ハァ?何言ってんの、コイツ・・・
そうかそうか、漸く来やがったか。事前に通達してあった様に二人は避難させたな。良し!マナポーションの代金はオレが持つ、回復職のヤツらに十分渡してくれ。
さあて、楽しいパーティーの始まりだ。
沢山の冒険者がワイワイと騒がしく語り合い飲み食いをする酒場、そこと通路を挟んだ場所で制服を着た職員がカウンターに座り冒険者相手に対応したり忙しく動き回る職場。冒険者ギルドと呼ばれる場所。いつもならどちらからも大声で怒鳴り合ったり、語り合ったりと騒々しいのだが、今はしんと静まり返っていた。今日もここで又ひと悶着が起こっていたからだ。新人相手に脅した不良冒険者が先輩冒険者に蹴散らされたり、分け前の分配で揉めたり、パーティーを追放するしない等様々な揉め事が起こるのは当たり前の為普段なら周りの者達は気にもしない。酒の肴とばかりに囃し立てる者も現れるくらいだ。それが誰も騒がず静まり返っており、ギルド職員達ですらその場で固まってしまっていた。
(・・・え~っと、この場合ギルマスを呼んだ方がいいんでしょうね)
建物奥の査定部屋から出て来たギルド職員の一人でもある私は、隣りで同じ様に固まっていた同僚の袖を引くとギルマスを呼んでくるように依頼して自分はもう一度渦中の人物達を確認する。
一人目は立派な鎧を身に纏い豪華な剣を腰に提げている男性だが、中身と全然合っていない。何処かの貴族のボンボンが使えない武器防具を身に着けて威勢を張っている様にしか見えない。確かつい最近第四騎士団団長に就任したワルサー様のはずだ。
二人目は若草色のローブに螺旋くれた杖を持つ長身の男性で、魔術師の姿をしているが全然様になって無い。宮廷魔術師になったバーカー様だ。
三人目は上等の布で仕立てた服を綺麗に着こなしている男性で、眼鏡をかけて知的な振りをしているがただの伊達眼鏡なのは本人以外にバレバレなのに気づいていない残念さんだ。第三王子の護衛兼秘書の方でヌケーサ様のはず。一応腰に細剣を吊るしているのは護身用なんだろう。
そして四人目が一番の曲者でこの国の第三王子でアッポー様だ。異様に飾り立てた豪華な鎧に赤いマント、その上実用性皆無としか言いようのない長剣を腰に提げて何故か腕を組んで踏ん反り返っているのは、何様のつもりだろう。
その四人組に目の前に立たれているのは一組の冒険者夫婦だ。
男性の方は布の服の上に革の鎧を着て腰に短剣を提げた魔術師でマックスさん。魔術師でありながら剣士としての実力もある元宮廷魔術師で現在ギルドの金級冒険者だ。
女性の方は厚手の革のドレスに革の鎧を着た槍使いでセナさん。マックスさんと同じ金級冒険者でその槍の腕前と綺麗に流れる金髪から『金の戦乙女』とギルド内で呼ばれている。因みにマックスさんは『エインヘリヤル』で、そう呼ばれるとそっぽを向いてしまう。顔を赤くして照れているのでよく職員や冒険者仲間に揶揄われているのは仕方ないことだ。
(ま、あの話題のせいでピッタリなんですからね~)
ちょっと現実逃避していたところで、ハッとするとゆっくりと近づいて先ずはガタガタと震えて顔面蒼白な職員をカウンター席から下がらせる。その可哀そうな職員は私にすまなそうに頭を下げて後ろに逃げ切るのを確認すると、笑顔の鉄面皮を貼り付けて目の前のバカらしい出来事を片付ける為声を掛けた。
「申し訳ございませんが、只今こちらの二人は依頼終了の確認作業中です。ですので何かお話があるのでしたら、その作業終了後にお声掛けしてください」
「?!黙れ、平民が!王子が直々に出向いてきているんだ!こちらの事案が優先されるのは当然だ!とっととこの二人を我々に引き渡せ!それともオマエ、王家の威光に盾突くつもりではないのだろうな?」
カウンター席に座る者として当然の対応をするが、この四人組の中で一番堪え性の無いワルサー様が怒りを表わにして詰め寄ってくる。他の三人も其々の顔に侮蔑や見下した表情で睨みつけてくるのに内心で盛大にため息をつく。
(ギルドが国に属さない独立組織なのすら気にしないとは・・・流石国一番の問題児共。もうこいつらなんて、敬う必要無いよね)
