番外編〜束の間の水遊び《中編》〜
危なかった。1ヶ月以内の約束を忘れていたぜ。
久しぶりの更新です。
中編ですので、先に前編をお読みになると幸いです。
後編も同様に1ヶ月以内で。
「ナルカ、周りを警戒してくれ。エレザ、ナルカのそばを離れないように」
「了解」
「了、解」
俺は2人にそう指示を出す。2人はそれを聞いてナルカは辺りの警戒を、エレザはナルカのそばに寄り、ナルカの反対側を見ている。
……ちょっと近くない?もうちょっとだけ離れても……。
嫉妬じゃないからな?
おっと、今はそれよりも……あった。
やはり血痕だ。乾き切っていないので、おそらくここ数分前の血。
森の中ってことは、普通は怪我をした魔物だろうか?
辺りに少しばかり撒き散らされて、その後ポタポタと垂れ流しながら、川の下流に降りて行ったと見るのが妥当かな?
……下流?……ココナ、シャルが危ない!
「ナルカ!剣、持ってきたか?」
「いや、ルキウスの家に置きっぱなしだ。どうしたんだ?魔物でも近くにいたのか?」
「多分魔物だ。血痕は下流に続いている。つまり、ココナとシャルが危ない!」
「ココナさんが⁉︎ルキウス、真剣を二本持ってくる!下流で合流しよう。もしもの時は……また答えてくれよ?」
「頼む!了解だ、任せろ」
ナルカは俺の言葉を聞くと同時に、その場を離れて俺の家へと戻っていった。
みんなと歩いてここまで15分。
でも、ナルカの本気なら……ここから家まで1、2分だな。
往復と下流への道のりを合わせて……6分程度を想定しよう。
俺が今する事はココナとシャラの安全を確かめて、もしもの時は守る事だ。
「エレザ、ちょっと失礼するよ?」
「え?……ひゃっ!る、ルキ?……お、重くない?」
「全然」
俺はエレザを軽々とお姫様抱っこをした。別に俺と同い年だが、エレザは女の子でしかもエルフ。
しかも、エレザが自分の体重を《風》で軽くしている。重さとしてはいつも自分が振っている真剣と同じぐらいか?
剣ならいつも振っているのでないのと同じだな。つまり、エレザの体重はないも同然という事だ。
エレザの顔が赤い。多分、体重のことを気にしているのだろう。
男子に担がれているんだ。年頃の女の子なら、『全然』と俺に言われたとしても気になるのだろう。
……よし、エレザの心配なんて杞憂だと分からせるために、頑張って俺の最速で下流に向かおうか。
「っ!」
軽く地面を蹴り、飛んだ先の木をさらに蹴って木の上あたりの枝に着地する。
もちろんエレザに無理はさせない範囲なので、正確には俺の最速ではないな。
枝は折れなさそうなものばかりを選んでいる。
折れそうでも折れる前に他の枝に飛び移れば良いだけだしな。
「わわっ……速い。……ルキ、いつも、この速さ……なの?」
少しばかり驚きながら、エレザは俺に加える腕の力を少しだけ強くした。
「まぁ、そんな所かな。エレザこそ大丈夫?」
「うん。ルキだから……大丈夫、かな。……ふわっ!ルキ、スピード……上がって、る?」
やべ、エレザの言葉で舞い上がって、スピードめちゃくちゃ上がってた。危ない危ない。
さて、血痕は所々間がありつつも、決して途切れることなく川の下流へと続いていた。
***
パシャパシャ!
下流の川の水が跳ねている音が聞こえた。ココナとシャルが水遊びをしているからだ。
「ココナちゃん、ココナちゃん。ココナちゃんは好きな人いる?」
「え?……ルキとパパ」
「……それ以外はいないの?例えばナルカ君とか」
「ナル?ナルがどうしてここで出てくるの?」
(逆にどうして出てこないの?)
シャルはそう考える。だが、今のココナにはナルカ君の事を、ルキ君のお友達という名の添え物扱いにしか見えないようにしか、シャルは見えない。
「それよりもさ。ルキってばまた学校のテストで100点だったんだよ!すごいよね!」
「へぇ。私はその辺り、80点ぐらいしか取ってなかったなぁ」
「私なんて50点あたりをうろうろしていたからね!」
「……それはちょっとまずいと思うよ?」
「そう?でも、アルフレッド先生は大丈夫だってーー」
「あの先生の事は忘れなさい」
「はーい」
シャルはココナにそう言って、嗜めるように言った。その姿はまるで姉と妹みたいな感じだった。
当然、ココナが妹に当たるが。
ガサ!
周りに生えた草花をかき分ける音が聞こえた。
その音徐々に大きくなり、どんどんこちらへと近づいて来るのがわかる。
「……ルキ?」
ココナがそう呟いた次の瞬間、そいつは姿を見せた。
プギャアアアアアアア!!!
そう鳴き声を上げながら、普通の猪の1.5倍の大きさを誇るだろう猪の魔物、その巨体がココナに迫る。
「ココナちゃん!」
シャルが悲鳴を上げる。ココナは全身が震えて動かない。
だが、その顔には明らかな絶望の2文字が似合う顔をしていた。
「た、助け、助けて!ルキーーっ!!!」
「了解、お姉ちゃん」
その声とともに猪の魔物が横に吹っ飛び、そのまま木にぶつかって止まる。
ココナは猪生物とは逆の、声が聞こえた方向を見る。そこに立っていたのは今し方自分が絶体絶命の危機に名前を呼び、そしてそれに答えてくれた愛する弟……と、その弟にお姫様抱っこで抱えられている女だった。
つまりエレザがお姫様抱っこでルキにべったりとくっ付いていたのだ。
「良かったお姉ちゃん。無事に傷一つなく間に合ってよかっーー」
「ルキに心を傷つけられたーーーーーっ!!!」
「えぇぇぇぇぇ⁉︎」
***
待ってろココナ。
俺はそう考えながら、エレザに配慮をしつつ全力で森の枝の上を飛びながら駆け回っていた。
その途中、1匹の魔物を見つけた。
全身が茶色の毛で覆われており、毛の色は猪と似ているが、大きさが明らかに違う。
猪の魔物は体長2〜3メートル。普通に立っていれば、ココナの身長よりも少し低い程度だろうか?
だが、あの大きさは明らかに猪では無い。あれは……確か、図鑑で見たことがある。現実世界では動物園でもあるな。
熊だ。それにあれは、熊と言ってもどう見ても魔物化している。体長は……4〜5メートルはあるぞ?
……血は出ていない。つまり、あの魔物が何かを襲い、その襲われた魔物が下流に逃げたので、熊の魔物はそれを追っていると言うことか?
……まずい、怪我をしているとは言え、何か得体の知れないものがココナたちに迫っている。
多分、さっき考えた猪の魔物とかか?怪我をしているせいで凶暴化し、見境がなくなっている状態ならば、ココナたちが非常に危険だ。
俺は全速力でゆっくりと弱る獲物を追い詰めるように歩く熊の魔物を少しだけ迂回して通り過ぎた。
その数十秒後、俺はココナが猪の魔物に襲われそうになっているのを見て、速攻で思わず魔物に蹴りを3発喰らわした。
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あと、私のもう1つの連載作品の
『目覚めて始まる異世界生活〜チートが無くても頑張って生きてみる件〜』
も、是非読んで見てください。