軍議の前に
今回は人がゴチャッと出てきますがそのうちピックアップされますので『こんなのがいる』程度の認識で大丈夫です
半月もせず俺は神蒼帝国との戦線の最前線、バルクダール砦に向かっていた。
神蒼帝国との戦線は聖魔光王国の西の国境、北部より南南西に向かって数十㎞に及ぶ。そこを守るのは八つの前線砦と八つの後方砦、合わせて十六の砦による二重の防衛線が張られている。
その砦にはそれぞれを統括する聖魔光王国の将軍、通称『輝星十六将』がいる。
聖魔光国軍は年齢、種属、出自、性別、あらゆる事を気にしない実力主義で編成されており、指揮官である将は癖がある者もいるそうだ。
馬車の中でシュレリアから受け取った資料に目を通して各将軍の経歴を見ていく。残念ながら写真技術がないため、顔はわからないが名前や種属、年齢、性別は明記されていて、これまでの所属や戦功も書かれている。
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バルクダール砦、最深部大合議室の円卓にはすでに十人ほどが集まっていた。上座一つを空けて座っている。ほかにも何カ所かは隙間があるのは席次は決まっているからだ。
その中の一人、上座の左に座る者は茶を飲んでいた。五十代の女性で髪は赤く、鋭い目つきは歴戦の猛者だと周囲の者にわからせる。
「ダンウッド君や、いい茶葉だねぇ……まだあるのならもう一杯、いただけるかね?」
のんびりした口調で数席離れた、部屋の中では比較的若いエルフに声をかけた。
「ギーデウス天将軍、ありがとうございます。まだこちらにありますので……」
と言って壁際にいるメイドを手招きし、茶葉の入った袋を渡した。
メイドはそれをギーデウスと呼ばれた将軍に届けた。ギーデウスは縛られた袋の口を開けると香りを嗅いで、
「うぅん、いい香りだねぇ」
満足そうな顔をしていた。
それを俺は小型の映像通信水晶で観察しながら再度資料を見る。
リュミル・ギーデウス、51歳。紅夜叉族で将軍最高位の天将軍に任じられており、前王からの信頼も厚い。軍女性仕官の中で最年長、ジェラルドでさえ一目置く人物。戦場では燃える雪魔法を使い緋雪将の号を持つ。
そして声をかけられたのは、
ニルス・ヤード・ダンウッド、30歳。祖父母は神蒼帝国出身だが、両親は聖魔光国軍に亡命してきた身。本人は聖魔光王国出身であるが純粋なエルフ族である。階級は中将軍、植物魔法と土魔法を使う草樹将。内務も得意で受け持つ砦の外で部下と共に畑を作り、一部食料自給もしている。
俺はシュレリアに視線を送り、彼女は頷いて部屋を出て行った。
しばらくすると大合議室にシュレリアの姿が見えて、
「皆様、陛下が急務により少し遅れるとのことです。お忙しい中、お集まりいただいたのに申し訳ありません」
彼女がそう告げると一人があからさまに不平を見せた。
2メートルほどの巨軀を持ち肌は黄色人種よりもやや黄色みがかっている。それに額には頭蓋骨の一部が変形したような角を持っている。
「へぇ-。お呼び出ししておいて遅れる、ですか。新王陛下はずいぶんののんびりされたか方なんだなぁ」
資料に寄れば。ドゥトラ・デッセンハーグ、雷を操る雷鬼族で中将軍、29歳。戦場では巨軀と雷撃を使い前線に出たがり、十六将の特攻隊長とも呼ばれ、剛雷将の号を与えられている。口が悪く頭もよくないが、面倒見がよく部下には慕われている。
「デッセンハーグ将軍、それは陛下への批判ですか?」
デッセンハーグの空席を空けての隣にいる青みがかった肌を持つ優男が眼帯で塞いでいない方の目でギロリと睨み付ける。
「おいおい、マドルよぉ。何かあるのか?」
マドル・ファンドール、右将軍で29歳。彼は魔石人族、いわゆるゴーレム種属だ。片眼が魔石で魔力の無駄な消費を抑えるため眼帯をしている。多種多様の魔法に精通し攻守のバランスに長ける、とある。
