12.模擬戦 〜決着〜
「くっ⁉︎」
また反撃をされた。
<身体強化>を使い始めてから空気が変わったのは感じた。それでも私自身のスピードと<身体強化>による筋力増強で押し切れると思っていた。
確かに初めは対応しきれず、こちらの攻撃は体を掠めていた。しかし、徐々に反応が速くなり反撃までされるようになっていた。繰り出した斬撃への対処が確実に上手くなっている。
(このままでは……)
試合の決定打がない。それは向こうも同じだろうが。
もちろんもっと力を出せば勝つことは出来る。でも、そんなそんなレベルの力を使ってしまうのは、今の彼相手には卑怯だと思う。
それが分かっていても負けたくはない。私はとても負けず嫌いの性格なのだ。だから今まで剣術も魔術もたくさんの努力をしてきた。
それを、いくら勇者と言えど剣を持ってひと月も経たない少年に、ましてや歴代勇者の様な強大な力も持っていない彼に負けるなど、認められない。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ、はぁ」
ルルの速さに少しずつ慣れてきてたまに反撃を入れるくらいは出来る様になった。それでも手数はルルの方が上だし、押されている。何より剣を真っ向から合わせられないことが辛い。
今向こうは魔術でパワーが上がっているから正面からまともに受ければ体勢を崩され押し切られてしまう。剣を合わせてから上手く力を流すことに神経をかなり使っている。
今のところは上手く行っていてまだ押し切られてはいない。
しかし、それも時間の問題だ。体力の問題である。
そりゃあ何年も厳しい訓練を積んできた人とついこの間始めた人とでは体力に差があるのは当たり前だし、まだまだ素人の俺には無駄な動きがあってそれに伴う消費もあるだろう。
疲労に伴ってか、徐々に集中力が落ちてきた。初めは感じなかった傷の痛みを感じ始めている。
とにかく、勝つためにはそろそろ打って出なければならない。
ルルの剣を剣を受け流しながら一瞬の隙を見つけ反撃、すぐに大きく後ろに飛び、距離を取る。
追撃は来ない。
「そろそろ疲れてきたし、終わらせたいところだね」
剣を握り直し、息を整えながら声を掛ける。
「そうですね。それでは降参なされますか?」
「それはちょっと遠慮したいかな。折角だから決着はちゃんとつけたい」
笑顔で降参を勧める彼女に少し不敵な笑みで返す。
「だから、行くよっ!」
取る構えは始めにルルが見せた構えの様な突きの構え。
「はあっ!」
気合いの声と共に強く踏み込み足で魔力を爆発させ、そのまま真っ直ぐ突っ込む。俺が今出来る最速の攻撃。
今まで見せなかった俺のスピードにルルの顔に驚きの感情が浮かぶ。しかし、それも一瞬のことで直ぐに表情を引き締めた。
迎え撃つルルが繰り出したのは突きだった。しかしただの突きではなかった。剣先で円を描く様に繰り出された剣は俺の剣を搦めとる様に巻き込み、そのままルルが剣を振り上げるとそれに引っ張られ空中に跳ね飛ばされた。
振り上げた剣を俺に向けて振り下ろしに入るルル。全力で前に出たためにすぐさま止まれない俺は身を捻りながら弱い魔力爆発を起こし、ルルの真横を通る事で回避に成功した。
そのまま2回ほど前転して勢いを殺し、ルルの方を向いて立ち上がる。
次いで突きの勢いのまま跳ね飛ばされた剣が俺の後ろに落ちる。
「先ほどのスピードには驚かされましたが、決着はつきましたね」
「そこまで!勝者ーーー」
「まだだ!」
満足した様な顔で言ったルルと勝者を宣言しようとしたルークさんに向けて叫ぶ。
「剣を黙って拾わせたりはしませんよ?」
もう決着はついたと、どこか諭す様な口調でルルが告げた。
「いや、わざわざ拾いに行く必要はないさ」
「?」
俺の言った意味が分からないという様に首を傾げるルル。ルークさんやエレナ、国王様も訝しげな顔をしている。
「とにかく、まだ終わってないっ!」
そのまま俺はルルへ向かって走って行く。左手を向けて<気弾>を連発する。弾丸をイメージして回転を加えて威力やスピードの上がったものでもルルには全く効かないようで簡単に避けられていた。
もちろん俺もこれが効くとは思っていない。
空いていた距離が半分程になったところでさっきの突撃よりは少し威力を抑えた魔力爆発で加速する。そのまま身を捻りルルに背中を向ける。
「こんな悪足掻きをされても勝敗は変わらーー⁉︎」
響いたのは、甲高い金属音。
ルルの顔にはさっきの突撃の時よりも大きな驚愕の表情が浮かんでいる。
加速しながら身を捻って、背を向けて、一周回った俺の手には、後方の地面に落ちているはずの俺の剣がルルの剣を弾き飛ばしていた。
驚愕で停止していたルルはすぐさま俺から距離を取った。
「な、何故、剣が……いつの間に……」
「ま、ネタバラシは後にしてだな。これで俺の勝ちかな?」
ルークさんの方に目を向けると彼も同じように驚いた様子だったが、すぐに勝者宣言をしようとーーーー
「まだです!」
と、ルルが叫んだ。
「まだ、私は負けていない!」
そして俺に見えたのは一筋の青白い閃光。気づけば俺の背後には雷を纏ったルルがいた。
「はああああああああああっ!」
気合いの声と共に突き出される右の貫手。
速すぎる。
でも、世界が遅くなったようにはっきりと見えるそれは確実に近づいてきて。
でも、遅くなった世界では何一つ取れる行動は無くて。
凄まじい轟音と衝撃で俺の意識は吹き飛ばされた。