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うん、どーやってきた?

「陛下と同じ世界から来た者だ、と」

 俺はグレナルドの言葉に半笑いを浮かべて俺は呆れ混じりに頭を掻き、

「おもしろいなぁ。それだったら三人目登場じゃないか」

 俺はそんなことがあるかと一蹴したのだがグレナルドは更に俺を困惑させる言葉が出てくる。


「その、えっと……陛下のお知り合いだとも宣っており……」

「んなわけあるか……あまり騒がれても困るのだがな……」

 俺は紙に筆を走らせて数文字書くと畳んでからグレナルドに預けて、

「その者に俺の親の名前を聞いてきてくれ。その紙に名前が書いてあるから合っていたら連れてきてくれ」

 受け取ったグレナルドは紙を懐にしまい、

「では、行って参ります」


 十数分後……戻ってきたグレナルドがかなり困った顔で、

「……合っておりました……」

 俺は呆れて口がポカンと開いたままになり、顔に手を当てうなだれると、

「なんでやねん……」

 関西弁でのツッコミが限界だった。


-----


 グレナルドは応接室に通したとのことで俺は衛士隊の四人を引き連れて応接室に向かう。

 ノックしてから開けると部屋には複数人の警邏兵長が集まっており厳重な警戒が敷かれている。その部屋の中央を見た俺は、

「何が一体どうなってんだ……」

 ソファーに座る人に見覚えがあるどころか、よく知る人物だった。一般市民の着るような安物の服を着て、呑気に茶を啜りながら焼き菓子に手を伸ばしてはまた茶を啜る。


 扉の音に顔を上げてこちらを向いた。驚いた顔を浮かべたのは一瞬で口元についた食べ滓も気にせずに、

「よかったぁぁぁぁ!!先輩、お久しぶりです!!」

 勢いよく立ち上がると警邏兵長らの警戒する中、俺の方に駆け寄り胸元目掛けて頭からダイブ。グレナルドらは俺が手で合図を出したので何もしない。

「皆、警戒しなくていい。私の知り合いだ」

 俺の体に飛びつくが勢い余って俺の体が回転する。笑顔を浮かべて俺を見上げる小動物系の顔に俺は回転しながらため息をこぼした。


-----


 俺は部屋にいた警邏兵長らを下げると部屋にいたメイドに俺達の分の茶と菓子を出してくれるように頼む。

「先輩、ほんとに先輩ですよね?」

 キラキラとした人懐っこい目で俺を見てくる。俺は面倒くささ半分と地球での俺を知っているやつだからこそある恥ずかしさで頭の中が埋まってくる。


「あの、陛下、この方は?」

「えーと、まずこいつは朝比奈天。俺の知り合いだ。とりあえず天、俺の後ろの左からヒルデ、グレナルド、ジグレイシア、シャルナックだ」

 グレナルドの質問に俺は片手で頭を押さえながら天を指さし、その後に後ろの四人を指さして紹介するが天は不満らしい。

「先輩、つれない紹介ですよ。ボクはただの知り合いじゃなくてボクは先輩の家がやってた武術道場の後輩で、先輩の一の子分で、幼馴染みじゃないですかぁ。その可愛い後輩を蔑ろですかぁ?寂しいですよぉ」


 机の上に乗り出して俺に顔を寄せてくるが俺は笑顔でその顔を掴むと、

「うるせぇ、自分で可愛いとか言う後輩のどこが可愛いんだ?おっ?」

 少しずつ掴む力を上げていくと悲鳴が聞こえてくる。しかし俺はかまわずに、

「俺は今、紆余曲折あって先王からこの国を預かってんだ。「アイアンクローはダメっす!」でもって今ややこしいことが起きてて「先輩、痛いっす!」お前に説明してる時間が「今、メキッて音が!」ないのでな。片付いたら「マジ頭の形変わるっす!」質問に答える、でいいか?「は……い……っす……」うん、よし♪」


 俺が手を離すと天は机に崩れ落ちた。机に顎を当てて唇を突き出し、

「痛いっす……先輩いるところにボクありっすよ……」

 それでも不満らしく天は愚痴をこぼす。

「だいたい先輩が王様って何かちょっと変な感、じ……」

 と天の首筋の左右に二本の剣が突き付けられる。こめかみを痙攣させるグレナルドと無言で冷たい視線を下すジグレイシアが天の後ろに回っていた。


「あは、は……」

「うん、ホントに王様になっちゃったんだよね。で、この四人は俺の直属の護衛だから。グレナルド、ジグレイシア、俺と天は冗談を言い合える仲だから多少の無礼は流せ。そもそもこの国を全く知らないだろうからな」