冒険者達は、日々様々な依頼と云う厄介ごとを解決している。薬草採取とか居なくなった子猫探しに下水道の清掃等からゴブリン退治に街道に出没する盗賊討伐、商人や貴族の護衛と多種多様に渡り依頼内容に依っては他国への移動だけでなくその地での活動もしなければならない。
その為冒険者を統括するギルドは全ての国に属さない独立組織として超法規的措置をされている。いうなれば自分達で勝手にする代わりにこっちも手を出さないからな、と云う訳であり其処には当然王家の威光云々なんて通用しない。仮に魔物の暴走とかが起きたとしても、自分達の居場所を守る為の協力はする程度で国を守るなんて気概も無い。精々自分達が気に入って住んで居る街を守る位だ。
「一応申し上げますと、『ギルドは国に属さない独立組織となっております。その為国に寄る庇護の一切を受けない代わりに国に寄る干渉の一切も受けない』となっております。従いまして王家の威光等と申されましてもそれに依る優先的事案は発生しません。そんなことも知らねえのか?このボンクラ共が!!」
毅然とした態度で話し、最後に殺気と共に言い放ってやる。案の定四人共顔を強張らせ腰を抜かして倒れこんでしまう。たかがギルドの一職員に対して情けないヤツらだ。
冒険者登録する為に受ける試験はたった一つ、私達職員の殺気に耐えることだけだ。但し荒くれ者が多いのでそれなりに実力が要る為、元冒険者が登録されるのが一般的だ。私自身も金級冒険者であり現役のころはそれなりに頑張っていた。『嗤う剣鬼』なんて誰が云いだしたんだか?それに先程飛ばした殺気にしてもコントロールして精々ゴブリン二匹程度のものだ。コイツらより年下の小さい子が蒼い顔をしながらも両足で踏ん張って立っていた時なんて、十匹分だ。因みにその子は、その光景を偶々見ていた先輩冒険者のパーティーに入れられて冒険者としてのマナーやルールを教わりながら実力を高めている。この間青銅級にランクアップしてお祝いしていた。
そのまま静かになったボンクラ共に目もくれず二人の依頼終了の処理を迅速に行う。
「お待たせいたしました。お二人が受けていました依頼『サール村付近の森の異変』の原因でしたブラッデイベアの討伐による異変解決の確認札を受領しました。こちらが依頼報酬と納品されましたブラッデイベアの買取金となります。どうぞ、お納めください」
カウンターの上に査定部屋から持って来た報酬の入った袋とギルドカードを乗せたトレーを置くと二人に笑顔で話し掛ける。
「それでは次の仕事が有りますので、すみませんがお二人はこのままお帰り下さいませ」
そうして二人が何か言う前に、周囲を見廻す。私の意図を察した冒険者達が直ぐに近寄ってくると「いいからいいから」「ほらほら、疲れてるんだろ」「早く帰って、ゆっくり休め休め」なんて言いながら建物の外に送り出し、駆け出し冒険者達が「今回の依頼に付いて聞かせてください」「どうやったら強くなれるんですか?」「今度私の魔術を見てください」「是非訓練の稽古をお願いします」等言い募りながら通りの向こうへと消えて行くのを扉から確認する。直ぐにバタンと閉められ閂が掛けられた。当然窓も施錠されおり、残っていた皆が自主的にテーブルやイスを片付けてくれた。これでギルド内だが、公開処刑の準備は完了だ。勿論、表には『CLOSED』の札を掲げてある。突然の閉店だが問題無いだろう。私達の足元で未だに腰を抜かしているボンクラ共に目を向ける。コイツらがここに入って来るのを街の皆も見ているので解っている。これからここで何が起こるかを。
建物内に残っている皆で取り囲んで静かにしていると、漸く異様な事態に気付いたのだろうヌケーサが震える声で喋り始める。
「な、なにをしているのですか!私達を誰だと思っているのですか!は、早く此処から出しなさい!さもないと貴方達、唯では済みませんよ!」
「そ、そうだぞ!い、今なら不問にしてやるぞ?だから、早く退けよ。退いてくれよ!」
ヌケーサに続いて必死になって虚勢を張るワルサー。バーカーとアッポーの二人は、何も言えず唯々震えているだけだ。そんな情けない連中に私達全員が殺気を抑えそれでも抑え切れない怒りで睨みつけていると、
