さぁ、パーティの始まりだ
さらに進むこと数十分、どこから声が聞こえる。
「むっ……陛下の隊か?」
反響しているが近いのでどこからかわかった。少し上に別の道があったのだろう。
「その声はサラス将軍か。無事で何よりだ」
「はっ。一兵も損なうことなく参りました。……フルーデルカ、合流できる道を探してきてくれ」
「あいさ、大将!」
女性兵の声がしてダンッダンッと地面を蹴って跳ぶ音が奥に向かっていく。
そして同じ足音が戻ってくる。
「大将、まずいです」
「何があった?」
「合流できる道はありましたがそこ先に大型が数体、道を塞いでいます。場所がかなり狭く人数が投入できませんので最大でも五人までかと。それに、向こうも暗視できてるみたいで気配も足元も消してる私の方を探すように見てました。気配や魔力の絶ち方から知能が高くかなり危険な相手かと」
「数は?」
「手前に四、奥に三です」
サラス将軍の質問の答えに皆が沈黙する。
「……仕方ない。合流後、私が行こう」
俺はここで見つかることを妥協してデルトワードを呼ぼうとするが、
「フルーデルカは私の部隊でも腕利き。そのフルーデルカが危険と判断したならば私も参ります。陛下お一人では向かわせません」
「私は陛下の剣、陛下が戦いに出るならば私も参ります」
サラス将軍とグレナルドが名乗りを上げる。
「アタシも行きます」
闇の中、クレスト将軍の声が近付いてきた。
十分ほど歩くと先導するデルトワードが足を止める。
「ここで合流できます。サラス将軍の部隊を待ちましょう」
しばらくすると薄らだが気配が増える感じがした。どうやら合流できたようだ。
「陛下、お待たせしました」
「いや。それよりもこの先だな。私も感知魔法を試してみたが小さく反応がある。さすがは野生の魔物、気配や魔力の絶ち方は人より優れているのだな」
俺は口元を歪めて笑う。強い相手は喜ばしいが話の通じない相手は好ましくない。
命を奪うのも好きではないが民を守るためならば仕方ない。
「陛下、サラス将軍、クレスト将軍、グレナルド衛士長。ご案内する場所と魔物との位置関係などを説明致します」
フルーデルカの説明で位置関係を把握すると俺は、
「……この二部隊の中でも屈指の四人であれば大丈夫だろう。その後は皆は伏して気配を絶ってくれ。万が一もないだろうか私達が全滅した場合はこれで他の隊に連絡を入れて総員撤退を」
通信水晶を取り出して手の平に置く。
「では、私がお預かりします。デルトワード殿、ラキスタリア、ノーゼンハルト。陛下達をご案内しましょう」
フルーデルカは水晶を俺の手の平から取ると案内を始めた。
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フルーデルカらが捕食個体に最も近い岩陰まで案内してくれると離れていく。きっかり十を数えると俺は念じる。
(『制御・光球』)
淡い光を放つ球が少し離れた上空に現れる。
岩陰から飛び出した俺達の前に立ちふさがる七つの影が映し出された。
「左の二体は私が」
「私は右二体を」
グレナルドとサラス将軍が先行する。俺とクレスト将軍は後ろの三体に的を絞る。
「『換装・黒冥、紫洛』」
グレナルドは左手に黒の剣、左手には釵と呼ばれる三つ叉槍の先端のみのような武器を持つ。
サラス将軍の手には金色の魔力を纏う三叉槍がある。
そして俺の横でクレスト将軍から魔力が溢れてその腕が変形していく。太さと長さを増し赤い鱗に覆われる。そして伸びた指には鋭い炎の爪がある。
「ふっ!!」
グレナルドが一呼吸吸って更に加速する。瞬時に相手との距離を詰めると剣でオークの体に蛇の頭を持つ個体の体を十字に裂き、釵を牛と山羊の頭をした巨猿に突き刺して引き裂く。
右の二体はサラス将軍に向けて攻撃を開始していた。蟹の鋏を持つ個体が両腕を伸ばし、もう一体は複数ある口から炎をまき散らす。
しかしサラス将軍は炎を片手で払うと二匹まとめて剛断一閃、斜めに斬られた二匹は崩れ落ちる。
