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お説教の時間

 きっかり二時間遊んだ後はカトレアたちと別れて城に帰った。

 帰り際にドゥアレスがやや緊張したような顔をしていたが何だったのだろう。


 私室に入るとアゼリアがいてベッドメイキングをしていた。

「陛下、お帰りなさいませ」

「うん。ただいま」

 邪魔しては悪いと思い俺はソファーに腰掛けて休む。イゾルデがいれば茶を入れて欲しいところだ。

 ドアが開いてワゴンを押したイゾルデが入ってきた。俺がいると思ってなかったのか、ノックがされず、俺と目が合うと狼狽え始めた。


「陛下、お帰りになっておられたんですか。申し訳ありません」

 ワゴンを入ったところに止めて俺の前に跪きペコペコと何度も頭を下げて謝るが俺は、

「ああ、ただいま。そんなに謝らなくていい。次からは気をつけてくれ」

「はっ、はい!申し訳ありませんでした」

 イゾルデは立ち上がると涙を浮かべていた。普通の貴族邸のメイドなら許されないことで厳罰が与えられるだろうが、この部屋の主は俺で当然ながら甘っちょろい。ついでに未だ部屋の掃除などを任せていることに慣れない。


 そのまま俺に背中を向けてワゴンを取りに行き、茶器や皿などを片付けていく。

 そこにノックの音がして俺が入室を許すとクレアが入ってきた。

「へーいか」

 明後日が式とあって機嫌よく俺の横に座り撓垂れかかる。

「もうすぐ陛下の側室になります、よ……よよっ?」

 クレアはおもむろに俺の胸辺りに顔を寄せて何かを確認する。そして眉を寄せて眉間にしわを作り、

「アゼリア、イゾルデ、どちらでもいいからレイラさんを呼んできて」

 なぜかレイラを呼ぶように指示を出してベッドメイキングを終わらせたアゼリアが走って行った。


 そしてアゼリアがレイラを連れてくるとアゼリアとイゾルデを退室させて誰も部屋に入れないように命じる。

 クレアはレイラに何事か耳打ちして、それからレイラとクレアが俺の両サイドに座った。

「さて、陛下。おたずねしたいことがあります」

 あれ?クレアとレイラの目が据わってる。何か悪いことをしたかなと自身で考えてみるが思い当たる節がない。

「あなた様、私やクレアに隠れてどちらで()()になってましたか?」


 遊びに行ったことを怒られているのかと、

「ん?あ、いや、明後日の打ち合わせも多くなく時間ができたもので街を見に行ったのだが?」

 首をかしげてみるも二人の様子は変わらず、レイラは憤懣の様子で構えていたが、クレアは感情的になって声を荒げた。

「どーして陛下に私達の知らない女の、しかも発情したような()の匂いがあるのですか!?」

 バンッ!!と激しく机を叩いた。


 発情したような女の匂い?

 思い当たる節は……ないこともなかった。

「……理解した!二人とも俺が浮気したとか考えてるんだろ?勘違いをしている、証明できる、ギルドットを呼んで俺が外で何をしてきたか聞けばいい。疑うなら真偽玉を使ってもかまわん!」

 俺の様子にレイラは落ち着き払い、ベッドの横にあるサイドボードの引き出しを開けると手鈴を取り出す。それを持ってテラスに出ると鈴を鳴らす。俺が三ツ者を呼ぶときに使っている道具だ。

「お呼びでしょうか?」

 数秒で現れたギルドットは呼んだのが俺ではなくレイラであることに少し首をかしげたがレイラに招かれるまま、部屋に入ってきた。


-----


 数分後、ギルドットの姿は部屋になく気疲れでクタクタの俺と安心したようなクレアと、考え事をしているレイラが残された。


「なんですか、孤児院の職員ですか……まだ何もないのであればよろしいのです」

「ああ。俺からすれば市井の民の生活を知るための情報源の一つだ。取り締まりついでに助けることになったが義理堅く真面目な者でな。不遇ならば助けねばと思っただけに過ぎん」

 クレアは安心して俺の膝に寝転ぶ。俺はギルドットの話した第三者からの目に加えて俺の個人的見解を述べた。

 しかし悩んだまま、口を閉じていたレイラは眉間にしわを寄せていた。


「……発情したような匂いってことは、少なくともそのカトレアはあなた様に個人的感情をいだいているのでしょう?」

「……個人的感情……か」

 俺は今までのカトレアの言動を思い返しながらそんなものがあるのかと考えて……考えて……そんなことは……そんなこと……


 あるような気がした。


「まずその子はシュウ・ナゥリバーが陛下とは知らない。かと言ってそれをバラせば問題が起きます。

 一つは彼女の身の危険、陛下に通じているのであればと取り入ろうとする者は現れます。知らぬ間に佞臣や奸臣の謀略に巻き込まれた場合、何らかの処分を与えなければなりません。それは陛下もお望みにはならないはず。

 二つ、妾にしようとしたとしても義理堅く真面目ならば陛下との身分の差を考えて姿を消すか下手をすれば自ら命を絶つかもしれません。

 三つ、政治的利用の危険。彼女が陛下とつながっているならば政敵や外敵、特に帝国にとっては陛下の弱点となり得ます。私達であれば自身の強さと王城にいるため手を出せないでしょうが下町であれば誘拐などは簡単なことでしょう」

 レイラは真面目な顔をしてカトレアに俺が誰かと告げたときのリスクを口にする。


「軽々な行動はお控えください。陛下の行動は国一つを傾かせることもあります。……それと、外で女性と会うのであれば、事前にお伝えください。偶然に会った場合でも教えてくださらなければ密会を疑われます。もし、それが不義不忠の輩や命を狙う者であれば陛下の身に危険が及びます」


 レイラの言葉は反論の余地もない正論、それを聞いた俺は自身の軽装な行動を反省する思いがして心の中では床に正座している。

「……心配と迷惑をかけ、それに心を疑わせるようなことをしてすまなかった」

 俺は素直に謝罪をして二人に許しを請う。すると、

「私は、その、陛下にそんなことをして欲しいのではなくて……」

 レイラは俺の行動が意外だったのか少し慌てだす。するとクレアは俺の膝枕のまま、

「レイラさん、心配もしてるけど拗ねてますね。陛下が知らない女の子と仲良くしてたら面白くないのですから。……あ、もちろん私も面白くないですよ?」


 クレアの目が少し細くなり、怒っているのがわかった。俺は顔をそのまま下げていき、触れるだけのキスをする。誤魔化すつもりではなく謝意のつもりだ。

 それからクレアの体を起こしてレイラの方に体を向けるとレイラの躰を抱き寄せてレイラにもキスをする。

「……そんなのじゃ……誤魔化されません」

 プクッと頬を膨らませたレイラが俺の手を取る。クレアに視線を送り、意を解したクレアがもう片方の手を取る。二人に連れていかれる先がわかって俺は少しばかり顔に斜線を浮かべて、

「明後日が式典なんだけど?」

「そんなことは関係ありません」

「婚前交渉はすでに終わってますからね」

 ベッドに投げられた俺は二頭の猛獣に囲まれた心地になった。

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