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以心伝心

 奥へ進むと灯りが見る。その灯りの下にはイディルスキー将軍やディグリート将軍の姿もありこちらにも気付いたようで兵を率いて向かってくる。

 さらに奥の方では上の方からも兵が飛び降りてきて、その中にはギーデウス将軍がいる。

「陛下、ご無事で何よりです」

 将兵らは俺の前まで来ると跪き拝礼をとる。

「いや、皆こそ無事で何よりだ。サラス将軍の隊とクレスト将軍の隊から大事を取って退かせた兵はいるが死者はいない。皆も大事ないな?」

 俺は全体を眺めて確認を取る。皆、膝をついたまま頷き、

「私が女帝と戦う間に捕食個体プレデイトが出てきた場合は皆が応戦してくれ。女帝エンプレスとの戦いには巻き込まれぬよう細心に注意をしてくれ。では、行くぞ!」


 俺が気勢をあげて皆の先頭に立ち外に続く穴へと向かう。眩い光が零れる穴の奥は……、

「……洞窟、だな……」

 光は外からのものではなかった。たが壁と天井一面にヒカリモモドキではない植物の光源があり壁からは水がしみ出していて水が流れている。

 その奥にいたのは巨大な敵、女帝だと思われる個体だった。


 体長はおそらく十メートル近い、白い輝きを持つ蟹の甲羅を頭に蛇龍の体から生える左右の腕は非均等に七本、人型や虫型など同じものはない。隠れているこちらに気付いていないのか、まるで寝ているかのように微動だにしない。

 その周りには一体の捕食個体もいない。どうやらあの軍団で打ち止めらしい。

「……さて、皆は周囲警戒を頼む」

 俺が歩み出ようとすると袖を後ろから掴まれた。振り替えればグレナルドだった。

「陛下、私をお使いください」

 兜の隙間から見えるグレナルドの目と合う。忠義と心配の伺える眼差しの意味に俺はため息をついて、

「はぁ……初めてだからどうなるかわからんぞ?」

「我が身は陛下の剣、私の身も心も陛下のお力にします」


 グレナルドの魔力が極端に下がっていく。そして目が閉じられると黒い瘴気が俺の腕を、体を、全身を包む。

 そしてガシャリと音がしてグレナルドの鎧が倒れた。その中にはグレナルドの姿はなく、俺の頭の中に声が聞こえる。

『陛下、すでに陛下と一心しております。陛下が動きやすい鎧をイメージしていただければ私がその形となり鎧となって陛下をお守りします』

 俺は今付けている手甲と脚甲に加えて肘や膝、胸などを守る当てを頭に思い浮かべる。すると黒い鎧が現れてイメージ通りになっていく。

「では、行ってくる。この鎧を頼むぞ」

 俺は空になった鎧をサラス将軍に預けて歩き出す。


『私のスキルも使えますのでご説明致します。剛身強体、物理攻撃に対する防御があがります。黒瘴気、魔力を消費して保てば全自動で攻撃から身を守ります。そして換装、武器の名を呼べば手に現れます。私の身に付けた技術も陛下は使えるようになっていますので武器を手にしたときに感覚だけとわかられるかと』

 俺が岩陰から姿を見せて近付いていく中でグレナルドがスキルを説明してくれる。しかも一歩歩く間にすべてやりとりできるほどに早いのだが理解できる。

 これが一心している、という効果なのだろう。

『そして、攻撃線の可視化。対峙した相手の物理攻撃動線が可視化できます。あらゆる相手に可能ですが一人にしか使えませんのでご注意ください』


 俺はグレナルドのスキルに感心しながらも驚く。

 とんでもないほどの高性能スキルと類い希な才、そして驕ることのない努力。これほど兼ね備えた戦士はどこを探してもそう簡単には見つからないだろう。

 と俺が思考すると、

『そ、そんなにほめられるというと恥ずかしいです』

(待て、俺は考えただけだぞ?)

『一心のため考えただけでお互いに通じます』

 俺はほほぉと納得してグレナルドの裸体を想い浮かべる。


 うん、小柄で可愛らしい、胸は控えめだが……、

『陛下、何をお考えに!?』

(いや、考えたことが通じるのか試した)

『な、な、なぜ、わた、私の、はだか、なんか……』

(ん?裸なんか、じゃない。ロザリーは武に優れただけでなく可愛らしく美人だからな)

『ほ、ほ、褒めても、なにも、ありませんが……』

(王都に帰って伽を頼もうかな?)

