奥へ……
あちこちで激しい戦闘が起きている。ほとんどの者が戦闘形態を取り、中には完全に龍や獣と化してる者もいる。
これが屋外であれば俺も魔法で一掃できるのだがここで強力な魔法を放てば仲間を巻き込んだり洞窟を崩壊させるのが目に見えていて範囲魔法は使えない。
仕方なく使っているのが敵に触れた、または物理攻撃を受けた際に接触した場所から十センチほど外に爆発魔法を即発動させること。
こうすれば魔物の体の中から爆発が起きて硬い装甲を持つ魔物ですらかなりのダメージが与えられる。
「まだ来るぞぉぉぉ!!」
「上からも来てるぞ!!」
俺の視界の上の方にも映る魔物がある。蛇にトンボのような翅、かと思えば尾の方にも頭がある。
「『空中歩翔!』」
俺は空気の塊をいくつ作り足場にして空中を走る。
吸い寄せられるように飛行型の捕食個体が俺を狙ってくる。天井と地面までの距離を目測して俺は口元を緩ませる。
「頭の悪い個体共でよかった。『雷光域!』」
俺を中心に白い球体が現れる。中に閉じ込められたのは八体の捕食個体。俺から放たれた白い雷が球体の中を暴れ回る。
「こんなもの、かな」
すべての個体が黒焦げて動かなくなったことを確認した俺は魔法を解く。
俺は地面につくまでに両手に魔力を覆わせると着地地点にいる個体に頭から拳を突き刺す。虫の外殻が砕けて体液が飛び散る。
「ギシャァァァァ!!」
別にある蛇の頭が背中に迫ってくるが、
「『烈風閃』」
背中に風の刃を纏い近づいた頭を挽肉にする。
左右から来た個体をそれぞれ左右に手刀を放ち縦に真っ二つにする。
周りを見ると全体的に優勢に見える。特に隊列から飛び出て動いているサラス将軍とグレナルドにはかなり集中している。
おそらく魔力の高い個体を狙う習性でもあるのだろう。俺の周りにもわらわらと集まってきている。
「邪魔だぁぁぁぁ!!」
声の方を見るとジグレイシアも気勢をあげて長剣と爪で対処している。多数相手は慣れているようで流れるような動線で斬っているのがわかる。
一対一の状態になるよう立ち回り、別の個体が攻撃してくると躱し、それが同士討ちを起こしている。
視野が広いのか、慣れや感覚か、はたまたスキルか。どれかはわからないが囲まれているが全く不利に見えない。
ヒルデは大鎌を武器にしており対集団戦には向いていないかと心配もしていたがそれは杞憂に終わっている。
そもそも組立型の武器は構造上耐久性に欠ける。とくに大鎌のような攻撃時に負荷が大きい武器には向いていない。
だがなぜヒルデの鎌は三節の組み立て式か。持ち運びやすいから、ではない。
「はああぁぁぁぁぁぁっ!!」
黒刃の鎌を振り回すと刃のついた一節目が外れて飛んでいく。二節目とは雷でできた鎖でつながっていて刃だけでなく鎖に触れたり巻かれるだけでも攻撃が出来るようだ。
が、攻撃部分の刃が射出されたヒルデに武器はない。そこを捕食個体が狙うが、
「甘いですわっ!」
三節目も二節目と分離して捕食個体を狙い飛ぶ。節が光ると雷球を纏って捕食個体の頭を潰した。
ヒルデの武器はただの大鎌ではなく三節式大鎖鎌、相当の訓練と技量がなければ扱いこなせないタイプの武器だろう。それを容易く扱うように振る舞い、敵を討つヒルデは紛れもない実力がある。
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かれこれ数十分は戦いつづけている。身体強化のおかげで疲労はないものの、捕食個体が減っている気がしない。むしろ増えてきている。
「ここが堪えどころ、皆奮起せよ!」
連携して当たっているがやはり怪我人も出るとそこを捕食個体に狙われてエンジンが乱れたり、回復のために下がると人数に不利が出ている。
今のところサラス将軍の鼓舞により士気が下がっている様子はない。
「……『換装・煌竜剣』!」
グレナルドが群れの中に飛び込みながら武器を変える。今まで見せてきた武器は手に持つものばかりであったが今回は違った。
グレナルドの背後左右に五本ずつの剣が浮いて並び、指の動きに合わせて動き回る。グレナルドの周りを舞うように周り、一点目掛けて突き刺さり、別々の個体に向けてそれぞれ飛翔する。
高い威力を誇るようで甲殻をもつ個体ですら切り裂き、鋼の肌を持つ個体も貫く。
「カアアアアアッッッ!!」
別の方では紅蓮が舞う。クレスト将軍が鎧を着た龍の姿となって捕食個体を引き裂き、毟り、噛み砕き、炎を吹き付ける。
武器なんか必要なく、爪と牙で次々と引き千切る。ときには自分の倍以上もある個体の頭を握り潰したかと思えば、そのまま片手で持ち上げて別の個体に投げつける。
紅い暴風が捕食個体をただの肉片へと変えていく。
一方サラス将軍は捕食個体が現れる穴の近くで槍を持っていた。
彼の周囲には壁が出来ている。彼の攻撃範囲に入った捕食個体は頭や心臓などを瞬時に貫かれるか三叉の刃に切り裂かれていく。
絶命し崩れたものから投げられて山の上に転がると壁の一部となって捕食個体の攻め口を狭めていく。サラス将軍はその狭い攻め口から来る捕食個体をまた突き刺し裂いては投げていく。
