7.試行錯誤の自主訓練
宴の翌日、今日もすっかり日課になった勉強と訓練をこなし、自由時間になった俺は先程終わった訓練から少し休憩を挟み、再び練兵場に来ていた。
理由としては自主訓練だ。それなりに知識も集めているし、戦闘力も一般的男子高校生から少し武術を齧ったやつくらいにはなっただろうか。多少は向上していると信じたい。
しかし、別に天才的な武術の才があるわけではなく、ましてや魔術の才があるわけでもないので、魔族の対抗戦力として人々を守る役目とかを目標とすると何年かかるか分かったもんじゃない。というよりも、時間をかけて俺がそんなことができるようになるのなら他の天才とか、既に強者として名を馳せている人に頼むとかした方が、いつ攻めて来るか分からない敵に対する即戦力として期待できるだろう。
つまり、俺はその役目を背負うか背負えないか、もしくは放棄するかは別として自分の身を守る力をつける必要がある。しかし、先程言ったようにそんなすぐに強くはなれない。
ではどうするか。
俺なりに考えて思いついた方法。
その一はこのまま地道に訓練を続けること。とにかく戦える体を作る必要があるためこれからも鍛えていく予定だ。
その二は経験を積むこと。経験というものはとても重要だ。多ければ多いほど目の前の障害に対する選択肢が増える。結果、生存確率を上げられる。ただ、まだ外に出て魔物と戦ったりする許可、というか城を勝手に出ることもできないので今は無理だ。
そしてその三、奥の手だ。戦いで切れる手札は多ければ多いほど良い。これは経験を積むことも関係するが、少しでも使える魔術を増やすとか、何か最後の最後で逆転、もしくは好機へと繋がる一手を持つことは大きいと思う。だから決して中二的思考で必殺技欲しいとかそんな単純な考えでやろうと思っているわけではない。本当に。マジで。
というわけでこんな感じのことを考えたあたりから魔力操作の練習なんかも始めたりしている。
適性が無くても魔術が使えないわけじゃないと分かったので、魔力の効率的な使い方を身に付けようとしているのだ。
ルルの説明で分かったが魔術を使う時に使われる魔力には多少の無駄があるようだ。その無駄は熟練度と魔力操作の技術で減らすことができると言われた。だから俺の少ない手持ちの魔力の省エネ化を実現するために魔力操作の練習をしている。
そして、練兵場でやりたかった訓練。魔術の練習だ。魔術についてはルルの講義や本で調べているし、適性のある治癒魔術訓練でできたも擦り傷や切り傷を治したりして練習もしているのだが今日やるのは<魔弾>という魔術だ。
<魔弾>はざっくり説明すると魔力の塊を発射する魔術だ。これだけ聞くとたいしたことはなさそうだが、この魔術は熟練度や込める魔力の量によって個人差が他の魔術よりも分かりやすく激しいらしい。素人が放てば一般男性の拳、一流が放てば砲弾、とかなり極端だそうだ。
そして、魔力の塊を放つだけのこの魔術は、簡単(な方)な上に無属性の魔術なのだ。
無属性はそのままの意味で属性の適性が関係ない。<魔弾>の他には<身体強化>などファンタジーにはありがちなものもあるらしい。<魔弾>も十分ありがちだとは思うが。
とにかく、この簡単とされる魔術に軽く一工夫加えてそれなりの威力に昇華させ、手札の一枚とするのが狙いである。
俺は、練兵場の端にある魔術の練習用の的として置かれている丸太を少し離れたところに立てる。
そして手を丸太に向け、
「我が障害を退けよ、<魔弾>!」
と、魔力を手に集める意識をしながら本に書いてあった通りに唱える。
すると、掌に集まった魔力は丸太目掛けて発射され、直撃。丸太が倒れる。威力はお察しの通り、ただのパンチ程度。
丸太に近づきもう一度立てる。再び離れ丸太に手を向け、
「我が障害を退けよ、<魔弾>!」
今度は同じぐらいの魔力を手に集め、そこに回転する弾丸を想像する。
すると今度は、魔力の塊が直撃するなり丸太は大きく吹き飛ぶ。近づき丸太を見ると、<魔弾>が当たった部分が少し抉れていた。
「よし!」
と、ガッツポーズ。ちゃんと成果はあった。
俺がこの魔術を知った時にイメージしたものは魔力の弾丸だった。しかし、話を聞く限り素人が放ったものは人の拳。つまり、硬いボールが結構な勢いで飛んでいくようなもの。
それでもルルがよく言っている「魔術は想像が大切」という言葉の意味を考えて、実験してみることにした。その結果が先程の2発目の<魔弾>。1発目とは段違いの威力になった。改めてイメージの大切さというものが分かった。
あとはこれを繰り返し、熟練度を上げていく。いずれは無詠唱で使えるようにしたい。
とりあえずまた丸太を立て、離れて手を向ける。威力を上げてみようと、魔力を先程よりも多く練り上げ、集中。
そして、
「我が障害をしりぞーーー」
「あれ、レン様。こんなところでどうしたのですか?」
いざ魔術を放とうとした時、そんな声に意識を取られる。そして、まだ未熟な俺の技術によって掌に集められた魔力は制御を失い、
「あ」
そんな気の抜けた俺の声をかき消すように、激しめの音を立て爆発した。不幸にも先程より多く込めた魔力の爆発により、後方に吹き飛ばされる。
結構な勢いで飛ばされた俺は、練習用の丸太置き場へ後ろ向きに直撃。丸太に頭を打ち付けた。
「レン様ッ⁉︎」
そんなルルの叫び声が聞こえる。薄れゆく意識の中で、もし次やるときは誰かに監督してもらおうと、強く思う俺だった。
初めて魔術とか詠唱を出しました。詠唱考えるの難しい……