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ちょっと一息

 ルイベックとやらの砦に兵を返してから二ヵ月。あのあとは出てきた副将に顛末を告げてダグライドに渡した親書を必ず帝都に届ける約束をさせて、保険としてルイベックをこちら側に連れてきてあった。


 何日間かは檻の中から叫んでいたが、三食昼寝付き魔法防壁加工独房にいれてあり、手枷足枷付きのサービスもあるので脱走のしようもない。

 ついでに言えばオカマは気に入らない。


-----


 俺が自室で政務をしているとノックがされて誰かが入ってきた。俺の返事を待たずに入っていい者は限られている。

「陛下、グリエス内政特務官より書簡が届きました」

「ああ。ありがとう」


 浅黄色のロングヘアに群青色の瞳、そして甘いミルクチョコを思わせるような肌をした俺より少し上の年頃の女性、レイラ・カリミオンという名だ。

 彼女はヴァイゼ・エルフでエルフ族の純血統ハイ・エルフよりも更に魔力が高く、エルフ族に伝わる古代魔法を使えるほどの血統らしい。

 彼女の両親はアンリ先王の左右にいたアドウェネドとフロミラの子にあたり、役職はひだりのという。


-----


 この役職は王や前任者から指名された者が代々引き継いできた役職で、古くは初代王の建国に功績のあった二人が右と左の初任者だそうだ。

 彼女はアンリ先王からの指名ではあり、両親から英才教育を受けている上に、その才能は計り知れなく高い。


 和平案について全てを知るのは俺以外には彼女しかおらず、また将軍らが指摘した点は前もって彼女が答えを用意していた。

 そしてレイラが左としてシュレリアから俺の補佐を引き継いでシュレリアは本来の仕事に戻っている。


-----


 レイラから書類を受け取って内容を確認する。国営農場が軌道に乗り始めており、最初の収穫の予想や状況などの報告書だったので印を捺しておく。


「それとこちらが王妃候補の方の一覧になります。年末までには方々とお会いになっていただき、絞り込みをしていただきとうございます」

 ドサリとおかれた紙の束にうんざりする表情を浮かべると、

「これも王の仕事でございます」


 一番上を見ると名前から始まり、年齢、身長、体重、スリーサイズ、プレートカラー、種属、血筋、親兄弟の役職、家族内での立ち位置、学校や家庭教師の履歴、趣味、スキルなど、細かく情報が載っており、一枚読むだけでも苦労しそうな気がする。


 さらに部屋にノックがされて入ってくる者がいた。書簡をいくつか持ってきたのがみぎの、ミック・ヘイル・ロイド。

 短めの無造作ヘアは水色でややチャラい感じもするが、身だしなみは整っている。顔立ちと相まって、芸能人さながらの格好よさがある。

 情報収集と解析において並々ならぬ能力を見せ、和平策のベースとなった数十枚の書類も彼が探し出してくれたもので、さらに交渉術も巧みである。もちろん、他の能力も高く、レイラと同じく若くして多才で俊英である。


「陛下、グリエス将軍より獣人国に到着した旨の報告書と、ダンウッド将軍よりエルフ公国に到着した旨の報告書、サラス将軍より帝国からの親書が届いた旨の報告にあわせて帝国からの親書が届きました」

 書簡を預かると俺は一気に目を通していく。獣人国には獣人に近い魔狼族のグリエス将軍を、エルフ公国にはエルフのダンウッド将軍を送り込んで『あること』を頼んである。


 そして問題の帝国側からは、

「ふむ、ルイベックの砦での交渉で落ち着いたか。それと、召賢館と集明館の方はどうなっていますか?」

 俺が新たに手がけているのが召賢館と集明館の二つ。


 召賢館は古代中国であったものを模して、一芸に秀で軍臣民の利や国益につながる事ができる者をあまねく求める施設である。

 身分や年齢、種属、性別、プレートカラーがいかなる者でも申し出ることができ、審査さえ通れば適したところに雇用される。


 集明館は実験場や魔力、資材、能力などがないため実行できない者が新しい魔道具や魔法、技術技法などの改良や発展のアイデアベースを持ち込める施設である。

 もちろん、こちらも審査さえ通り利益が出そうなものであれば研究のために雇用の道もあり、実際に利益が出ればアイデア料として利益からの一部が金銭の形で本人へと直接与えられる、いわば特許認定局でもあるのだ。


「はい。現在、王都内にて施設の建設中です。あと幾日かで終了いたします。それから内部の調度品などを整える次第です」

「うん。無駄なく贅沢なく、でお願いします。才能の発掘は国の発展には必要ですからね。……あとは、決済とか確認とかなければ今日の政務は終わりましょうか」


 俺がそう言うとミックは返事をし、レイラは一瞬だけ王妃候補の書類の山を見てから頭を下げた。


-----


 俺は自室に戻ってベッドに寝転ぶと正面に置いた紙の束、いや山の上から一枚取って目を通していく。


 ネリー・ファクラス・インザーギ、19歳、魔龍ブルードラニクス族で親は領地持ち貴族か。

 ありか、なしでいえばありなんだろうけど。というわけで紙の山の左に。


 シャルル・ガリアス・ジャンミール、12歳、魔石人族で……12!?

