのは、彼のいつもの言動のせいだろう。
「は?“やっぱり”ってなんだよ」
そう怪訝そうに尋ねる棗の疑問には、正当性を帯びている。
「まあ、俺の方でも色々と調べててね。ねえ、その子って藤堂 美月ちゃんでしょ?」
秀星はそう言って自分のスマートフォンを取り出すと、そこに写った写真を棗に見せた。
「名前も顔もあってるけど……。やっぱお前の情報網凄いな」
『ちょっと調べてる』と言っていた、その“ちょっと”がどの位のものなのかは分からないが、それでもこれだけの事を短時間で調べられるこの男の底が全く知れない。
棗が苦笑いを浮かべていると、隣に座っている悠真が秀星のスマートフォンに手を伸ばした。
それを見た秀星が悠真の手の平の上に自分のスマートフォンを乗せる。
すると悠真は、そこに写る写真を見ながら「藤堂 美月か、」と呟いた。
彼らは戦闘員でありながらも、どのグループにも所属しない存在。
特に夜の繁華街によく現れる彼らは、喧嘩を好み、縛られることを嫌う。
そんな彼らのルールの中に“非戦闘員に危害を加えてはいけない”なんてものは無い。
戦闘員だろうと非戦闘員だろうと、女だろうと男だろうと、目を付けられた者は気絶するまで攻撃される。
今となっては彼らの存在は4区だけでなく全国にまで知れ渡り、その誰にも媚びない態度から熱狂的なファンも増えていった。
彼らに対して人々は多種多様な反応を示す。
憧れる者、恐怖する者、好く者、嫌う者。
そんな彼らを人は『Midnight』と呼ぶ。