5.異世界の生活
あれから一週間ほど経った。
ルルの講義とルークさんの訓練は毎日行なっている。講義は先生が優秀なこともあって理解しやすく、また空いた時間に自由に出入りを許可された城の図書館で、俺が興味のある本をよく読んでいるので、なかなか捗っていた。
訓練に関しては、いずれ戦場に出る可能性があることや、この世界にはやはり異世界らしく魔物が存在していることも分かったので、俺なりに努力している。ルークさんもあまり無理をさせるつもりもないらしく、俺が耐えられないようなハードなメニューを組んだりはせず、俺の成長度合いなど様子を見ながら細かく調整をしてくれていた。
人の環境適応能力というのは優秀なもので、最初は重くて剣を振ることも安定しなかったが、今では剣の重さに引っ張られないくらいにはマシになったし、この異世界での生活にも多少慣れたと思う。
そして今日の昼食、俺の前には国王様がいる。ここ一週間の食事で国王様も一緒になるのは朝食と夕食で昼は仕事をしているらしく、ルルと2人だった。まあ正確にはメイドさんとかもいたんだけど。とにかく珍しく昼食の席に出てきた国王様は俺に話があるようだ。
「レン殿、突然だが明後日あたりにそなたを歓迎する宴を行いたい。一週間ほど経った今、こちらの生活にも多少は慣れたであろう」
「はい。まあおかげさまでそれなりに生活にも慣れることはできました。しかし、俺は基本的にそういうものには慣れていないので、俺の歓迎というのはとても嬉しいんですが、全然気にしなくて大丈夫ですよ?」
俺は人前に出るのがそんなに得意ではない。だからありがたいが、とりあえず断ってみる。
ちなみに俺の言葉が国王に使うには気安いと思うだろうけどそこは国王直々にお許しを貰ったのであまり堅苦しい敬語を使わなくても済んでいる。
「いや、確かに歓迎の宴なのだが同時に他の貴族たちへの勇者のお披露目会のような意味もあるのだ。貴族たちは今代の勇者を一目見ようと宴の提案などが多くての。今まではレン殿も慣れぬ生活で苦労している時にさらに苦労させてしまうのは良くないと思い貴族たちを説得していたのだが、そろそろ抑えるのも難しくなってきたというのが本音でもある。ここは儂に免じて出席してもらうことはできないだろうか」
なるほど。そういう意味だったのか。確かに俺のイメージの貴族というものは、プライドが高いとか、自己中心的なやつとかそんなマイナスイメージが強い。ただの偏見だと思うけど。
しかしそんな奴らから文句を言われ続け、それを抑えるというのはものすごく疲れそうだ。そして抑えてた理由は俺への配慮だったので、この少し疲れたような表情を浮かべる国王様には少し悪いと感じなくもない。
まあ、勝手に呼び出して勝手に相手が困ってるだけという見方もできなくもないのだが、それなりに友好的に関係を維持していくにはワガママな態度を取っていては難しいだろう。
「はい、そういうことなら。出席させてもらいます」
「おお、そうか。ありがたい」
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そんな会話があったあと、今は午後の訓練だ。
とりあえず今の俺は応用なんかできるような状態ではないので、いつものように走り込みや素振りなど、身体を作るトレーニングをしていた。
「では、少し休憩にしましょうか」
素振りをしていた俺に同じく素振りをしていたルークさんが言う。ちなみに同じメニューをルークさんも一緒に行っている。同じようにやっていたはずなのに、ルークさんは涼しい顔をしていて、汗をかいている俺とは大違いだ。さすが、副団長。鍛え方が違う。
「そういえばルークさん。ルークさんは副団長なんですよね?」
「そうですよ。それがどうかしましたか?」
「団長はどこにいるんですか?」
そういえばと思って聞いてみた。ルークさんは副団長なのだが団長らしき人を俺は見かけた記憶がない。もしかしたら気づいてないだけかもしれないが。
「団長はですね、今は遠征に行っているんですよ」
「遠征?」
「はい。我が騎士団には二年に一度、一ヶ月ほどの強化遠征に行くんです。そしてその時にはそれなりの人数を連れて行きますから現場の指揮に問題が出ないように団長と私が遠征と留守を交代でやるんです」
「そんなものがあるんですね」
「その効果はなかなかのもので、化ける人は化けるんですよ、これが」
強化遠征か。人が化けるとかかなりきついんだろうな、それ。
そのあとしばらく会話をしたところで休憩が終了し、また訓練に戻るのだった。