「漸く来やがったか。世間知らずのお坊ちゃん共が」
圧倒的なまでの怒りのオーラと全開の殺気を身体中から迸らせそれら全てをボンクラ共にだけぶつけながら、巨漢の男性が姿を現す。膨張した筋肉のせいでビリビリに破けた制服の残骸を身に着け、白い髪は逆立っており天を衝くようだ。普段は温厚で優しい瞳の為『クマのおじちゃん』なんて近所の子供達に人気者であり、私の愛しの旦那様だ。この人はギルドマスターである為確かに普段でも怒る時もあるが、そんな時でも理知的に優しく諭す様に話し掛ける人だ。そんな人がこれだけ怒っているのだ、相当腹に据えかねたのだろう。
ジロリと一瞥すると、戦闘の時にしか見せない獰猛な笑顔で優しく語り掛ける。
「この二年間ず~っと待ってたんだ。オメエみてえなヤツでも一応王族だからな。表立ってテメエに何かしたらこっちの立場が不味くなるし、あの二人に迷惑が掛かるのは不味いからな。ほんっと~に待ち遠しかったぜ!今日が来るのをな~~!!!!」
彼が心底嬉しそうに語るのに合わせて、お互いに抱き着き合って震えている姿に少しスッとした。あくまで少しだけだが。そうしていると、「おい、お前行けよ!」「な、何で僕が!」「わ、私では無理です!」「は、早く僕の云う事を聞け!」なんて、押し付け合いした挙句最終的にアッポーが前に押し出される。
押し出されたソイツは、涙と鼻水を垂らしガクガクと震えてしゃくり上げながらも何とか話し出したので、仕方なく彼も言い聞かせるように答えてやる。
「お・・お前達!こ、こんなことをして・・・ど、どうなるか解っているのか!ふ、不敬罪で罰せられるんだぞ!そ、そればかり!そ、そうだ!この街だってどうなると思ってるんだ!王国軍が来てこの街を潰してしまうんだぞ!い、今ならまだ黙っていてやるから・・大人しく僕達を解放するんだ」
「ああ、それなら心配ねえぞ。オメエらがここに来て王族の威光とか言った時点で王族から追放されたんだからな。ギルドと国々の取決めの一つにこの決まり事があるんだ。『ギルド内にて国又は王族の権威を発動する事に及んだ場合その人物を追放し如何なる場合においても復帰を認めないこととする。又同様に国或いは王族等にギルドによる武力行使を行う等の行動及び準備行為を認められた場合当該ギルドの職員及び冒険者達全員を捕縛後魔境の森への追放処分とし、逃げ帰って来ても再度追放とする』要するにだ、オメエはもう王族でも無い。ただの平民なんだよ。勿論着いて来てそれを止めなかった坊ちゃん達も同罪さ。余計なトラブルなんて引き受けたく無いからな」
「ウ、嘘だ・・・そ、そんなの信じないぞ!第一そんな話一度も聞いてないんだ!デタラメを言うなんて!信じないぞ!信じるもんか!!デタラメに決まっている!!!」
「・・・流石頭の中がお花畑なだけのことはあるな。この国の救世主セナ=チャイルズ様に冤罪吹っ掛けて殺そうとしヤツらだ。そのくせ騙されたアバズレのレズニアってヤツには逃げられているんだからな、自業自得だ。ざまぁないぜ」
「何を言っているんですか?あのセナこそ比類なき悪女!レズニア様を階段から突き落として殺そうとした極悪人です!レズニア様は危険から身を守る為にお姿を隠されたのです、逃げ出すはずがありません!」
「そうだ!あの極悪人が生きていたら彼女が安心できねえんだ!俺達は正義の鉄槌を下す為にここに来たんだ!判ってんのか!判ったらあの二人をとっとと俺達に渡しやがれ!!!」
残りの三人の内ヌケーサ、ワルサーが騒ぎ出し最後の一人バーカーが必死になって頷くのを冷めた目で見下し、職員の一人が持って来てくれた幾つかの新聞を目の前に放り投げる。突然放り出された新聞の束と私達を前にして困惑しているのに業を煮やした冒険者達の一人が「読んでみな、面白いことが載ってるぜ」と最速する。
恐る恐る読み始めたボンクラ共が驚愕に顔を歪め持って来た他の新聞にも手を伸ばし、愕然としてしまう。そこにある内の一部の新聞にこう書かれていた。
[稀代の悪女!レズニア、国境近くにて逮捕!]
