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ロザリオ・グレナルドの本気

 グレナルドの足元から溢れ出る黒い煙はユラユラと形を変えながらグレナルドの体に纏われる。

「あれは何だ?」

「グレナルドの戦闘形態時にだけ使える『黒瘴気』というスキルらしいです」

 ジグレイシアが俺の疑問に答えてくれるが、『らしい』がつくということは詳細はわからないのかもしれない。

「陛下、あれは他人からの攻撃をあの瘴気が盾となって阻むのでグレナルドさん自身は攻撃に専念できるので実に厄介な防御なのですわ」

 ヒルデは苦々しいことでも思い出したのか、拗ねたような顔をしている。


「『換装、黒冥』」

 グレナルドが木剣の柄を投げ捨てて空を手を伸ばす。声に呼応して光が現れると剣を型取り、黒い光を放つ鋭い片手剣となる。

「……ふっ!」

 裂帛の一閃、グレナルドが剣を振ると六つの黒い衝撃波が別々の軌道で天に迫る。

 天はこれに対して左腕を盾にして前に出る。当たった衝撃波は霧散して黒い塵と成って砕け散っていく。

「はあぁぁっ!!」

 流れ弾は練兵場を包む壁に当たり砕けるがつんざくような衝撃音で周囲が揺れる。

 十分に勢いつけて前に出た天は届かない距離で右の拳を前に打つ。


 拳の前の空間が陽炎のように揺れて淡い白い塊が現れる。純粋な魔力の塊は拡大しながら放たれてグレナルドを飲み込もうとする。

「せやぁぁぁぁぁ!!」

 グレナルドは自分の数倍の体積はある塊に向けて剣を振るう。黒い閃光が魔力の塊に入るとバラバラに切り裂かれる。


「……思ったより、やるわね」

「そっちこそ、さすが先輩の護衛をするだけは、あるね」

 グレナルドは天を認めるようなことをいい、天もそれに生意気な笑顔を返す。

 天はそのまま一気に前に走る。そしてグレナルドの右側に蹴りのラッシュを見舞う。

 グレナルドの黒い瘴気が盾となって蹴りを阻む。が天の脚甲から刃が伸びる。それがグレナルドの頭、肩、背中、足を同時に狙った。

「……ちっ……」

 天の攻撃はすべて黒瘴気に阻まれる。まるで手のように伸びたかと思えば霧状だというのに衝撃音が金属のように硬質で高い音がする。


 グレナルドが天に向けて横凪で払うが天の体は高速で後ろに下がる。バックステップではなく、地面についていた左足で蹴ったようだがあの神衣のおかげか身体能力がかなり補正されている。

「『換装、天轟!八輝!』」

 グレナルドが追うように飛びかかりながら天と地に手を向ける。右手の剣が光の粒子に変わり、左手には新たに光が現れてそれぞれ武器を形成し始める。

 右手に槍、左手には長刀のような武器が現れる。


「あのアホッ!シャル、ダルハッド!」

 ジグレイシアの顔色が変わった。そしてシャルナックとヒルデも血相を変えて詠唱を始めた。

「『凍氷のマナよ、我が声に応えよ、すいこおり大壁たいへきとならん、すべては凍り我らを守らん!』」

「『虹光のマナよ、我が声に応えよ、極天の光は聖なる力となる、刃を受け止め衝を包む!』」

「『雷光のマナよ、我が声に応えよ、刹那に煌めく無数の雷、連なり連なりて打ち砕く壁となれ!』」


 三人の詠唱が重なり、俺も障壁を展開した方がいいかと魔力を練る。

「『氷結の輝壁(フリージングガーディ)!』」

「『至極天の輝光壁(シエルライトガーディ)!』」

「『雷光の多重壁ライトニングレアガーディ』!」

 三人の発動音語に合わせて氷と光と雷の壁が天の後ろに作られた。俺もそこに、

「『制御コントロール空気エア緩衝性障壁クッションシールド』」


 そしてグレナルドの槍と長刀の裂きに漆黒の塊が現れる。

「おおぉぉぉぉ、狂凰轟断閃きょうおうごうだんせん!!」

 グレナルドの咆哮と共に振りかざされた槍と長刀が描く切っ先から、巨大な黒い十字架が放たれて天に向かっていく。

 天は回避が間に合わないと判断したのか、その場に足をドンと踏み締めて左肘を前に出して構えた。

 直後、天のいた辺りを中心に練兵場に耳が聞こえなくなるほどの轟音が響く。そして四人の張った障壁に巨大な黒い十字架が突き刺さる。

 ガラスを連続して割るような音がして障壁が砕けていく。青白い粒子が、白い光の粒が、黄色い火花が飛び散る。そして俺の張った障壁に到達した十字架はボコリと障壁にめり込み、やっと消えた。