 光の反射で剣が本物とわかった点は乾いた笑い声で冷や汗を流し、俺が諫めるとグレナルドとジグレイシアは剣を納める。

「……次、陛下を貶すようなことや辱めるようなことを口にすれば、……斬る」

 グレナルドの口調は温度を感じられず、ただ鋭い凍てつく眼光が本気だと語る。


「……はぁ……。えーと……天、この世界について知っていることは?」

 俺はとりあえず聞いておかなければならないことだけを聞くことにする。

「えっと、ゲームみたいに亜人とかモンスターがいる世界だけど現実、魔法ぶっぱも出来るけど詳しくはわかんないです。で、あとこっちに来てから見聞きしたのは全体的には中世欧州文化程度だけど魔道具で便利になってる。先輩が王様になって一年経ってる、隣の帝国と仲が悪い、あと……」

 天は指折り数えていき、最後に若干冷ややかな目になり、

「最近、先輩が二人目のお嫁さんと結婚したって事くらい?」

 と口にした。

 いうことは天自身はこの世界についてもこの国についてもほとんど知識がない。


「どうやってきたんだ?俺みたいに誰かに召喚されたのか?」

「えっ?先輩は召喚されたんですか?ボクは事故で死んだらよくわからない空間で自称神様に頼んできたんです」

 俺が召喚されたことが可笑しかったのか変な顔をする天の言葉に、俺は自称神様のところに頭を痛める。

「えっと、交差点で車に跳ねられて死んだみたいなんですけど、それが運命の事故らしくて、その自称神様が願いを叶えるって言うから先輩の所に飛ばしてもらいましたんですよ」


 一度死んだというのに何でもないかのように明るく話す。

「と言うわけで先輩のお供しますよ」

 いいスマイルにビシッと親指を立てられても困る。

「……そう言われてもな……」

「申し訳ありませんが戦う力のないあなたを陛下のお側に付けた際、陛下があなたを庇い陛下の身が危険になります。それに陛下は多忙の身、あなたと遊んでいる時間はありません」

 珍しくグレナルドが厳しい口調と目つきで天を見ている。

「あはは、グレナルドさん、だっけ?ボクのこと弱いって思ってる?」

 天が机を叩いて立ち上がる。


 俺も立ち上がると二人の間に立ち、

「グレナルド」

 グレナルドの頭をポンポンナデナデする。すると後ろから猛抗議が来る。

「なんで先輩は私にはソレしてくれないのに!!不公平です!!」

 バンバンと机を叩いて文句を言われた。なんで?

