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将達の戦い・壱

 サラスはディグリートを伴い白い巨人と対峙する。巨人と言っても身長三メートルほど、二メートル近い身長のディグリートにとっては少しデカいくらいでサラスにはこの程度の大きさの魔物は慣れたものだ。

「将軍、どうします?」

「どのような攻撃をしてくるかわからん以上、迂闊には踏み込めんな。まずは見といこう」


 巨人の白い皮は濡れている。巨体の割りには小さい頭には毛などなく耳や鼻、目もない。開いた口からはヨダレを垂らし獰猛な牙を見せる。どんな構造をしているのか牙が一本一本別々に蠢き気持ち悪い。

 そして二対ある腕のうち一対は腕全体が刃物になっていて指もナイフのような鋭い光を放つ。

 さらに太さの違う長い尾が二本。片方は鞭のようにしなり、もう片方はフレイルのような鈍器になっている。


「くるぞ!」

 サラスがやりを構えてディグリートは両腕も獅子と化す。

「グルォォォ!」

 咆哮と共に突撃してきた巨人にディグリートが正面からぶつかる。大きな爪で巨人の腹を切り払うように振る。

 そしてサラスはディグリートの攻撃に対する巨人の反応に後の先を突くタイミングを図る。

 巨人はディグリートの攻撃をものともせずディグリートの頭を横殴りにしようとする。その腕をサラスは三叉槍で迎え撃つ。


 巨人の動きが一瞬緩んだ瞬間にディグリートは顎に爪を突き立てる。が表面の皮に爪がめり込むだけで突き刺さらない。

 巨人の四腕の攻撃を一本の槍で凌ぐサラスは次の手を考える。額に切れ目が入ると紫の瞳が現れる。

 魔人化と呼ばれる力、魔人族がその力を発揮するための戦闘形態である。

「『雷轟のマナよ、我が声に応え力となれ、天雷を以て灰燼となれ、悪しきものを雷滅せよ、聖雷の覇浄刃(セイクリッドセイバー)!』」

 詠唱の聞こえたディグリートはその攻撃線上から跳んで逃げるとそこに白い雷撃が放たれて捕食個体を飲み込む。


 轟音が治まり捕食個体からは煙が出ているが、

「ギルジャァォォォ!!」

 咆哮を上げると鞭のような尾を伸ばしサラスを襲う。サラスは槍で対応し防戦に回る。

「我が雷撃に耐えるとはな」

 ディグリートはサラスを狙う捕食個体の隙を突いて攻撃を試みるが捕食個体はディグリートの方を見ることなく腕を振る。

 ゴムのように伸びた腕が頭を直撃するがディグリートはその腕を掴んで爪を突き立てるのではなく今度は切り裂いた。

「『烈火のマナよ、我が声に応えよ、すべてを呑み込む紅蓮の炎、我が爪に宿り力を見せよ、火炎附加フレアエンチャント!』」

 炎を纏った爪は捕食個体の腕に切り込みを入れる。


「将軍、こいつ炎には弱いみたいです!」

 その声を聞いたサラスは、

「ディグリート、お前が主体となれ。私が補助に回る。惜しみなく力を振るえ!」

 サラスの声にディグリートが獰猛な笑みを浮かべる。獅子の咆哮が戦場を揺るがす。たてがみと両手足はは炎を纏い炎の獅子が牙を見せる。

「ガアアアァァァァ!!!!」

 魔物と同じような雄叫びと共に紅蓮の炎が口から吐かれる。

 捕食個体はその炎から飛んで逃げるが上空には動きを先読みしたサラスが待ち受けていた。

「残年だな」

 槍でディグリートの待つ地面に叩き付ける。鈍い音を響かせて両足で着地した捕食個体に猛獣が襲い掛かる。


 ディグリートが自分より大きな相手に体当たりをかますとマウントポジションを取る。

 そこから一方的な攻撃が放たれる。頭、胸、首など普通の生き物であれば致命傷となり得るところを重点的に爪がめり込み、炎が注がれる。

「オラオラオラオラオラー!!」

 ディグリートが息もつかせぬ攻撃を見舞う。しかし捕食個体の口が大きく開くとディグリートの眉間に何かが突き刺さり衝撃で吹っ飛ばされた。


 ディグリートは受け身を取り額に触れると流血していた。攻撃はしていたが防御を怠ったつもりはない。ゴールドプレートのディグリートの身体強化を破るほどの一撃をまだ放てると言うことだ。

