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4.レインハーツ王国蒼天騎士団副団長

「はぁー、またこんな微妙な……」


「あはは……」


 深いため息をつきながら項垂れる俺の隣で苦笑しているのはルルだ。


 あの後魔術の適性を調べる魔道具のある部屋に案内され、適性を調べた。しかし結果は微妙の一言。決して無かった訳ではないのだが治癒魔術に多少適性があるとのことだった。

 魔術は適性が無くても使えないわけではないのだが、消費魔力が適性が無いほど多く、効果も薄い為、実戦で使用するには厳しいもので、基本的には適性のある属性の魔術を使うことが普通である。


 そして俺の適性は本当に少し。無いよりはマシというもので、魔力量の問題もあり実戦で使うのは厳しいと言われてしまった。


「このままだと、俺、本当に戦えなくね?」


「適性に関しては後天的に変化する事は特殊な要因がない限り変化する事はないとされているので、確かに魔術を使用しての戦闘は……厳しいでしょう。しかしやり方次第ではうまい使い方も見つかるかもしれません。諦めずに頑張っていきましょう」


「ああ、そうだな。後ろ向きに考えててもどうにもならないもんな」


 ルルはこう励ましてくれるが、本当にどうにかしないといけない。とりあえずできる事をするしかない。


「ルル、これからどうするんだ?」


「あ、はい。この後は城の練兵場にてレン様の戦闘訓練についての説明があります」


「わかった」


 そして練兵場へと歩き出したルルの後ろを、思考を「きっといいことある」と、どうにか前向きにしながらついて行った。





 ーーーーーーーーーーーーーーー





 ルルについていき練兵場に着いた。城の練兵場はとても広く、端の方には訓練に使うのであろう武器や道具が並べられていて、井戸もあった。


「こちらがレン様の今日から訓練の教官になるルーク殿にございます」


「ご紹介にあずかりました、私レインハーツ国蒼天騎士団副団長ルーク・フィアリスにございます」


 練兵場に着くなりルルの紹介のあと、丁寧な礼をしながら名乗ったのは二十代後半くらいの若く背の高い男だった。

 体の線は細くはないが、決して筋骨隆々な感じはしない。しかし纏う雰囲気が素人ながらにもただ者ではないと感じられた。


「どうも、藤崎 蓮です」


 名乗られたのでとりあえず名乗り返し、これから具体的に何をするのか訓練の計画を聞いてみた。


「まずは基礎訓練。ランニングや筋力トレーニング、素振りなど実戦に耐えられる体を作っていきます。次に戦闘訓練、実戦といった感じです。簡単に言いましたがそれなりに時間をかけ、様子を見ながら予定を変更していくので安心してください」


 という事らしい。計画を聞く限りでは無理せず体を慣らしていくという事だろう。


「では、早速始めていきましょうか」


「え、今からですか?」


「はい、でも安心してください。まずは様子見という事で我が国の騎士になるための恒例の行事のようなものを受けていただきます」


「まさか、あれをいきなりやるのですか?」


「あのようなものは慣れですからね。早めに経験をして損ということはないでしょう。それに訓練内容に関しては私に一任して頂けると陛下にお聞きしたのですが」


「……そうですか。お父様が仰ったのならば私から口を出すこともないでしょう。レン様、頑張ってください」


「え、何か嫌な予感がするんだけど」


 これから何をするにしても嫌な予感しかしないんだが。


「これからレン様には私の全力の殺気を浴びてもらいます」


「殺気?」


「はい。実戦において相手の殺気に怯むことは直接死に繋がります。故に我が国では新人達は私や団長など、ある程度実戦を経験した騎士達の殺気を浴びせることが恒例となっています。そういうものは慣れなので一定以上の実力者の全力の殺気を浴びることで慣れさせることにしているのです」


「だから俺にもそれをやれと?」


「はい」


 ルークさんはとてもいい笑顔で言った。何故か少し楽しそうに見える。


「ちなみに慣れていない者はその場で気絶する者も少なくありません」


 マジかよ……


 そうして練兵場の真ん中へと向かい合って立つ。するとルークさんは俺に剣を渡し、少し距離をとって自身は腰にさした剣を抜いた。


「あの、殺気を浴びせるだけなんじゃ?」


「雰囲気作りですよ。雰囲気」


 この人絶対楽しんでる。


「それでは、勇者様も剣を抜いてください」


「わかりました。あと俺のことは名前でいいですよ。年下だし」


「はい、ではレン殿。剣を」


 言われた通り剣を抜き、なんとなくで構えてみる。初めて握った剣は重く感じた。


「それでは、いきます」


「ッ⁉︎」


 ルークさんがそう言って剣を構えた瞬間空気が変わった。


 うまく言えないが体から熱が一気に抜けていくような、そんな感覚。冷や汗と体の震えが止まらない。


「殺気というものは、今からお前を殺す、ということを行動ではなく空気で相手に伝えること。気圧されれば体は動かなくなり思考は止まる。殺気に対抗するためには慣れるか自身も殺気を相手へ向けること。あなたに今できることは、何ですかね?」


 呟くように向けられた問。お前は何もできないのか、という挑発にも聞こえる問に俺の止まった思考が少しずつ動き出す。


 彼は言った。殺気に対抗するためには慣れることだと。今俺は人生で初めて本物の殺気というものを受けている。そんな俺が歴戦の兵士のように殺気を流すことなど出来はしない。


 彼は言った。殺気に対抗するためには自身も殺気を向けることだと。相手に、お前を殺すという意思を伝えることだと。


 俺の目の前にいる者は敵。俺を殺そうとする敵。俺の、敵だ。ならばどうする。そんなの決まっている。殺らなきゃ殺やられる。なら、殺られる前に殺るしかない。


「ふぅ、終わりにしましょう」


 ルークさんは構えを解くとそう言った。


「なかなか良い感じでしたよ。気を失ってしまう可能性もあると思っていましたが、まさか耐えるだけでなく殺気を向けられるとは思っていませんでした」


「いや、本能的になのかわからないけど、殺気を当てられた瞬間、ヤバいと思いました。だからこのままじゃマズいと思って必死だっただけですよ」


「それでもなかなか良かったと思いますよ?それでは少し休憩にした方が良さそうですね」


 ルークさんはそう言うと、練兵場の端の井戸に向かっていく。


「レン様、お疲れ様です」


 ルルが水の入ったコップとタオルを持ってきてくれた。それを受け取りながら俺は色々な意味でヤバそうな人に出会ってしまったのではないかと考えていた。

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