『ぁぅ、……はぃ……』

 最後の声は消え入りそうな声だったが嫌そうなものではなかった。


 俺が息をついて気持ちを切り替えるとグレナルドも切り替えたらしい。黒瘴気がうねるように動き波打つ。

「さて、と。……やるか」

『はいっ!』

 俺は手に魔力を集めて念じる。

「『黒冥』」

 黒い両刃の片手剣を握る。グレナルドの換装で取り出せる武器は十近い種類があり、どれもグレナルドの得意とする闇属性に別の属性が付加されている。

 黒冥は風の力を持ち、魔力と振った力によって黒い風刃が発生し、大きな力であればあるほど多くのかまいたちが放たれる。


「……いくか」

 目線を上げた先には女帝、その七つの腕からは赤外線のようなものが見える。これが攻撃線の可視化の力だろう。

 俺は一気に加速すると攻撃線の間を縫って距離を詰める。女帝は俺の接近に対して腕を伸ばし迎撃しようとしてくる。

 目まぐるしく動く攻撃線を躱すと次の瞬間には爪や拳が俺のいた場所を切り裂き潰す。


(これはすごいな)

『過信なされず。あくまでも物理攻撃のみなので魔法での攻撃には反応しませんので……』

 と言ったところに蟹の口に当たる部分から水のレーザーが飛んでくる。しかしこれは黒瘴気が盾となって弾く。

 攻撃線が俺を包囲し追い詰めるように動く。そこに魔法と思われる水弾も飛んできて何発か黒瘴気で受け止める。

 そこから伝わる衝撃からわかったのは、

(思ったより重くないし、一気に行くぞ!)

『はっ!!』

 俺は攻撃をかいくぐりまずは一太刀、胴に与えると体を踏み台に飛ぶ。そして非対称の腕に目掛けて黒冥を振るう。

「っ、オラッ!」

 十二の風刃が舞い風を呻らせながら女帝の腕目掛けて飛んでいく。振るう腕でいくつかは霧散されるが半分以上は被弾した。


 俺が離れて着地すると女帝が体を震わせる。するとまた高音域の音が鳴って俺の三半規管を狂わせる。

 腕の一つがダラリと下がって潰せたようだがまだ余裕を感じさせる女帝は尾を立たせた。

 先端に鳥の羽根のようなものがついていた尾を振る。

「ちっ!」

 羽根の辺りから風の刃が現れて俺を狙い飛んでくる。俺は剣を振って風刃をぶつけて相殺させる。

 高音域の音は鳴き声なのか女帝が体を震わせると断続的にキーンと頭に響く音がする。


「多少デカいのぶつけても、大丈夫だろうな」

 俺は剣を手放すと黒冥は地面に落ちる前に姿を消す。俺が意識しなければ武器は消えてしまうからだ。

 両手を胸の前にやり魔力を集める。爆発のエネルギーを押さえ込みながら前に出ようとした。

 女帝の蛇龍の胴に裂け目が入る。穴が空いていてそこには芋虫の口のように円形に並んだ大量の牙がある。

 そこから白い何かが飛び出してくる。それが何か判断したときに俺は魔力を前に投げ出す。


 投網のように広がった放射状の糸は爆炎に飲まれて焼かれていく。

『陛下、前を!』

 爆炎が晴れるまでにグレナルドが俺に警鐘を促す。煙の向こうから水が飛んできた。口から放たれたような勢いではなく放物線を描き飛んできたようなゆるい水。

 俺が避けると地面に着弾、すると焦げるような臭いを出して地面が解けていく。

「強酸か!?」

 こんなものに当たれば魔力に覆われているとは言え無事の保証はない。


 俺が顔を上げると次々とその酸弾が射出されている。その発生源は先ほどの口。糸だけでなく酸弾も吐くようだ。

「あの口を潰す!」

 俺は酸弾を躱して近づくとその口目掛けて魔力をぶっ放す。

 振るわれる腕をかいくぐりガス火のイメージを持って焼いてみる。

 どの属性が有効かはわからないが生物である以上、高熱には弱いはず。ガス火は約千度、生物を焼くには十分なはず。


 炎は治まるがその口には……あまりダメージがあるようには見えない。それに苦しんだ様子も見せず、攻撃をしてくる。

『相当頑丈か炎に耐性があるようですね』

(ああ。なら……)

 俺は拳を握るとこちらに振り下ろされり獣の腕に対して腰を落とし構える。足を踏ん張り、その力を足から腰、胴、腕に流して最後は手の平に力が集まる。左手を下げると同時に右手を挙げて女帝の指の一本にその力をねじ込む。明らかな重量差だが剛身強体のおかげかダメージがほとんどない。俺はそこに魔法も合わせる。

「軽錐掌!『連鎖する爆炎チェインエクスプロード!』」


 掌とぶつかった指から骨が砕ける音がして、さらにその腕の内部に爆発魔法をねじ込む。女帝の腕の間接がないところで妙な角度にあちこちで曲がる。

 どんなに堅牢な外殻を持つ生き物でも内部から攻撃されては防御はしにくいはず。

 これで二本目、残る腕は五本、そして胴に頭と尾。とりあえず攻撃してきそうな部分を片っ端から潰せばそのうち死ぬはずと俺は次の腕を狙い始めた。

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