風見鶏
わたしは風見鶏。プラスチックのニワトリ。もうボロボロ。
庭の、物干し竿をかける柱のてっぺんに立っている。ここの平屋のトタン屋根よりちょっと高い。
ここんちのおじいさんは、五年前に奥さんを亡くしてから、ずっと一人暮らし。となり町に娘さん家族が住んでいるけど、最近はめったにやってこない。
わたしはその娘さんの子供の海斗くんにつくってもらった。七年前、海斗くんが小学三年生のとき、科学と学習の付録として。
ナイショだけど、わたしは飛べる。ときどき、おじいさんの目をぬすんで、スズメやカラスとじゃれあって遊ぶ。
あまり遠くへは行かない。ずっとまえ、風に流されて、迷子になりかけたことがある。そのときは、たまたま知り合いのシジュウカラに出会えて、帰ってこられた。おじいさんにはばれなかった。
それにしても、けさは、おじいさん、起きてくるのおそいなあ。もうすっかり明るくなっているんだけどなあ。いつもは太陽が半分顔をみせたころに、庭にでてきて体操をするのに。いままで、寝坊したことなんてないのに。どうしたんだろう。
ちょっと飛び立って、窓からのぞいてみよう。といっても、雨戸がしまっていて、なかがみえないな。よし、この小さい節穴からみてみよう。
うすぐらくてよくわからないなあ……。あ、たおれている! ちゃぶ台のまえで、うつぶせになって、ぴくぴくうごいている。たいへんだあ。知らせなきゃ。
わたしはせまい庭をせいいっぱい助走し、えいっと浮き上がる。そして、となり町にむかって飛んでいく。娘さん夫婦の家へと、風にさからって飛んでいく。ゆらゆら、ふらふら、ボロボロの羽をばたつかせて飛んでいく。
あ、海斗くんだ。玄関前に自転車をとめて、荷台に学生カバンをつけているところだ。
──海斗くーん。
「あ、おじいさんとこの風見鶏だ」
──おじいさんがたいへんなんだ。来てよ。
「おじいさんになにかあったのかな。行ってみよう」
海斗くんは自転車に乗って走り出した。
わたしは海斗くんのすぐうしろを飛んでいく。
あ、あれは! おじいさんちの屋根のずうーっと上のほう。すうーっと昇っていく。
──わああ、待ってえー! 連れてってよー!
わたしはボロボロの羽をせいいっぱいばたつかせ、おじいさんを追いかけて、どんどん、どんどん、昇っていく。