『本日十五日未明王国内で詐欺行為を働いていたレズニアを逮捕しました。彼女は王族第三王子アッポー様を初めとして、数多の高位貴族の子息を相手に言葉巧みに近付き様々な金品及び高額な芸術品等を奪い取りそれらを用意した馬車二十台に詰め込んで国外に脱出仕様としていました。旅商人を装い国境を越えようとしていましたが、検問の際提示した書類が魔術鑑定したところ、偽造と発覚。その場で逮捕されました。積み込まれた品々は全て高度な偽造魔法が施されており彼女と懇意にしていた元宮廷魔術師バーカー、押収した資料に国境警備のシフト表があることから同じく第四騎士団団長ワルサー、更に王家所有の秘宝が発見されたことから第三王子アッポー及び護衛兼付き人のヌケーサの計四名を国家転覆を図ったテロリストとして指名手配し、現在行方を追っています。
尚王家は他三家と共に記者会見を開き、一族からの追放宣言を正式に表明しました。
王家の従者による報告によりますと・・・・・』
他の新聞も全てが同じ内容で中には[稀代のアホ王子、貢いだ女に捨てられて]とか[史上最悪の四人組!国を滅亡させても悪女を選ぶ!]と中々にキツイことが書かれている。それらを読み進め途中から呆けてしまったボンクラ共に代表してギルドマスターの彼が宣言する。
「さて、これで少しは理解できたか?だが、テメエらボンクラ共はまだ全然自分達がやらかした罪について気付いてねえ。そこんところをキッチリ教えてやらなくちゃいけねえんだが・・・時間がねえからな。手っ取り早く肉体言語で教えてやるよ!所謂拳で語るってヤツだ。もっとも此処に居る全員で一方的にだがな!安心しな、治療師もいるからちゃ~んと治療してやるからな、お話し中もな」
それを聞きながら腕まくりをする隣りで、同僚達が拳にグローブを嵌め冒険者達が順番を決めるジャンケンを始めている。向こう側では治療師達が魔力ポーションを準備しているのが見えたので、優しい笑顔で拳を握り締める。
「安心しな。テメエらに剣なんて使ったら、剣の方が可哀そうになるからな。さて、覚悟も準備もできてなくても始めさせてもらおうか。その身体でとっくと味わえ!!!」
・・・・それから二日間ギルドは閉店したままだった。
ギルド内で捕縛されてから十日後の早朝。朝日すら昇らぬ暗い内に護送用の馬車が一台、轍の音を響かせながら街を出発した。乗せているのは、猿轡を噛ませ鎖で縛り上げ逃走防止の鉄球を付けたボンクラ共だ。これから彼らは送られた王都で裁判に掛けられる、そして罪に相応しい罰を与えられる。闇の中に溶ける様に消えて行く馬車をムスッと見送っていると頭の上にポンと手が置かれる。見上げてみれば、彼がいつもの通りの笑顔で見降ろしていた。
「仕方ないだろう、勝手に罰を与えると余計な軋轢が生まれてしまうからな。あれが、限界だ」
「それでもよ。私達やこの街の人達、この辺り一帯の人達に派遣された国軍全員が頑張って・・・何よりあの二人も必死になって努力して!漸く魔物の異常発生による暴走を終えたと思ったらアイツらの婚約破棄からの死刑騒ぎ!なんでセナちゃんの元婚約者があの第三王子なの!信じられないわよ!貴方の弟さんってバカでしょ!!!」
「その点については俺も同意する。如何にかして城の中で生き残らせようと考えた結果なんだろうがな・・・結局裏目に出てしまったな。こうなってしまったら最早切り捨てるしかない。幾ら身内に甘いアイツでも今回ばかりは決断するしかないだろう」
妻の頭を撫でながら遠く王都で頭を抱えているだろう現国王の弟のことを考える。この地方にあるダンジョンから大量の魔物が突然湧き出す突発的な行事、スタンピードと呼ばれている其れが起こったのが今から二年半程前。その時の規模が余りにも巨大すぎて援軍として国軍を派遣しなければ成らず、陣頭指揮を執るため王兄の自分が将軍として出なければならなかった。優しく少し気弱な弟では対応できないと考え自分から名乗り出た時、当時槍を使えば王都一と云われたセナもこれに参戦。彼女の親友にして宮廷魔術師だったマックスと共に目覚ましい戦果を挙げてみせ、半年程の期間を経てなんとか終結させたのだ。