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全体を見れば数百は倒している。そこかしこに捕食個体の死体で山が出来ていている。
「かなり減ってきたぞ!野郎共、もう少しだ、オラッ!!」
クレスト将軍が気合いのこもった声を上げる。
前衛の二割ほどは回復のために下がってしまっているが捕食個体もかなり数を減らしてきていてもう追加の群れは来ないようだ。
「オラオラッ!!」
死体の山の間でジグレイシアは剣を鞘に納めて、両腕を龍化させ暴れる。クレスト将軍と同じように掴み引き千切る。
なんというか龍人族の暴れっぷりは爽快感もあるが武人というより凶暴だ。
「ジグ、前に出すぎるな!」
「まだ大丈夫だっ!」
左右が捕食個体の死体で死角が増えたジグレイシアは前に出る。グレナルドが警鐘を促すがジグレイシアは前に出て捕食個体を数体斬る。
「次は、……そこだっ!」
腕を振るい虫のような個体を引き裂こうとしたが腕を覆う魔力が下がっていたのか、食い止められる。ジグレイシアはもう一方の腕で追撃して頭を潰すと別の個体に向こうとする。
ジグレイシアを背後から狙っていた個体は大きな腕を握り叩きつぶそうとする。ジグレイシアはそれを躱そうと姿勢を変えて動こうとしたが、
「……うわっ!?」
足元が滑る。おそらく個体の流した体液で足を滑らせたようだ。
「ジグ、危ない!」
グレナルドが庇いに走ろうとする。俺も声にその方向を見て向かおうとするが捕食個体が壁となり間に合わない。
「ジグ!」
シャルナックの声が俺にまで届いた。だが誰の手も障壁も間に合わない。ジグレイシアの頭に人の数倍はある拳が迫る。
ブチョっと肉が潰れる音がした。
「ジグ!?」
後衛だというのにシャルナックが陣から飛び出して駆けてくる。
が、俺達の目に映ったのは拳に潰されたジグレイシアではない。ジグレイシアに攻撃を加えようとした個体が青い龍と化し龍人に切り裂かれ腕を千切られていた。
「ガアアアァァァァァ!!!!」
その龍人は捕食個体の腕や足を引き千切り頭を持って地面に叩き付けるとおろし金で磨るように個体の頭を磨り潰すと中空に投げて、
「カァァァッ!!」
口から放った白い冷気で完全に凍らせる。地面に落ちた個体は粉々に砕け散り見る陰もない、明らかなオーバーキル。
助けられたジグレイシアは立ち上がるとシャルナックに回復魔法をかけられる。
「ローザが言ったのに、なんで前に出るのよっ!」
「……悪い、いけると思った」
ジグレイシアが反省した様子で返答したがシャルナックのボディブローが何発も入れられる。
「バカ」
「シャル、ジグを下げて私が回るから」
グレナルドがジグレイシアのいた場所の防御に周り、ジグレイシアは後陣に下がり回復を受けるようにグレナルドが指示を出す。
俺は自分を囲っていた個体を殲滅させるとジグレイシアを助けてくれた龍人のそばに行く。
「申し訳ない、ジグレイシアを守っていただき感謝します」
「……いえ、私の役目ですので」
龍人は俺から離れるとクレスト将軍のいる辺りに向かっていた。
あの位置から助けに来たのか?位置関係で言えば反対側、ジグレイシアをずっと見ていなければ助けに来られるタイミングではなかった。
それから十分ほどですべての捕食個体が討伐された。無事を確認をしていると死者や重傷者は出ていないがかなりの人数が疲労を見せている。
ゴールド上位とは言え同等に近い捕食個体を大量に相手取ったのだ。仕方ないだろう。
「サラスだ。集まった捕食個体の軍団の討伐を終えた。死者重傷者なし、疲労で半分近くが動けん。そちらはどうど?」
サラス将軍が通信水晶で他の隊と連絡を取っている。その声は俺の襟元からも聞こえてくる。
『こちらイディルスキー隊。ドラスト隊とディグリート隊と合流しておる。灯りが洩れてる穴があるけど、おそらくそこに女帝がおると思うよ』
『ギーデウスだよ。こちらはサンターナ嬢と一緒にいるよ。イディルスキーとは別だけど見える位置にいる。たぶんこの先は女帝の部屋だねぇ』
「……陛下、疲労している兵達は休息後に引き上げさせてまだ戦えるものだけで女帝まで向かいますか?」
「そう、だな。戦える者の半数は引き上げの護衛に付けて我々だけで進むとしようか」
俺がそう言うとクレスト将軍が動き出して指示を出し始める。そして兵をまとめると連れてこちらに戻ってきた。
「陛下、引き上げはフルーデルカ天尉とデルトワードに任せます。かなり少ないのですがよろしいでしょうか?」
クレスト将軍はやや不安げな様子を見せる。サラス将軍も連れてこられた兵の数が両手で数えきれる人数のため、眉間にしわを寄せた。
「……かまわん。女帝とは私が戦うがその時に捕食個体が出たときに皆に戦って欲しいのだからな。今ので欲しいのだからなの大半は討伐してあるだろう」
俺は首を鳴らして集められた将兵の顔を見る。
サラス将軍、クレスト将軍、ケルツィア将軍、ラキスタリア天尉、ノーゼンハルト天尉など将軍や将軍に次ぐ実力者が居並ぶ。
俺は安心と信頼に頷いて奥に進む洞へと入っていった。
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