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式典祭・弐

 街の大通りを八頭の白馬に馬車が牽かれていく。その馬車はオープンカーのように屋根はなく、二階ほどの高さがある。

 周りにも馬車があり琴楽団と管楽団が清廉なメロディーを奏でている。

 街の者は高い馬車の上に座る俺とクレアに静かに見ていて、拍手を送っている。


 婚姻のパレードは街の外でクレアだけを乗せて大外門から下層街と中層街を通り抜けて、上層街で城の周りをグルリと一周してから王城に入る。この時、クレアは中が薄ら透けて見える天蓋の中にいて影しか見えない。

 そして馬車が王城から出ると天蓋が外されていて、巨大なソファーに俺と並び座る。俺が黒の礼服、クレアのドレスは木の葉を重ねたようなデザインでワインレッドカラーをしている。


 新婦は家紋や家証をあしらった飾りや色、または本人の髪や瞳などの色のドレスを着るのが習わしで、ワインレッドはジルノイヤー家の家紋にも使われている色だ。

 ちなみにレイラは淡いコバルトブルーに星の煌めきをイメージさせるようなドレスだった。


 王城から出た馬車は上層街の東西南北八方位の通りと円形にある通りをゆっくり練り歩き、上層街を一周する。

 皆、小さな感興の声をこぼし、街にある時計塔からは白い花びらが撒かれる。

 ちなみに王城を出て三時間経つがまだ半分ほどしか回っておらず、そろそろ腹が減ってきているし、クレアなんて着替えの時に一口水を飲んだだけで六時間ほど何も口にしていない。


 それでも笑顔を絶やさずに民に向けて笑顔で手を振り続ける。

 なんとなく、天皇とか大統領もこんな感じなのかと勝手に思いながら、

「クレア、体調の程は?」

「大丈夫……ですが、顔が引き攣りそうです」

 顔をチラリと見ると少し疲れた雰囲気があるものの、クレアも笑顔を民に向けて小さく手を振っている。


 これがあと数時間続くのを二人とも理解していて、気が少し遠くなった。


-----


 王城に戻るとすぐに謁見の間に向かう。次はここから出られる王城前の広場が見えるテラスで軍臣民に戴冠一周年の言葉と婚姻の言葉を言わなければならない。

 クレアも急いで着替えて向かってきているはずだ。


 まず俺一人がテラスに姿を見せると下の広場と映像通信水晶と音声通信水晶から歓喜の声と万雷の拍手が聞こえてくる。

 俺はそれに応えるように手を顔の高さまで掲げてゆっくりと振る。それが見えると声と拍手はより大きな音となり、ゆっくりとボリュームを落としていく。


 俺は久しぶりにここに立つことに恥ずかしさと面倒くささを感じながら、

「聖魔光王国第十八代国王、シュウイチ・イマガワだ。ここに居並び、向こうに聞こえる者、全軍臣民に伝えることがある。今日は私が戴冠し一年が経つ日だ。あの日のことを最近であるながらも遠い記憶にも思う。

 この一年、私は色々と痛感した。己が力の不足、先王の偉大さ、周りの者に支えられる幸福。皆に見せられない失敗も多く、私の周りの者には負担を強いてきた。それでも私に付いてきてくれる皆に感謝をしている。

 多くの大人は仕事人や親などをやっているとは思うが、一年目というのは何かとわからないことばかりで、二年目は多様なことが出来る様になってくれだろう。同じように王として二年目を迎える私は様々なことに挑戦し、軍臣民の皆を多幸に、今よりも幸せでよい生活を出来るような為政に励もうと思う。

 そのためならば私は異界の知識を使い、帝国と戦い、エルフ公国や獣人国と和を結び、そして皆の声を聞く。

 為政に生活に、不満があるなら声を上げよ。耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶのではなく声にせよ。それが私利私欲ではなく、公利のため国のためとなるのならば私は聞こう。為政のために言葉を交わそう。

 私の二年目の抱負はそう言うことだ」


 俺はそう締めくくり微笑み、軍臣民の顔を見ていく。笑顔が見えて拍手が聞こえる。

 だが貴族達はどうだろうか?俺と論戈をかわそうとするだろうか?まぁ交わしに来ないなら俺から行くまでだ。

 晩餐会はどうなるかはわからないが俺は俺の言葉を端々まで届くように声を出そう。


 そして歓声と拍手が納まると俺は咳払いを一つして、

「それと、皆に伝えることがある。クレア・フリアナ・ジルノイヤーを側室として娶ることだ。彼女は人柄もよく多才で賢い、それに美人だ。私にはもったいないほどだが既知を得て、縁を持って、婚姻することとなった」