その時ギルドの連絡係兼護衛として彼女と出会い一目惚れして終結後結婚したのは今でも笑い話として酒場で語られている。その為国軍の指揮をセナに代行してもらい王都に帰還してみれば、あの冤罪騒ぎだ。半年も地方で魔物の討伐に明け暮れていたセナが王都の学園に通うことはできない。それどころか学園への入学前には従軍してこっちに来ていたのだ。それなのに犯人呼ばわりとは一体どんな教育をしていたのか弟に問い詰めたいものだ。
自分が王族から抜けるための手続きに弟が動いている間に、あのレズニアと云う詐欺師に騙された文字通りのアホ王子が暴走して取り巻き共と一緒になって初めて登校したその日に婚約破棄と死刑宣告をしたのだ。それを受けたセナはその場で踵を返すと、そのまま実家のチャイルズ家に帰り偶々在宅していた両親にこのことを伝えこの街へトンボ返りで戻って来たのだ。
当然の如く激怒したセナの父である宰相は、直ぐに自分の仕事全てを休日返上の上徹夜で片付けると辞表と共に場内にある自分用デスクに置き退城。その間に荷造りを終えていた夫人と家人全員で領地に引き篭もってしまった。今もって城の内部は混乱しているはずだ。
マックスの場合は単純で、その話を聞くとその場で上司に「辞めます」と告げてこの街まで転移魔法の札で一気に戻って来たのだ。そうしてギルド内でセナが来るのを待ち続け、セナが現れると二人パーティーで登録して冒険者活動を始めた。
ずっと前からセナのことを思っていたようで、チャイルズ領の実家に結婚の承諾を願い出たのがセナがこの街に戻って来た次の日。それから長い期間を掛けて認めてもらい結婚の許可を貰ったのが二ヶ月前。結婚式を挙げた時は、多くの人々が駆け付けて盛大に祝福したものだ。
対してボンクラ共の方は散々叩かれた。できない筈のことを行ったと吹聴して周ったせいで、学園寮に謹慎後、何をしていたのか行動確認をしていた最中に詐欺女と共に逃げ出したのだ。王家所有の秘宝が多数無くなっていたのが確認されたのもその頃であり、今まで話題にすら挙がらなかったことから何とか秘密にしていたのだろう。甘すぎるヤツだ。
そして件の詐欺女だが、捕まえたのはチャイルズ家の手の者の筈だ。必ず見つけ出し然るべき罰を与えて見せると恐ろしいほど静かな声で話していたのだ。間違いないだろう。可愛がっていた自慢の娘をコケにされた報いを少しでも味合わせるため、おそらく国中の新聞社に声を掛けて詐欺女逮捕の記事を載せるよう依頼したはずだ。これでアイツらはもう終わりだ。
「・・・手紙も持たせておいたから、大丈夫だろ。それでもダメなら仕方ないが、王位簒奪を目論むしかないな。やりたく無いがな・・・・」
いい加減撫でるのを辞めて欲しくて見上げるが、遠く王都を見詰めているその顔を見てそのまま黙り込む。本当はそんなことはしたく無い筈だが、このまま王族として名誉ある最後を与えてやるのがせめてもの恩情だと手紙には書いてある。ここで幽閉等の恩情を与えては、国が崩壊すると云う危険の兆候が観えていることもしたためてある。
実際水面下でこの話が齎されていた。国力が落ちる危険性と隣国の視線に魔物の脅威を理由に何とか抑える事ができたが、このままだと王家の威信に傷が付いて内乱が起きかねない。
『こっちで何とか丸め込むから今の内にケリを即けろ』
その手紙を読んで泣きながらも国王として決断するしかない弟の苦悩を考え悲しんでいる夫を支えるのは自分の役目なのだから。それでもいい加減にして欲しいので気合を入れる意味も兼ねて思いっ切りその尻を引っ叩いてやる。
「テッーーーー!!何しやがるんだ?!」
「いい加減撫でるのを辞めなさい!何時まで続けるんですか!仕事は山ほどあるんですからね。さあ、とっとと戻って仕事を始めてください!」
体の後ろに廻りこんでグイグイと押し出すのに「解った解った」と言いながらされるがままにギルドへ向けて歩き出す私達に同行していた冒険者達の一人が笑いながら声を掛けてくる。
「なるほど、これのやり取りが夫婦円満の秘訣なんですね」
それに対して私は笑いながら答えてやった。
「ハァ?何言ってんの、コイツ・・・そんなの当たり前でしょ」
最後に現れた恐ろしい強さを持つ魔物、通称【国荒らし】
V S
対するは現ギルドマスター夫婦と現金級冒険者夫婦の四人パーティー
・
・
五日間の死闘の末四人パーティーが無事凱旋
その一人に冤罪の挙句殺そうなんてしたらこうなりますね。