「私は陛下のお言葉を信じ、陛下のために戦う。その陛下を非難する者があれば、すなわち敵と見なします」
ピリリとした空気になった二人の間に割って入ったのは、
「双将軍、落ち着かれよ。デッセンハーグ将軍、陛下がおいでになられないことに腹を立ててどうする?貴殿が怒られたところで陛下が早く来られるわけでもなかろう?ファンドール将軍もデッセンハーグ将軍は仲間である。敵と見なしてどうしようというのだ?」
ザグレス・ファルトーナ、25歳。妖蟷螂族右将軍、号は斬裂将。眼鏡と冷静沈着な指揮官で有名で、個の戦闘よりも仲間との組織だった動きを尊重する。仲間との義と和を重視する将軍の中でも一風変わった男だ。
「あ゛?ザグレスも口出すんじゃねぇ。ぶっ飛ばすぞ!」
デッセンハーグは乱暴に立ちあがるとザグレスに拳を振り上げて殴りかかった。しかしその拳は横から伸びてきた手に止められる。
「デッセンハーグ将軍、ここはこのようなことをされる場ではないかと、ご注進申し上げます」
デッセンハーグの拳を両手で止めたのは狼の耳と尾を持つ青年将校。服の上からでもわかる鍛え上げられた躰はマドルやザグレスのような細い線ではなく、引き締まった細マッチョであると水晶越しでもわかる。
「おいおい、嫁の前だからって調子に……あだっ!?」
そこまで言ったデッセンハーグを杖で叩いた人物がいた。いつの間にか部屋に現れたのは初老の男で、ニヤニヤと笑って若い将軍達を見ている。
「ガキ共め、陛下がいらっしゃるまで大人しく座っておることもできんのか」
デッセンハーグの腕を止めた男、餓狼族のロズフォス・ファン・グリエス、後将軍銀狼将、21歳。王国への忠義に厚く、「無辜たる民がための牙」として戦う姿は兵達に尊敬の念を抱かせる。そしてシュレリアの夫でもある。
老人の方はジー・イディルスキー、死骨族上将軍骸操将。軍の最年長で59歳。本来はもう一階級上の天将軍になってもおかしくないのだが、軍功を所属する若手に譲るためあまり昇進しない。しかし若手にとっては身分問わず、頭が上がらないただ一人の実物。
揉め事になりかけていたデッセンハーグらは急に大人しくなり、それぞれ椅子に腰掛けて黙り込む。
「翁には誰も頭が上がりませんな、キリキリキリリ……」
ラグーザの向かいほどで怪しく笑う女は、ファナナ・ヴィーキルズ。禍津蜘蛛族、左将軍闇爪将。戦功を立てるための情報収集や水面下工作が得意で、毒や薬にも精通しており部隊の生存率はかなり高い。キリキリは笑い声なのだが甲高く耳障りなこともある。
と、合議室の扉が激しく開き転がり込むように、もつれ合って二人の女が飛び込んできた。
「うーん、もちもちおっぱいはいいですねぇ。先輩、もうしばらく、あ、そんな足蹴にしないでくださいよぉ」
「この、離れろっ!尻を揉むな!胸もだ!この、ド阿呆がぁ!」
胸や尻を揉まれているのは夢魔族のシルフィア・サンターナ、上将軍操心将。見た目若々しく美容と健康には目がない。二十代に見えるが実は39歳。欲や感情に干渉する魔法を得意として敵軍の撹乱を煽動することもできる搦め手としてかなり優秀な戦功を上げてきたたたき上げの将軍である。
そしてシルフィナの腰にしがみつき、変態行為に喜びよだれを垂らしているのはティフォル・ディ・ドラストで背中に羽のある天使族。階級と号は後将軍翼臣将で22歳。強力な魔法の使い手で直属兵も魔法特化の者が多いと聞く。遠距離の敵にも攻撃できる有能な部隊を率いる。特記事項には同性兵士官にセクハラ癖ありとある。
巨乳美人ではあるが残念ながらガチ百合で女性しか愛せないようだ。
ドタバタしている横で最初から大人しく椅子に座ったままの小柄な鎧がある。明蒼色のフルフェイスヘルムに首から下も同色のフルアーマーで肌の見えるところはない。
彼女(?)は資料によるとロザリア・グレナルド、リビングアーマー族で下将軍烈閃将。軍でも異例のスピード昇格、十六将の最若年の18歳で自信がないので口数は少ない。同様の昇格は75年前にアンリ先王がしたくらいで滅多にいない逸材だそうだ。