その二匹が崩れるよりも早く、俺とクレスト将軍は後ろの三頭に迫っていた。
複数種の獣の混じった個体と鎧の腕とゴーレムの体を持つ個体をそれぞれの腕で縦に一閃する。力のみのゴリ押しだがしかたない。魔法でぶっ飛ばせば壁などに衝撃が及んで下手すれば洞窟が崩壊するかもしれないからだ。
横を見るとクレスト将軍が元が何かわからないほどに引き千切った敵を踏み潰していた。
「よし、大丈夫だな」
「はっ」
「はい」
サラス将軍とグレナルドの返事がすぐに聞こえて、
「……はぁはぁ……はい」
やや息切れしてクレスト将軍の返事が聞こえた。
たしかに手を当たったときに感じた力はゴールド上位、同等レベルとクレスト将軍では全力に近い力でいかなければならなかったのだろう。
「皆、ここは大丈……」
と俺が後続に合図を出したとき、キーンと響く音がする。それは全員に聞こえたようでサラス将軍らも耳を押さえている。
「……何だ、今のは?」
「完全にバレたようですね。かなりの数がこちらに向かってきています」
クレスト将軍のつぶやきの後にグレナルドが周囲警戒を始める。
デルトワードとフルーデルカらがこちらまで来ると、
「感知魔法の測定ですが五十ほどの個体がこちらに向かってきています」
「陛下、こちらを」
デルトワードの報告を耳に入れながらフルーデルカから通信水晶を受け取る。そして、
「私だ。全部隊に告ぐ、サラス将軍と私の隊が敵に補足された。近くの個体がこちらに接近してきている。我々が捕食個体と戦っている間に女帝まで辿り着いた隊があれば安全な距離を保ち、他の隊との合流を待て」
各部隊から返事を受けると俺はこの場にいる皆に声をかける。
「先ほどの戦闘により我々は補足された。感知魔法でわかっている者もいるだろうがかなりの数の捕食個体がこちらに向かってきている。我々は今よりここで円陣を組み捕食個体を殲滅する!」
俺は照らされている岩壁と天井を見てから地面に手を当てる。頭の中でこの空間を整頓していくイメージを持つ。
ごつごついた岩肌は平らな地面に、そこらにある岩も集積して柱として天井が落ちないようにする。
俺のイメージと魔力に合わせてマナが呼応し地面を、壁を、天井を作り替えていく。
「「おおおおっ!?」」
兵達の驚く声がするが俺は作業を進めて全員が固まって陣を組めるほどの広さを作り出す。
「これで、皆で戦えるな」
俺が立ち上がる頃には捕食個体の第一陣がまもなく来ることがわかっていた。
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円陣を組んで近距離戦を得意とする者を前衛とし一番外に、補助魔法を担う中衛、そして壁の保護と回復を務める後衛を中央に配する。
「離れすぎず間を抜かれないように気をつけよ!もし抜かれた際には中衛が複数掛かりでなるべく早く討て!」
サラス将軍が指揮を執る。十六将一位だけあって兵達の信頼は高く、ほどよい緊張が走り士気が上がる。
「第一陣、来ます!」
複数箇所の壁を破壊して捕食個体が雪崩れ込んでくる。
やはり様々な形をしていて牙や角、爪などがどれも攻撃的なフォルムを持つ。
「かかれぇぇぇぇ!!!!」
俺の左右にはヒルデとグレナルドが立っている。大鎌を持つヒルデの背中には翅が生えていて翡翠色をしていた髪が金色に変わり小さい放電を繰り返している。
その奥ではジグレイシアの両腕がクレスト将軍と同じように龍化している。蒼色の鱗からは冷気が立ち白い結晶が腕から零れる。
「久しぶりに本気で行きますわ」
「……ちょっとばかり、狂暴になっちまうなぁ……」
二人からはやる気が漲り魔力が体を覆う。ジグレイシアは口から牙も見えていて獰猛な雰囲気が増す。
「三人とも、命を大事にな」
「「「はっ!」」」
俺が前に踏み出すと三人も前に出て迫り来る捕食個体をなぎ倒し始めた。
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