ナルカとエレザ
その後はシホル先生に教室に案内してもらい、自分の席に座って他の生徒が来るのを待った。
座席は一番後ろの窓側だ。色々ありがたいな。ココナとシャルは別の教室だ。
この学校は一学年に一クラスのみだ。
それから20分ぐらい経った頃だろう。一人目の人が入って来た。
それを合図のようにどんどん入って来て、十分ぐらいでほとんどの席が埋まった。
「なぁなぁ、お前名前は?俺ナルカって言うんだ」
突如隣に座った男の子が俺に対して名前を聞いて来た。髪は灰色で、わんぱく少年みたいな感じかな?
「俺?俺の名前はルキウスだ。ルキウス・グライガルスだ。宜しく、ナルカ」
そう言って俺は握手をしようと、手を差し出す。
「宜しくルキウス。ところでルキウスってどこに住んでるんだ?名字があるって事は偉いんだろ?」
ナルカは握手をした後にそんなことを聞いて来た。
「俺は向こうの山の麓あたりに大きい家があるだろう?あそこに住んでんだ」
俺は窓からでもかすかに見える我が家を指をさして、ナルカに自分の家の場所を伝える。
「あぁ、あの家か。誰が住んでるんだ?って思ってたけど……ルキウスだったのか。て言うか『ふもと』ってなんだ?」
「麓ってのは山の下あたりのことだよ。ついでに上のことを『頂上』、真ん中あたりを『中腹』って言うんだ」
「へぇー、やっぱお前頭いいんだな。やっぱり勉強ばっかやらされてんのか?」
「いや、俺は普段剣の修行ばっかしてるよ。父さんが上手いから、教えてくれてるんだ」
「って事は頭の良さは生まれつきか。てか剣を習ってるってやっぱいいな〜〜。俺なんていつも牛や馬の世話ばっかだぜ。『剣なんてお前には必要ない!』って親父には言われるしよ〜」
「あはは、でも俺は牛や馬の世話なんて全然できないな。まず、やった事ないし」
「いいなー、俺は剣士になりたいんだけど……家には剣なんて一本もないんだよな……今度教えてくれよ?」
「時間があればな。それに父さんにも許可を取ってからだし。それで良ければ教えてやるよ」
「あぁ、約束だぞ!」
良い、すごく良い。元の世界のあんなギスギスした関係とか正直言ってクソだな。
こんな風に仲良くなれて、友達も作れた。……友達だよな?それにしても子供ってスゲーな。
知らない子供同士でも、30秒あれば久しぶりに再会した旧友レベルまで行けるんだから。
「はーい、みんな席についてー。これからみんなの担任になります。シホルと言います。みんな宜しくねー」
「「「はーい」」」
いや、担任シホル先生かよ!……アルフレッド先生じゃなくて良かったけど。
そこからは自己紹介が始まった。自己紹介といっても、ほとんどが顔見知りらしく、名前と好きな食べ物なんかを言い合ったりしてた。
そして俺の番が来た。自己紹介にはあんまり良い思い出が無いが。
「えっと、ルキウス・グライガルスって言います。住んでいる場所は向こうにある山の下辺りです。最近は親に剣を習っていました。あまり同世代の人と遊んだ事がないので、遊ぶ時とかは是非誘ってください」
……これで良いんだろうか?麓とは言わなかったから住んでいる場所も分かるはずだ。
その後も自己紹介は進んでいく。一番興味を持たれたのが俺の時だったと、明らかに分かる態度だった。まぁ、お互い知り合いだしな。
その後は学校の案内だ。小さいためすぐに終わる。
その後は魔法適正の検査だ。
俺は小さい頃に受けているので、他の人みたいに期待なんてしない(早めに調べたのは素質があればそれを伸ばそうと言う考えから。みんなが期待しているのは、生活魔法が役立つからと、それもあるだろうが自分が特別扱いされるかも?と言う期待から……かな?)。
もっとも、この村には使える人はうちのリーシェくらいだろうから、適正があっても使えるかどうかは別だと思うが。
案の定俺には魔法適正は無かった。
「ルキウス、お前どうだった?つか、やけに早くなかったか?」
「無いよ。俺は前に測ってもらったことがあるから、パスした。ナルカ、お前は?」
「俺もだぜ。あれ使えたら便利だって、ばあちゃん言ってたんだけどな〜」