なお鎧の中には体があるはずなのだが見た者はいないし、そもそも兜も鎧も脱ごうとしない。
そしてシルフィナとティフォルの横を呆れた視線を送ってから一人の男が入ってくる。
「……なんの騒ぎだ?」
まるで首筋に氷水でも流し込まれたように二人が固まり、居住まいを直す。
「いえ、何でもありません」
「サラス将軍、お疲れ様です」
二人のうなじからは一気に汗が出て緊張が走る。
この男はガウェイン・ダナ・サラス、39歳。天将軍。戦場においては敵対する者には容赦なく情はない、弱い者は死んで当然という思考を持ち、彼の前に立った敵で生き残った者はいない。容赦なく追撃し、全ての首級をあげる様から殲滅将の号を与えられた若くして十六将の第二席にいる。
ガウェインのあとに続いて入ってきた三人はまるでガウェインに付き従う従者にも見えるが彼らも将軍位にいる者たちだ。
厳つい顔をした緑髪の男、レジスト・ランバック。獣人種海亀族、前将軍壁陣将、28歳。野戦での防衛や撤退戦においては屈指の能力。水魔法のエキスパートでもある。神蒼帝国から亡命してきた者の子で魔妖人否定に懐疑的である。魔妖人ではないため、戦闘形態は持たないが持ち前の指揮力と魔力はかなり高い才能を持つ。
金髪獅子面の男、ラグーザ・ディグリート、24歳。獣人種金獅子族に生まれたが人の顔でなく獅子の顔で生まれたため、魔妖人扱いされ三族処刑の憂き目に遭う直前で亡命。本人は乳児だったため、憶えてはいないものの神蒼帝国への恨みは強く、先の俺の宣言には否定的かもしれない。
階級と号は前将軍崩牙将。過去は機動力のある部隊を指揮し伏兵や挟撃、分断など敵の撹乱を得意とする別働隊を任せるにふさわしい記録がある。
そして足取りがずいぶんと危ない女、フェイメル・クレスト。魔龍族、前将軍撃滅将。とても好戦的で個人の戦闘なら軍内トップクラス、率いる兵数は少ないながら部隊にいる者も猛者揃いではあるが素行にやや問題がある。
将であるフェイメル含め酒での不祥事、主に器物破損や食料の消費過多で減俸や戦功取り消しの沙汰も少なくない。ただ部下と飲み会をするのが大好きらしく、俺は嫌いなタイプではない。
あと婚期が遅れてまだ独身であることを気にしているとシュレリアから密かに聞かされた。
サラスとこの三人は軍内きっての武闘派で戦においては戦功高く、神蒼帝国とは最後まで戦うとするサラス派と呼ばれる軍内派閥のトップメンバーである。
ほかの派閥としては神蒼帝国とは穏健な関係を築くべきとするイディルスキー派、王の意思に殉じて命に従うギーデウス派、残りは歯牙にかけるほどでもない小派閥があるのと、派閥を気にしない風変わりもいる。
しかしほとんどが三大派閥のどれかに身を置き、この十六将の中でも対立することもある。
と、ここまで資料と部屋を見て揃っていないのは一人、ネアン・ジグフリオス。左将軍黒腕将で霧幻族とあるがどのような力を持つのかはわからない。温厚な性格をしていて戦況全体のバランスをとるのを得意として判断力が高く計算高いところは参謀向きと言ったところだろう。
俺は椅子から立ちあがると通信水晶の動力である魔力を送るのをやめて部屋から出た、
さぁ、将軍の皆さん、ご対面と参ろうか……。
【将軍位について】
上から
天、上、中、左右、前後、下、です
【Heroine profile】
イゾルデ・カルミリア
妖花アルラウネ人族
プレート・ブルー
157cm・48kg・16歳
B84W58H79・Bカップだけど成長中
髪 ・ややウェーブのショートヘア
髪色・ライトグリーン
瞳 ・琥珀色
職業・城中メイド
アルラウネ族は頭頂部には花があり、花が形よく輝きを持つほどアルラウネ族では美男美女とされる。
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