「ドゥゥルルル……」

 ダメージを受けている捕食個体の口から紫の先割れした長い舌が伸びる。

「ディグリート、無事か?」

「ええ、しかしあの舌は厄介そうですな」

 牽制なのか捕食個体は舌で鞭のように地面を叩いているのだが腕と同じように伸縮している。


「伸びるのは厄介ではあるが伸びれば切りやすかろう」

「では、私が囮に」

 ディグリートが攻撃を躱しながら接近して肉弾戦を挑む。離れた場所からサラスが魔法で射撃すると腕や尾を伸ばして迎撃する。刃物の腕は伸びないらしくディグリートへの攻撃はもっぱら刃物の腕に頼っている。

「フンッ!!」

 サラスの迎撃に気を取られた瞬間にディグリートの爪が刃物を砕き、ディグリートに攻撃すればサラスが尾を切り落とす。

 頭が小さいせいか知能が高くない。しかしながら、

「グルジュアァァァァ!!」

 パワーが高い。尾を切られて怒り狂ったのか、残る尾を振り回してサラスを遠ざけると残る腕でディグリートを殴り飛ばす。 


「……これ以上の消費は避けたいのだがナァ!!」

 サラスが憤怒の表情を見せる。槍から放たれる放電が勢いを増し、三眼の瞳が光を増す。

「ディグリート、奴の動きを止めるのでトドメを刺せ」

 それだけを告げるとサラスはユラユラとした足取りで捕食個体に向かう。

 捕食個体は舌をしならせるとサラスを横凪ぎにするが舌はサラスの体をすり抜ける。

「ドゥジャッ?」

「どうした?攻撃が当たらないことが不思議か?」

 足取りの変わらないサラスが不敵な笑みを浮かべて更に近づく。何度も舌を振り、尾で払い、腕で叩き付けるがサラスに攻撃は当たらない。

「わからぬまま……」


 捕食個体まで数メートルの場所からサラスの姿が消える。正しくは消えたのではなく最高スピードを出したのだ。先ほどから攻撃が当たらないのも瞬間的に速度を上げて躱しているだけに過ぎない。端から見れば姿が消えたように見えるか、残像が残るだけなのだ。