 これはダメだろ……。紙の山の右に置く。


 とりあえず、俺は年齢で別けることを始めていた。15歳以下は未成年だから、ひとまず弾く。

 青い果実がいいと言うヤツもいるだろうが、俺はそのクチではない。

 右に左に書類を別けているとノックがされて外から声がかかる。声の主に許可を出すと、失礼しますと入ってきた。


 俺がベッドに寝転んでいるのを見てベッドサイドまで来る。

「陛下、お疲れ様です。甘い物とお茶をご用意いたしました」

「ありがとう、イゾルデ」


 俺はベッドから起きると縁に腰掛けて首と肩を回す。

「嫁取りなんてまだ早いって思うんだけどなぁ」

「陛下には王妃様が必要ですよ」

 私室では公私を分けて、言葉使いや動きがいつも通りにしている。

 その方がアゼリアやイゾルデも接しやすいだろう、そう思って聞いてみればやはりそうで二人にも気を抜いていてもいいとは言ってある。


「今日は陛下に教えていただいた〝くっきー〟を試してみました」

「へぇ。どれどれ……」


 この世界では趣向の食べ物が余り多くなく、おやつや軽食、夜食は果物やサンドイッチがほとんどで、お菓子といえば飴や粉焼き、果実ジュースになるらしい。

 それでは面白くないと数日前にドライフルーツ入りのクッキーをアゼリアとイゾルデの前で作って教えたところ、今日持ってきた。


 いい感じに焼き色のついた一枚を取ると口に運ぶ。バニラエッセンスがないので風味にかけるかと思ったが酒漬けされたドライフルーツの甘味がほんのりと口に広がり、次の一枚へと手が伸びる。

「うん、美味しい、美味しい」


 若干不安そうだったイゾルデに笑顔を向けてそう言うと次の一枚を口に入れる。

「よかったです。味見はしたのですが、陛下に教えていただいたのにお口に合わなかったらって不安でしたので……」

 ティーカップに手を伸ばして人肌ほどの茶を飲む。この国ではフルーツティーがやや甘味が強いが、この茶は紅茶に近くクッキーとよく合う。


「ほら、イゾルデも食べよう」

 イゾルデの口に一枚差し込む。一瞬挙動が怪しくなったイゾルデだが頬を染めて笑うと咥えていたクッキーを手にすると、

「はい。いただきます」

 ポリポリと音を立てて食べ始めた。


「アゼリアはどうしたの?」

「……んっ……アゼリアなら陛下の衣服を取りに行くと言ってましたので間もなく来るかと……」

 タイミングが悪く、イゾルデはクッキーをしっかりと飲み込んでからチラリとドアの方へ視線をやった。


「二人で俺の世話を全部してくれてるんだよねぇ。部屋の掃除に服の洗濯、調度品の入れ替えや細かい備品の補充、魔石の魔力残量管理、六花の世話まで」

「私達の役目であり誇りでございます」

 俺がマクラ側のクッションに丸まって寝ている六花に目をやる。そんな俺を見てニコニコの笑顔をするイゾルデは可愛らしくて、つい撫でたくなる。


 またノックがされてアゼリアの声がした。俺が入室を許すとアゼリアは俺の衣類を乗せたワゴンを押しながら入ってきた。

「アゼリア、お疲れ様」

「陛下のためなら何事も厭いません」


 俺の方を向いて綺麗なお辞儀をすると衣類を片付け始めた。

 俺は終わるのを待ってからアゼリアに声をかけてベッドサイドに呼んだ。

「アゼリアも食べなよ。イゾルデも食べたからさ」

 俺が声をかけるとアゼリアは笑って、では失礼して、と一枚手にとって口にした。


 こうなるまでには多少時間がかかった。最初は王のために用意された物を召使いである自分たちが口にするのは恐れ多いと遠慮された。

 しかし「どんなに美味しい物でも一人で食べても美味しくない」と俺が言い出し、俺が美味しく食べるために、という名目で一緒に食べるようにしている。


 俺がフルーツティとクッキーで一息つくと、

「アゼリア、イゾルデ。女の子の結婚適齢期ってどのくらいなんだ?」

 俺は先ほど見た資料の中で王妃候補の年齢が上は27、8だったのだが下が6歳と頭を抱えたくなるような年齢であった。


「一般的な家庭であれば……そうですね、14から20歳頃が多くなります。王卿の方でしたら婚約だけなら10歳や5歳頃でもされる方もおられます」

 アゼリアの言葉に俺は小さく頷く。

「陛下のおられた世界ではどうだったのでしょうか?」

「うん、俺のいた国は20歳で成人で初婚年齢は25歳とか30歳だったし、この国みたいに一夫多妻制ではなかったよ」


 イゾルデは少し不安そうなそぶりを見せる。

「陛下は……元おられた世界に帰られたいのでしょうか?」

「それはないな。王という立場は重責で俺に全うできるかわからない。しかし皆が俺を頼りにしてくれているから俺は頑張れる」

 口元には笑みが浮かび、本音が出てしまった。軽く握った拳に力が入る。


 数日後に控えている和議交渉、これがうまくいけばこの国の変わる起点となる。

 俺はそう思いながら新たにクッキーを口にして、ベッドに視線を移す。


 ……和議がうまくいったら嫁決めないとダメなのかなぁ……。

誤字脱字がありましたらご指摘の程お願いいたします

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