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8.宮廷魔術師

「知らない天井だ」


 目を開けた瞬間にまだよく回らない思考の中、そんなラノベなどでありがちな台詞が出てきた。確かに少しずつハッキリし始める頭の中で、ここが俺の知らない場所であることが分かった。

 そこで意識のある最後の記憶を思い出す。


「確か、練兵場で魔術の練習をして、その途中で失敗して……」


 魔術の詠唱中に集中が乱れ、吹き飛ばされた気がする。直後に後頭部を襲った衝撃、そこから記憶がない。


「つまり誰かが運んでくれてたってわけか……」


「姫が運んでくれたんだよ」


「えっ?」


 俺の呟きに対する返事が返ってきたことで、この部屋にいる別の存在にようやく気付いた。


「具合はどうかな?とりあえず頭を強打したみたいだから念入りに治癒魔術をかけておいたんだけど」


「あ、はい、大丈夫みたいです」


 体を起こし、軽く頭を振って具合を確かめる。特に違和感を感じたりはしなかった。


「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。キミは勇者様なんだろ?むしろこっちがそんな感じの態度を取るべきだと思うんだけど」


「いえ、大丈夫で……。いや、大丈夫だ。特に痛みとかは感じない」


「そっかそっか、なら良かった」


 砕けた態度でくる向こうに合わせてこっちも敬語をやめ、自分の状態を伝えると彼女は微笑んだ。


 ここで目の前にいる人物をしっかりと視界に収める。


 ショートカットの明るい茶色の髪に優しげにこちらを見る薄青の瞳。背はルルよりも低い。ちなみに身長170程の俺の顎辺りにルル、おそらく目の前にいる彼女は、俺が立ち上がったら胸辺りだろうか。顔立ちは背や彼女の華奢な体格もあって、やや幼さを感じさせるため、美しいというよりはかわいいという印象を受ける。


「どうしたんだい?そんなに見つめて。あ、もしかしてボクに見惚れてた?」


 そしてまさかのボクっ娘。


「あ、すまん。初めて見る顔だったからな」


「そうだねー。最近は部屋にこもってたから、見たことがないのも納得だね。ボクはエレナ。この国の宮廷魔術師の1人、気軽にエレナお姉さんって呼んでね」


 なるほど。確かにエレナの着ているローブは召喚された初日に着ている人がいた。


「いや、お姉さんて……」


「あっ⁉︎今ちょっとバカにしたね⁉︎これでも今年で19になるからキミより歳上なんだからね」


「そうなのか、悪い。俺は知ってるかもだけど藤崎 蓮。まずは助けてくれてありがとう」


「うんうん、素直に謝れるのはいいことだ。よろしくねレン。あとお礼なら姫にも言っておきなよ?」


「姫ってのはルルのことだよな?」


「そう、ルルーシャ姫のことだよ。ボクは気が合って歳も近かったから友人をやらせてもらってるんだ」


「へぇー、そうなのか」


「姫が血相変えて<身体強化(ブースト)>まで使ってキミを抱えてこの部屋に飛び込んで来た時は驚いたよ。姫のあんな様子は珍しかったけど、とりあえず説教は確定だろうね」


「マジか……」


 運んでくれたのはルルだったか。聞いた通りの様子だったならば結構な心配をかけてしまったようだ。確かに勝手にやっていたのは悪いとは思う。ただ説教か……


「ところでレン、キミは練兵場で何をしていたんだい?」


「ああ、それはだなーー」


 エレナには俺が練兵場で魔術の練習をしていたこと、イメージによってどのくらい魔術に影響があるのか試していたことを話した。


「へぇー、とても面白そうなことをやっているんだね」


「ああ、俺は魔力が少ないし、適性も治癒魔術にほんの少しだからできることを少しでも増やしておこうと思ってな」


「ん?キミは治癒魔術に適性があるのかい?」


「え?まあ少しだけど、あるにはあるぞ」


「ならボクがアドバイスとかしてあげようか?これでも若くして宮廷魔術師になった天才みたいなことをなった当時は騒がれていたんだぜ?それにボクは治癒魔術専門みたいなもので、他の魔術は使えなくもないけど、キミの適性が治癒魔術なら教えられることはあるはずだ」


「それは嬉しいけど、いいのか?」


「もちろん、このボクがいいって言ってるんだ。それにキミ自身にも興味が湧いたしね」


「俺に興味って、なんか実験でもする気かよ」


「違う違う。キミの魔術に対する考え方とか、別世界の住人だから気づくこととかあるかもでしょ?それにキミとはなんだか上手くやれそうだ」


「そうか?そう言ってくれるのは嬉しいな。なら、お願いするよ」


「ああ、任されたよ」


 そのあとエレナとは魔術に関してや今後の予定についても話し合った。


 そして話がひと段落したところにこの部屋の扉がノックされた。


「エレナ、レン様のご様子はどうでしょうか?」


 そんな問いかけとともに入って来たのはルルだ。


「ああ、おかえり、姫。レンならもう起きてるよ」


 そんなエレナの答えを聞き、ベッドに腰掛けている俺を見て安堵のため息。


 そして俺の無事を二、三質問し、確認すると、ルルの表情が変わり説教が始まってしまった。内容は俺が何故1人で練兵場にいたのか、自主訓練だと答えれば何故自分に声をかけてくれなかったのか、というもので、下手に反論しようものなら、さらに反論を被せられ、どんどんルルの説教はヒートアップしてしまった。


 その後、ある程度まとまったと思われるころに、エレナがこれから俺に魔術のアドバイスをしていくことと、自主訓練に自分も参加し監督すると伝えたことでルルの熱のこもった説教は終わりを迎えるのであった。

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