 フリアナ領につながる水晶から拍手と大歓声が送られてくる。そして俺の横にクレアが姿を見せて一礼する。

 貴族領にあるのは軍にある映像通信水晶ではないので音声のみだが、それでもクレアの輿入れが歓迎されているのがわかるほどの声がする。


「皆の祝いの声と拍手を受けて、今ここにクレア・フリアナ・ジルノイヤーを妻とし、私は軍臣民皆のためにより励むことを誓おう」

 俺の言葉の後にクレアが俺の半歩前に出て、

「クレア・フリアナ・ジルノイヤーです。今日よりシュウイチ・イマガワ陛下の側室第二王妃として軍臣民皆のために努める陛下のお心を安んじ、慎ましくお支えしていきます」

 クレアが一礼すると一際大きな歓声が起こる。


 これで民の前ですることは終わりだがこの後は街の教会とは違う王族のためだけの教会に行く。

 王城の最奥、貴書奥院のさらに深部に当たる城の奥庭の木漏れ日の注ぐ森の中にそれはある。

 この教会は初代王の墓でもあり、歴代の王が初代王や歴代王に何か誓いを立てる神聖な場所として存在している。

 ここに入れるのは王族だけで左右ですら入ることは許されていない。教会の入り口までですら、聖爵家と一部の公爵家の当主のみ付き添うことを許されているが喋ることは許されていない。


 周囲にはトライメタルプレートが数百人集まっても破壊できないといわれる障壁があるのだが、それを張る魔力源は不明である。

 おそらく大地や大気に流れるマナを吸い取って張っているのだろうが、それにしても恐ろしいほどに頑丈すぎる。


 王生存のまま王が替わったときには先王はここで報告と奉納を行い、初めて王の仕事が終わるそうだ。ほとんどの王が生存したまま次代に譲ってきたため退冠時の冠が残されている。王家としても歴史的にも価値のある物が多々あり、アンリ先王の宝剣と王冠もここに納められている。

 今日は俺を示す黄金の指輪とクレアを示す深紅の指輪を奉納して、歴代の王に誓いを立てる。


 俺は黄金の指輪にある隙間を捻り、深紅の指輪を滑り込ませる。そして炎を念じて黄金の指輪の隙間を溶接するとそれを廟のかかった台座に置いた。

 台座には俺の名が彫られていて俺に関する物箱の台座に置くことが決まっている。

「……先王様方、アンリ先王。本日、シュウイチ・イマガワはご報告に奉り参りました。西方第二領フリアナ領領主、ギルバート・フリアナ・ジルノイヤーが第二子長女、クレア・フリアナ・ジルノイヤーを側室第二王妃として迎え入れ、婚儀の儀典を行いました。手を取り合い国が大安のために尽くす所存でございます」


 喋るのは俺にしか許されておらず、クレアは俺の横で終始無言で拝礼の姿勢で留まっている。

 言葉が終わった俺はクレアに出るように手で促す。扉のそばまで行くとクレアだけを外に出して俺は中に残った。

 震える膝が作る覚束ない足取りでアンリ先王の台座の前に行くと、膝をついて、

「……アンリ、先王……本当に……私でよかったのでしょうか?」

 俺はアンリ先王に問いかける。声が震えて、視界が滲み揺れる。

「私はまだ、本当の平穏を皆に届けていません。同じ祖国の者がこの国を裏切り、アンリ先王や皆を落胆させた。俺は……本当に皆に……信じてもらえているのでしょうか?本当は帝国を滅ぼしてしまえば、皆殺しにしてしまえば、国民の心は満足するかもしれない」

 俺が俯くと何かが落ちて台座の足元に黒い染みを作る。


「俺は……誰も傷つけたくない、国の皆だけでなく帝国の兵も。誰かが命を失えばその家族や友は涙を流す、俺はそれが耐えられない。誰も傷つけずに、皆を助けたいなんてワガママなのはわかってます。それでも、……それでもよろしいでしょうか?俺のような甘い、温い考えで、本当に……」

 俺は誰にも見せられない心をこぼす。王でない俺が、本心を、声を、涙を、出すことが出来る場所はここしかない。

 レイラやクレアにすらこんなことは言えない。


 俺が顔を上げるとちょうど目の前にはアンリ先王の宝剣があった。採光の天窓から降り注ぐ光が反射して、俺の頭に向いていた。

 その光の中に、俺の涙ぐむ目には、手が見えた。優しく、暖かく、懐かしい、あの人の手が。俺が信じられなくて目を閉じて開くとそれは消えていたけど、俺の中には確か名温もりがあった。


 俺は涙をぬぐうと誤魔化すために魔法で充血を抑える。

 外に待つ皆のために立ち上がると俺は扉に向かっていく。開けばそこに待っているのは守るべき人達。


 アンリ先王、ありがとうございます。


-----


 やるべき式典が終わり、最後にあるのは晩餐会だ。今回は奇を照らさずに普通の宮廷料理を振る舞い、謁見の間で各貴族からの祝辞品への礼の品、返礼品を渡すための謁見がある。

 日本では葬式で使う言葉なのだがここでは礼に返す品であって、間違ってはないそうだ。


 俺が爵位順に謁見して渡していくのだが、その間は皆は歓談とダンスをしている。お礼の品を返すのはかまわない、かまわないのだが……。

 問題は最初の九人、王都の第一聖爵と東西南北八領の第一領拝領貴族の聖爵、九候と呼ばれる貴族。

 ものすごく苦手なんだよね……。

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