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式典祭・四

 式典祭の最終日、残念ながら朝から雨が降っていた。

 街の通りにいる者は少なく、屋根のない露店の多くは店をたたんでしまっているか、とりあえず柱を立ててその上に何かの毛皮や耐水性のある布のような物を張ってテントのようにしている店がチラホラある。


「雨は億劫だな」

「億劫でも仕事はございます」

 貴族や将軍達はまだ帰ってはいないものの俺にはやらねばならない仕事がある。早朝から案件をいくつか処理してついでに貴族に渡さなければならない書類も作っていく。

 クレアはまつりごとの役職はないので王城内にいて俺への謁見があるときには第二王妃として後ろの椅子に控えるくらいが今のところの仕事だ。

 レイラは左の職務のあるので基本的に俺の執務室にいるか俺の執務室と各方面の執務室を往復している。


 俺がやるのは決済や最終判断などになるのだが俺にくるまでの過程や判断後の指示はミックやレイラが各方面に出してくれている。

 二人の分野はざっくりとだが分けられていて、内政と軍務についてはレイラが、外交と貴族や代官らの情報関連はミックが、仕切っている。まぁほとんどを情報共有しているのでだいたいのことは三大臣と協力すればどちらでも出来る、と言うのが現状だ。


 俺はレイラの顔を見て、なんとなく思う。

「……レイラ、少し無理をしていないか?なんというか、体調が悪いというかあまりよろしくないように見えるのだが?」

 俺が心配するとレイラは少し考えてから明るい笑顔で、

「いえ、特に体調が悪い、ということはないのですが……そう見えますか?」

「うん、見える。王としても夫としても少し心配なのだが……」

「……ん-、大丈夫です」

 唇に指を当てて考えてからレイラはそう返事をして俺に笑顔を向けてくれた。


-----


 王城の外門、街路樹が左右に並ぶ軍用道路の門で俺は馬車の荷積みを見ている。

 理由は昨日の晩餐直前になって到着した一団、エルフ公国から俺の戴冠一年を祝うために来た者たちだ。

 多くの祝い品を受け取り、俺は感謝を述べて晩餐では貴族らに紹介し一番に盃を回した。晩餐で王から一番に盃を受けることはどの国でも大変な名誉であり、最大級のもてなしでもある。


 おそらくはミックの妻、シェーラさんが国元に知らせたのだろう。

 俺はこの一団にお礼の品を預けて、さらに感謝の意を伝えさせるためミックを特使とした。

「ミック、忙しいときにすまん。だがエルフ公国との外交には一番に頼りにしている」

「ははっ。自分が役目、充分に理解しておりますのでお任せください。ついでにシェーラの里帰りも、と陛下がおっしゃってくださりありがとうございます」

 周りに人がいるので臣としての態度でいるが門までとはいえ俺が城から出て臣下を見送るのはもの凄い対応らしい。

 そのせいで周りの兵はこちらを見ながらコソコソと喋っているのが背を向けていてもわかる。


「右様、準備が出来ました」

「御苦労。……では陛下。行って参ります」

 ミックは報告に来た兵と拝礼をして俺に挨拶する。そこに来た公国の一団の者には雨であるにも関わらず膝をついて、

「この度、公国から祝いの品を運んだだけの我々に過分なまでの歓待、まことに感謝申し上げます。また多数の返礼の品を受け賜り致しましたこと、女王に変わり御礼申し上げます」

 一団の長は王国で言えばミックの補佐役ほどの地位に就く者らしい。かなりの重臣を送ってくると言うことは王国との関係を相当重視してくれているのがわかる。


「こちらこそ遠いところから来ていただいて至らぬ事もあったかと。それに、雨の中にも関わらず膝をつかれては濡れてしまうではありませんか」

 俺は彼らを立たせると手を握り、

「エルフ公国女王陛下のお心遣い、誠に感謝しております。私も直接女王陛下に御礼申し上げに行きたいところですが時間も作れず大変申し訳ないことを深くお詫び申し上げます。ミックらを使者に立ててお送りしますが道中なにとぞお気をつけください」

 俺はそう言って一団とミックらの特使団を見送った。小雨が降り止まない中を馬車は走り出し、ゆっくりと遠ざかっていった。


-----


 夜には街も静かになり祭りの終わりとなっている。

 雨が降り止まない中、俺はテラスに出られず窓から外を眺めているだけだった。胸に抱く六花は退屈だと言わんばかりに欠伸をして俺の顔を見上げている。

「にゃーにゃにゃー」

「んっ?」

 俺は六花の額に指先を当てると優しくクリクリと指を動かす。六花はされるがままになっているが嫌がるそぶりはない。


 ノックの音に俺は返事をして入室を許す。俺がドアの方に視線を向けるとイゾルデが入ってきていてキャビンに乗せた寝具を抱えようとしていた。

「イゾルデもお疲れ様。いつも頑張ってくれてるけどここ数日は大変だったろうし、しっかり休んでくれよ?」

 俺が声をかけると不意を突かれたのかイゾルデは顔を赤くして、

「ひゃいっ!」

 手に持っていたシーツを落としかけて慌てて掴んでいた。

「……まったく」

 俺はクスリと笑って六花に問いかける。

「イゾルデはいつも仕事を頑張ってるよなぁ?」

「なぁーん、にゃーなー」

 六花は俺に返事するように鳴くと首をかしげてからスルリと俺の腕から出ていく。そしてイゾルデの足元に行くと頭を擦りつけていた。

「頑張ってるってさ」


 俺がそう言うとイゾルデはベッドメイキングを終えてから、

「そ、そうでしょうか?私は要領も良くなければ何かに秀でているわけではないですし……」

「うーん」

 俺は少し悩んでからイゾルデに寄ると手を取って、

「この手は俺やレイラのために頑張ってくれている。こっそり六花の世話もしてくれている、そのせいか懐いているようだしな。それにアゼリアのフォローもさりげなくしていて細かく目端が利く。十分ではないか?」

 俺が握る手から目を上げてイゾルデを見ると紅顔となって、眼に渦を巻き、俺の話の聞こえていないイゾルデだった。

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