「やり過ぎだろ……」

「ローザ、熱くなりすぎ……」

 こちらまで俟ってきた土埃を払いながらジグレイシアとシャルナックが愚痴る。ヒルデは目にでも入ったのか顔を押さえて目を瞑っていた。

 俺としては天の安否が気になるのだが、

「あーびっくりした……」

 立っていた場所ではなく障壁があった辺りの地面に仰向けに倒れている天がいた。

 グレナルドの方は武器を消して瘴気も放っておらず戦闘の修了の意を示していた。ただゆっくりと天の方に歩み寄りながら兜を脱ぎ、そして天のそばに立つと手を伸ばした。


「まさか、あの技を受けて無傷とは思いませんでした。数々の無礼、申し訳ありません」

 天はグレナルドの手を借りて立ち上がると、

「だから、戦えるって言ったじゃないですかー」

 と笑ってみせる。

 どうやらお互いを認めたらしく和やかな雰囲気を漂わせ始めた。


 二人が仲良く並んでこちらまで来ると俺はニコリと笑い、すっと指を立てて、和やかな声で、

「二人とも」

 グレナルドと天は俺の顔を見る。グレナルドは清々しそうな表情から真面目な顔に、天は楽しそうに笑っていたはずが時が止まったかのように表情が引き攣る。地面を指さし、

「せ、い、ざ」

 俺はニコリと笑いながらこめかみ辺りに青筋を浮かべた。


-----


 練兵場を破壊とまでは言わないがあちこち、特に地面を削るわ斬るわで修繕が必要になったあげく、危うく周囲を巻き込むような大技ぶっ放すしたことに関して俺から盛大に説教を受けた二人はシュンとしていた。

 なお修繕は俺が魔法で無理矢理直して隣で訓練していた兵達は唖然と見ていた。


 とりあえず天に部屋を与えるために城内住み込み勤務者の空き室に余り物のベッドや棚を入れて天の部屋とした。

 一応キッチン、風呂、トイレもついているので生活には困らないだろう。

「じゃここお前の部屋な」

「……先輩の部屋から遠いです」

 俺の手が天の顎を掴み、

「んー?今なんか言った?」

 頬を左右から親指と人差し指でグイグイと挟み込む。口元を歪に歪めた天は、

不満(ひゅひゃん)ありません(あいましぇん)

「よし」


 このやりとりを見ているヒルデとジグレイシアはどう思っているかわからないが俺と天にとっていつものことで昔からやっていることだ。

「で、この後俺の嫁、つまりこの国の王妃に会ってもらうからシャワー浴びてこい。着替えも用意しておくから」

 そう伝えると天は俺から渡されたタオルを受け取りながら、

「一緒に入ります?」

「ガキじゃねぇだろ……」

 俺がため息をついて顔を押さえると、テヘヘと笑って天は風呂のある扉に向かっていき開けてからこちらに顔だけ覗かせて、

「昔は一緒に入ってくれたのにー」

「いい加減にしろっ」

 俺が手で払うとやっと扉の奥に姿を消した。


「はぁ……慕ってくれるのはいいがこれでは先が思いやられる……」

 俺の嘆きにジグレイシアは困り顔を浮かべながらも、

「陛下のありのままのお姿を知っているからこそ、尊敬し慕っているのでないでしょうか?」

 とそこにシャルナックがやってきた。

「陛下、言われた軍衣を持って参りました」

「ありがとう。グレナルドは?」

「はい。陛下の前で汚れた姿でいるのはよくないと着替えだけでなく汗も流してくるそうです」

 俺はグレナルドが着替えてくると言っていたわりには遅いので聞いてみたのだが、たぶん王と臣だけではなく乙女心として俺の前では汗の臭いなども気になるのだろう。


「シャルナック、すまないが天にその着替えを渡してきてくれるか?」

 俺が扉の方を指してシャルナックに頼むと三人が怪訝な顔をする。

「……あの、流石に……」

「へ、陛下?」

「ジグレイシアのほうが適任では?」

 恥ずかしがるシャルナック、困惑するジグレイシア、思案顔のヒルデ。俺は少し考えて思い出した。

「天が女って言ってなかった?」

「「「えっ?」」」

 驚きの声を上げる三人だが俺はてっきりわかっているか気付いていると思っていた。


 ガチャリと扉が開いて、

「先輩、お湯が出ないですー。使い方わかりません」

 天が顔を出すが肩まで見えていて危うく薄い胸の膨らみが見えそうになる。

「恥じらいくらいは覚えろ!」

「えー?一緒にお風呂入った仲じゃないですか」

 三人の視線が俺に向く。俺は脱力し肩を落とすと大仰にため息をついて、

「十年も前だろうが……」

 俺はシャルナックに私に行くように合図を出すとシャルナックは何度かこちらを振り返りながらも天の方に行って扉の向こうに消えていった。


 戻ってきたシャルナックは少し赤い顔で、

「……確かに、女性でした……」

誤字脱字がありましたらご指摘の程お願いいたします

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