討伐準備
かなり間が開いてしまいすみません
数日後、クレスト将軍の砦に到着するとすでに各将軍の砦から派遣された将兵が揃っていた。
どの砦も相当手練れのもののみに絞り込んだのか人数はそこまで多くない。報告書を見ると総数520人ほど。うち食糧や武具など糧秣を運ぶ者が120。実質戦闘員は400と多くはない。
しかし人数と糧秣の書類に添付された各将兵の詳細データを見ると個々の戦闘にも集団の戦闘にも優れた猛者のみと言うのが見て取れた。
ただ俺が気になったのはジグレイシアの様子が少しおかしく、到着するなり体調不良を訴えて砦の一室で寝ていることだった。
俺が砦の合議室に入るとすでに将軍もしくは各将軍の派遣した隊長が揃っていた。
「私だけ遅くなってすまない。些事であったが重なり王都からの出立が遅れた」
俺はそう言いながら椅子に腰掛けると全体を見る。
将軍自ら来てくれているのはサラス将軍を筆頭にギーデウス将軍、イディルスキー将軍、サンターナ将軍、ドラスト将軍、ディグリート将軍だった。
その他の将軍は書類にて行けない旨を陳謝する内容が添えられて砦の副官か副将が派遣されていた。
どの砦からどの程度の兵を出すかについては将軍らで合議してもらっていたのでそこに問題はない。むしろここに兵が集まりすぎて別のところで不測の事態が起きたけど兵が足りませんでした、なんて事がなさそうだから大助かりだ。
「イディルスキー将軍、ギーデウス将軍、お二人にはご負担をお掛けしますが頼りにさせていただきます。ではお願いします」
経験豊かで女王や捕食個体との戦闘経験もある二人に作戦参謀を任せている。俺が促すと合議室の壁に立てかけられた大きい板に兵が紙を貼り付ける。
そこには砦を右下の方にして北西方面に伸びる地図が書かれていた。
「では説明をするぞぃ」
イディルスキー将軍が指示棒を手にして説明しようとしたがそれに先んじて、
「先に聞いておくよっ!こんなかで母体や捕食個体との戦闘経験がないものは手をあげなっ!」
すると半数を超えるものが手を挙げた。もちろん、俺も手を挙げている。
ギーデウス将軍は片手を顔に当てて大きなため息をつく。
「どいつもこいつも紙の上でしか知らんのかね……」
「数が少ないんじゃ仕方ないかねぇ。概要は全員知ってるはずじゃから飛ばすよ」
イディルスキー将軍は飄々と説明を始めた。
「今回、クレスト君の管轄に出たのは捕食個体、ここに来る前に見てもらってはいるね?あれが見つかったのがこの辺り、じゃね?」
イディルスキー将軍は砦から左上、紙の中心に指示棒を指してクレスト将軍を向いた。クレスト将軍が頷くと、
「最初に八名の小隊が消息絶ったのがこの森。その後の捜索でここで73体、その後の捜索でこの辺りで27体発見討伐しとる。それとこの辺りで発見した捕食個体は魔物の死体を持って観察追跡、この山間を通って北北西、そしてこの渓流沿いに西北西に進路を変えてこの山の中に入ったところで追跡を停止」
青いインクで描かれた線が捕食個体の動きを示す。また別に赤や緑の線もあり別の経路からこの山に入っていることを示している。
「追跡した四つの群れがすべて同じ山に入った。となればこの山に母体がいる確率が高い」
「で、問題は捕食個体がどれもゴールド、シルバー級とかなり強いよっ!下の兵達だけじゃない、油断すればアンタらや私らでもやられる可能性があるから油断、慢心せんこと。いいね!?」
イディルスキー将軍とギーデウス将軍の説明と叱咤はその後もサクサクと進み、
「四方面からこの山を包囲、捕食個体の殲滅と母体の発見を目標とする。総指揮官を陛下に、北は私、西は陛下、南はイディルスキー、東はサラス将軍が指揮を執る。指揮下に入る各将軍の配置は今から指示を出す、以上!」
作戦といっても包囲殲滅なので各部隊が連動して山に登りながら殲滅していく、というだけだが木の上や岩場の下、洞窟の中など探す場所はかなりあるので長時間必要となる見込みということだった。
「出発は明朝六時。各部隊、今夜のうちに物資配給を受けておくんだよ!」
最後にギーデウス将軍がそう締めると主に野太い声で「オオォォ!!」と声が上がった。
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俺の指揮する西方部隊には俺と衛士隊のほかにクレスト将軍、ディグリート将軍、ジグフリオス将軍配下のグラントリオ下将軍、ファンドール将軍の補佐将のカイエン前将軍、この四将が率いる部隊がつくことになった。
「陛下、道中は我々が警護致しますので陛下はごゆるりと……」
といわれて俺は衛士隊と一緒の馬車に入れられてやることもなく、ただ気持ちを落ち着かせていた。
ジグレイシアはやはり顔色が冴えず、声をかけても反応も少し悪い。
一抹の不安を抱えたまま、問題の山に到着するのにはさほど時間がかからなかった。
山は険しくはない。どちらかと言えば高原の森といった感じであるが山裾がかなり広い。
途中で別れた北方面、南方面の部隊の人は見えず拠点とする天幕が胡麻より小さく見えるだけだ。
各方面、拠点とその間を抜かれないように感知魔法で索敵する防衛部隊と山に入り索敵討伐をする攻撃部隊に別れて動く。
俺は張られた天幕の中で捕食個体と母体について思案を巡らせていた。
特性については王都の研究室で聞いてある。
捕食個体は母体から生み出されるのだが個体としての思考はほとんど持っていない。大まかな行動は二種類で、個体自身が生命活動を行うのに必要な食事をする。もう一つは魔力の高い生物を母体に持って行くこと。
この二つで休息や睡眠もほとんどとらずに活動できるらしい。
そして母体は捕食個体の持ってきた餌を食べて新たな捕食個体を産み出していく。
母体は産み出す捕食個体の卵とは別に銀の卵を産む。この卵から産まれた個体が新たな母体となって群れを統括するか、新たな銀の卵が産まれた場合は巣立ちをして別の群れを作り始めるのだが、厄介なことに前の母体の力を引き継いで産まれるので母体は世代を重ねるごとに強くなる。
言うならば一世代ごとに進化をする魔物だそうだ。
「……女帝、か……」
推定ブラック級、もしくは準ブラック級の魔物で戦えるとすれば、俺、サラス将軍、グレナルドの三人に絞られる。サラス将軍とグレナルドでも一撃で死の可能性があるという相手だ。
思案している俺の前にグレナルドが跪き俺を見上げる。
「陛下、お願いがございます」
グレナルドの表情はいつにも増して真剣味があり、抑えている感情が目に映って揺れている。
「女帝との闘いの際には私をお使いください」
その言葉の意味は理解できた。グレナルドの真の戦闘形態である鎧として使って欲しいと言うことだ。
「……纏えと言うことか」
「はっ。微力ながら陛下のお力となりとうございます。私を纏っていただければ私の剣技や魔法、スキル、すべてを使えます。何卒……」
頭を下げたグレナルドを撫でて、
「ああ、頼む。私は……いや、俺は魔物との戦闘経験がゼロだからな。頼りにさせてもらうぞ」
「はっ!」
顔を上げたグレナルドは笑顔を浮かべていた。
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