「まぁ、俺も期待はしてなかったけど、やっぱり使ってみたいよな」
「だよな〜。……でも、1人だけ使えるやつ居たぜ」
「マジで!俺結果分かってたからぼーっとしてて、知らなかったけど、一体誰なんだ?」
「あいつだよ、あの青い髪の」
ナルカはその方向を指差す。そこには長くて綺麗な青の……いや、藍色の方がしっくりくるな。
そんな髪をした女の子だった。肌は色白ですごく綺麗だ。1人だけだったので、今が声かけやすいタイミングだと思い、ナルカに提案をする。
「へぇ、良いな。今度使える魔法とかあったら、見してもらおうぜ?」
俺がそう言ってその子に近づこうとすると、ナルカが俺の方を掴む。
俺はその行動で足が止まり、ナルカの方に振り返る。
「どうしたナルカ?」
「やめとけルキウス、あいつはハーフエルフだぞ?」
「ハーフエルフ?」
よく見ると、耳がとんがっている。むしろラッキーじゃないか?……あぁ、そう言えば、本を読んでいる時にあった気がする。
確か……エルフは魔族の見方をしたんだっけ?確か、味方をしたのは一部の強硬派のエルフだったはずだけど……。
人族からしたら、エルフは全て敵って思われているのか?それともこんな辺境じゃ、『エルフは魔族の味方をした』とだけの、曖昧な伝わり方をしているのかもしれないな。
「ハーフとは言え、エルフだ。俺たち人族の敵だぞ?ルキウスもあいつには関わんない方が『忠告ありがとうな、ナルカ。でも、俺は人から聞いただけの話よりも、実際に自分で体験した方が分かると思うから、あの子とどう接するかは俺自身で決めるよ』…………そ、そうか……後で結果だけ教えてくれよ」
「おう」
さてと、エルフを見るなんて初めてだからな。なんだか緊張してきたぞ。
そう考えつつも、俺はその子の元へと近づいていく。向こうも俺のことに気づいたらしい。
「……何?……」
その子はジト目でこちらをちらりと一瞬だけ見て、目線を外しそう聞いてきた。
近くで見ると、すごく綺麗で可愛く感じる。目の色も藍色で、こう……サファイアが一番しっくりくるな。あと、無口ってことが一言で分かる。
「ねぇ、君名前なんていうの?俺はルキウスって名前なんだけど」
「……なんで……話しかけてくるの?」
「なんでって……魔法適正あるんでしょ?魔法見て見たいんだよ」
ちなみにリーシェが使える魔法は治癒魔法だ。一回も使ったことは見たことがない。
治癒魔法を使って見せてはおかしいだろと思うしな。この子の魔法適正が何かは知らないが、これで治癒魔法なら笑い話だろう。
「……私、ハーフエルフだよ?」
「見たら分かるよ。それがどうかしたの?」
俺が聞き返すと、その子は目を見張り、こちらを凝視する。
「俺、おかしいこと言った?『エルフは魔族の味方をした。なのになんでわざわざ話しかけてくるの?』って思ってる?」
「……ん……」
「確かにそうだね。でも、あれをやったのは一部のエルフでしょ?君自身がやったわけじゃ無いだろう?だから、それと君に話しかけるのに関係は無い。もし関係があるなら、人が何か罪を犯したら、人族全員が悪いってことになるじゃん。それっておかしいだろ?だからエルフが魔族の味方をしたことと、君自身が悪いかどうかは関係が無いだろう?」
「…………」
俺がそう言うと、その子は黙って下を向いた。
「どうしたの?黙って?」
「……あ、ありがとう……そんな風に言ってくれた人、初めて……」
「別に普通だよ?俺はただ魔法を見たいから、君に声かけただけであって、俺も君を利用しようとしてるんだから」
「……それでも……嬉しかった……」
その子はにこりと微笑み、こちらを先ほどのジト目では無く、優しい目でこちらを見る。
「あ、そ、そうか。……それで、君の名前は?」
「私?……私は……エレザ。エレザ・フォン・クロイツェフ」
これがエレザとの出会いだった。
面白かったら誤字脱字報告、ブクマ、ptお願いします。
あと、私のもう1つの連載作品の
『目覚めて始まる異世界生活〜チートが無くても頑張って生きてみる件〜』
も、是非読んで見てください。