1.夢と召喚
そこは真っ白な空間だった。俺は確かに自分の部屋の布団に入り寝たはずだ。ということはこれは夢なのだろうか?
「助けてーー」
この空間が何なのか考えていると、いつの間にか目の前に神秘的なオーラを纏った少女がいた。
少女は神々しく輝く金色の髪に、優しげな雰囲気のブラウンの瞳を持っていた。
とても美しかった。思わず見惚れてしまった。が、なんとか意識を引き戻す。
「あの〜、君は?」
「私のーーーーー止めてーーー」
何か言っているのは分かるが何故か内容が入ってこない。
「あのさ、よく聞こえないからもう一度言って欲しいんだけど。俺の声、聞こえてる?」
「私はーーーーー」
その時、急激に意識が薄れていった。
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「はぁ、何なのかねぇあの夢は」
今日も高校だるいなぁ〜とか思いながら俺、”藤崎 蓮”は昨夜見た不思議な夢について考えながら今日も登校している。
「おはよう、蓮。どうしたの?そんなボーッとして」
そんな鬱な俺とは違い、今日も元気に朝の挨拶をして来るのは幼馴染の"七瀬 梨奈"である。
腰辺りまで伸ばした艶やかな黒髪、優しげな目元、形のいい鼻に薄い桃色の唇。梨奈は学年の男子によって行われている”彼女にしたい女子ランキング”のトップスリーにランクインしており、男たちの学校生活の癒しである。
「おう、俺がボーッとしてんのは、まあ、あれだ。いつも通りだろ」
夢のことを考えていた所為で返答がだいぶ適当になってしまった。
「ふーん。蓮がそんな感じになる時ってだいたい何かあるときだよね〜」
返答が適当すぎて一瞬でバレたよ……。さすが幼馴染、分かっていらっしゃる。
「まあいっか。早く行かないと遅刻しちゃうよ?行こ?」
しかし梨奈はそれについて話を続けずに先を促すのであった。
はぁ、行きたくねぇ……
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午前中の授業を何とか乗り越え、昼休み。俺は同じクラスの”一ノ瀬 宗太”と昼食を取っていた。
「ふむ、不思議な夢ねぇ」
俺は一ノ瀬に昨日の夢の話をしていた。一ノ瀬はかなり整った容姿をしている。背は高く少し目つきが鋭いが、本人が醸し出す雰囲気の所為で大人びた印象を受ける。運動能力も高く、学業の成績も高いと高スペックなイケメンである。
ん、俺?俺はそんな特徴のない普通の見た目だよ。だからこいつの隣にいると結構なモブ感が出てしまうが、いつからかはあまりよく覚えていないがウマが合いよくつるむようになっていた。
「そうなんだよ。夢にしては起きた後も割としっかり覚えてるし、なんとも言えないような現実味?みたいなものがあったんだ」
「でも何を言っているかは分からずにそのまま終わってしまったんだろう?ならもうただの変わった夢だと思って忘れてしまえばいいんじゃないか?」
「うん、普通だったらそんな感じになるんだけど……。こう、なんというかモヤモヤした感じがするんだ。何か大事な気がしてさ」
自分でも不思議に感じる。忘れてはいけないような、何か胸騒ぎのような感覚。
「そうか。お前がそう言うなら納得するまで考えればいいさ。まあ、お前のお得意の空想が夢に出てきただけかもしれんがな」
そう言って一ノ瀬はこの話題を閉じた。
「ねぇ、蓮。ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
そのとき、隣から梨奈が声をかけてきた。
「ん、何だ?」
「それがね、実はーーーー」
梨奈がその頼みたいことというのを告げる前に"それ"は起きた。唐突に梨奈の足元が光りだした。いや、梨奈だけではない。クラスメイト全員の足元が光っている。俺の足元も同じような状況だった。
光を見るとラノベやアニメに出てきそうな魔法陣的な物が強く発光している。そして、光が一際強くなり視界が真っ白になった。
目を開いたとき、そこは教室ではなく、中世のヨーロッパのような雰囲気の広いホールだった。
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「何なんだよ……これ……」
思わず俺は呟いていた。止まりそうになる思考をなんとか稼働させ、周囲を見渡し、状況把握に努める。そして、今更ながらに周囲を騎士鎧を着込んだ者と、ローブに身を包んだ者に、囲まれていることに気づく。瞬間身が強張るが、彼らは「やった!」とか「成功したのか?」と呟いているだけで敵意は感じられない。
これは……どうなってんだ?
ふと、昨晩の夢のことを思い出す。
(おいおい、まさか……”そういうこと”なのか⁉︎)
信じがたいがそう考えれば妙に納得できる。否、それ以外は納得できるようなものは今は思いつかない。
教室で見た光り輝く魔方陣のようなものは、異世界もののラノベやアニメでよく見る主人公を召喚する魔方陣だとしたら……
「ようこそ私たちの世界へ、勇者様」
思考の海に沈んでいた俺は、透き通るような美しい声で現実に引き戻された。
目の前には昨晩の夢の少女がいた。