 瞬時に捕食個体の前に踏み出し、さらに捕食個体の左右にも現れたサラスが同時に踏み込む。

「死ぬがいいっ!!」

 三方からほぼ同時に槍が回転しながら突き刺さる。三叉槍は幅が広い分、えぐり混まれる刃は広範囲に及ぶ。

 肩、胸、腹の三カ所に穴を開けた捕食個体はぐらつく。赤茶色い血のような体液を流しながらもまだ命がある。

 しかしその命も炎を纏う爪が首を狩るまでのごく短い時間だけであった。


「将軍の攻撃で死んでいませんでしたか?」

「……手柄は若い者に譲れと師が言うものでな」

 捕食個体の首を手にしたディグリートはなんとなく拗ねた目でサラスを見る。

 倒れた捕食個体を横目で確認したサラスは槍を回転させて血を払いながら師のいる方向に目を向けた。


-----


 サラスが巨大な白雷撃を放っていた頃、イディルスキーとギーデウスは目の前にいる捕食個体を観察していた。

「どうしようかね、リュミルさんや」

「どうしようかねぇ、ジー」

 歴戦の老将二人はこれまた巨大な捕食個体を見上げる。攻撃をしてくる様子はないが多彩な魔石で出来たおよそ十メートルほどの岩石巨人ゴーレムが単眼を光らせている。

「ほかの捕食個体とは少し違うねぇ」

「ああ。混合性が見られないのは些か怪しい。中に何かあるかもしれないよ」

 イディルスキーは片手で顎を扱き、ギーデウスは腕を組みながら魔力を練る。


「まぁ、まずはいつものといくかね。これだけ大きいとこれかねぇ?」

 イディルスキーは自らの腹に手を刺し込む。グチュグチュと血肉が裂けてむせかえるほどの血の臭いがする。

 ポキポキ、と音を立てて肋骨が数本外されて取り出された。

「……アンタのソレはいつ見ても気持ち悪いねぇ……」

「死骨族古来の魔法なんじゃがねぇ……」

 血の滴り落ちる肋骨を見てギーデウスは嫌そうな顔を浮かべられてイディルスキーは少しがっかりしながら骨を指の間に挟む。


 捕食個体の岩石巨人が走りだす。まだ距離はあるというのに拳を振り上げると踏みこみ突く。すると腕の岩が延長されていき伸びていく。

「……刺さるかねぇ?」

 その攻撃を躱してイディルスキーが軽く手を横凪ぎに振ると指に挟んでいた骨が投げナイフのように飛んでいく。

 捕食個体の体に突き刺さるといったんは停止するが意志があるかのようにめり込んでいく。

「意外と刺さったねぇ」

「で、どうだい?」

 二人は何気なく話しているのだがその間にも地面から岩が隆起し、炎や氷を纏った石が雹のように降り注ぐ。

 それらを全て躱しながら二人は世間話のように続ける。


「……麻痺毒も熱毒も壊毒も効かないねぇ」

「役に立たないねぇ。『氷雪のマナよ、我が命に従え、風に身を任せ巻き起これ、深紅の旋風となり喰らい凍らせ、紅の吹雪ガーネットスノウゲイル!』」

 余所見したままでギーデウスが手片をかざすと紅い風雪が舞う。ギーデウスの周りに飛来していた放電する岩が凍りつくとその場で止まり砕けて落ちる。

 さらにギーデウスの横を通った捕食個体の腕も紅い氷が纏われていき、その凍結は範囲を広げていく。

「じゃ儂はこれかね?」

 イディルスキーが次は喉を突いて体内から取り出したのは頚椎から尾骨まで続く脊柱。ゆるいS字カーブを描く背骨を軽く振って居合いのような脇構えで持つ。

「ほら、いくよ」

 イディルスキーは捕食個体の腕の横をゆらりと通る。そのときに腕が陽炎のように揺らめき動く。

 ゴーレムは腕を払いイディルスキーを撥ねようとしたがイディルスキーには当たらない。ゴーレムの腕はハムのように薄切りにされて地面に落ちていく。

 が、落ちた切れ端がブルブルと揺れると接合し始めて元の形に戻る。

「再生するのかい。少し困ったねぇ」

 と言いながらも剣を振る。次は薄切りどころか砂粒程までに木っ端微塵にまで切り刻まれる。

「はんっ!再生するなら……」

再生それより早く刻めばいいだけじゃのぅ」


 イディルスキーが剣を振るった先からゴーレムは微塵に刻まれて、そこをギーデウスがばらける前に凍り付かせて足場にしていく。

「……少し腰に来てるのぉ」

「歳だろうねぇ!!」

 ギーデウスは凍らせた腕の上を走り頭を狙いながらイディルスキーを笑う。イディルスキーは反対側の腕に飛びながら眉間にしわを作り、

「リュミルさん、儂もアンタも歳だよ。お互い孫がいるんだからねぇ」

「うるせぇ、じじいが!!」

 歳と言われたギーデウスは怒鳴りゴーレムに放った氷の他に数発イディルスキーに氷柱を放つ。

「昔は華の剣と呼ばれたが今じゃ華の一つもありゃしない」

 忍び笑いをするイディルスキーが飛んできた氷柱を峰で弾くとゴーレムの体で凍っていないところにばらけて突き刺さる。刺さったところから紅い氷が広がりだして凍り付いていく。そしてイディルスキーがゴーレムの真正面に跳ぶと一際速い速度で骨剣を抜いた。

 十文字に切り裂かれた捕食個体がさらに細かく刻まれてすべてが手のひらサイズの断片になる。そこに深紅の吹雪が舞って肉片のすべてを紅い氷に包まれる。

「ジー、アンタなんて今も昔も変わらず性格が悪いままだよ」


 そして氷は破裂していくが中にあるはずの肉片はすべて灰と化していた。それを確認したイディルスキーは背骨を体内に戻してギーデウスはその灰をグリグリと踏みつける。

「……ふん、弟子の前ではお互い張り切っちまうねぇ」

「サラスちゃんは一番出来が良かったのぅ」

 視線を感じた二人はチラリとその咆哮を見る。槍を片手にこちらを向いている若い将に二人はほくそ笑む。

「……ところで、孫が温泉に行って土産をくれたんだかね。帰りにうちの砦に寄っていかないかい?」

「おや、それはお誘いかい?」

「誘うなら四十年前に誘ってるよ」

 イディルスキーの言葉に笑って返すギーデウスだがさらに返された言葉にキョトンとする。

「ふん、だったらちゃんと四十年前に言っておくんだったね」

 イディルスキーの背中を叩いてからギーデウスは他の将軍達の方を見た。

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