「へ、陛下……」

 子供扱いのようなことをされたかと思ったのかグレナルドは頬を膨らませて頭を撫でる俺の手を両手で捕まえる。

「先輩!ボクだって戦えますよ!自称神様にいろんな力もらってきたんですから!」

 プンスカ怒り出した天がグレナルドを指さし、

「ボクが弱いかどうか、実際君と勝負だよ!」

 指さされたグレナルドは自身を指さし、俺を見て、天を見て、

「私と、ですか?」

「……天、この子、この国でも屈指の実力なんだけど……天、手を出して『プレート』って唱えてくれるか?」

「『プレート』」

 手を伸ばした点の手から現れたのは……、

「マジか」

「何か、出た……」

「う、そ」

 枠を金、銀、銅の三色の輝きを放つトライメタルプレートだった。


-----


 練兵場、そこには中隊四つ程度の規模が訓練できる広さがある。そこに貼られている障壁はトライメタルプレート数人級の障壁で多少の流れ弾では破壊できない。

「さて、皆はどう見る?」

 俺は他の衛視達に聞く。訓練していた中隊の兵らも遠巻きにだが様子を窺っているのがわかる。

「ローザが勝つかと」

「俺もグレナルドだと思います」

「グレナルドさんに勝っていただかないと私的には困りますが負けるところも見てみたい気がします」


 三人ともグレナルドを推すがヒルデだけ若干私情が入っていることに俺はにやけた。

「天、お前、魔法は?」

「んっ?なんとなくだけど自称神様に教えてもらったから大丈夫です♪見ててください」

 天が俺から離れていき、訓練用の木剣を確かめているグレナルドに向いた。


 二人の距離は五メートル前後。その場で軽く跳ねている天。

「どこからでも、どうぞ」

 グレナルドはいつもの鎧姿に兜を着けて右半身にして剣を構えた。

「じゃ……遠慮なく」

 タンッと地面を蹴った天の姿が一瞬でグレナルドの前に現れる。天の拳打と蹴りの連擊にグレナルドは最小限の動きで躱していく。

「くっ……」

 天の口から声が漏れる。全力で当てに行っているというのにどれも当たらない。フェイントを混ぜても死角から狙ってもグレナルドは紙一重で躱すのだ。


「この程度、ですか」

 グレナルドが攻勢に出る。木剣が天を襲う。右手に持った剣で連続した突きから切り払いに切り下ろし、さらに右手が左肩の後ろに回るほどの勢いで切り上げる。

 そして背負うように構えた剣を一気に振り下ろす。発生した衝撃波ご空を裂き地面を割る。

 巻き上がった土煙が二人を隠し周りからは見えなくなる。

「グレナルドが押してますね」

「まぁローザだもんね」

 ジグレイシアの言葉にシャルナックはアッサリとした返事をした。ただ俺の知る天の強さを俺はジグレイシア達に教える。

「言っておくが天は俺より二つ下だが、アイツが一つ年上までの相手に負けたところを見たことがない」


 グレナルドは俺と同じ歳、天は同学年や年下はおろか一学年上にすら負けたことのない。

 八歳から道場に通ってきて、何だか俺に懐いてきて、俺の横でひたすら努力をしていた。八年の努力と父や祖父が認めるほどの才能を持った希有な者だ。


 土煙が晴れると割れた地面の横で困り顔を浮かべる天がいた。どうやら躱していたようで怪我はなさそうだ。グレナルドの放った衝撃波は練兵場の壁まで届いている。

「すごっ!地面斬れてる!?」

 まさか木剣で地面が斬れるとはグレナルドもとんでもない女傑だ。

「こんなの当たったら死んじゃわない?」

「体を覆う魔力量から怪我で済むはずです。まぁ、この程度で死ぬなら死んでも構わないのですが」

 自分の頬を指さし首をかしげて汗をかいている天だが、グレナルドの声には感情を感じない。

「……じゃ、本気出す。奥の手だけど」


 天が大きく息を吸う。そして何度か呼吸を繰り返す。

 俺も知っている呼吸法だ。息吹と呼ばれる丹田呼吸、常に腹圧のかかっている呼吸法で息を吐いたときに腹が膨らみ、吸ったときに凹む。そして、

「『神衣かむい』」

 天が呟くと天の体の周りに光の粒子が現れる。それが少しずつ形を成して光り輝くと白い手甲と脚甲、正中線と危険部位だけを守る鎧が現れた。

 ただ手甲は左右均等の形をしておらず、右は手首までのものだが、左は肘まで包むものでさらに肩当ても左の方が大きい。


「な……んですか、それは……」

 初めてグレナルドが後ろに引いた。天との距離をとるが、

「行くよっ!」

 天が走りだすと先ほどよりも距離があるというのに、早くグレナルドの横に現れる。

「くっ!」

 グレナルドは剣を数振り、天はそれを躱して踏み込む。拳打三発に見えるのだが空が爆ぜる音が五回。

 防御しきれなかったのか縦に向けた剣が割れて、グレナルドが吹っ飛ぶ。

 グレナルドは両足と左手で着地して柄だけが残った剣を右手にしていた。


「あぁ、久しぶりに本気を出せそうです」

 ゆらりと立ち上がったグレナルドの足元から黒い煙のようなものが立ち上る。

「ちょ、グレナルド!やめろ!」

「『虹光こうこうのマナよ、我が声に応えよ、輝きたる力を持って放たれる光玉、我らが盾となりて顕現せよ、極輝の光壁(シャイニングガーディ)!!』」

 あれが何かわかったジグレイシアが叫ぶ。シャルナックが詠唱を始める。

 ほぼ透明だが所々が光を乱反射して輝く半球状の壁が現れて俺達を包む。

「……修理代が高くつきそうな気しかしませんわ……」

 ヒルデの声に俺はどこから捻出するか考え始めた。

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