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彼女の性格が悪いと思うのは気のせいだと思う

 ディグドラ男が機嫌の悪い事が気になるが俺は話を始めた。

 スティルを俺の直属兵に誘いに来たこと、そして強制ではなく本人にその意志があればという条件ということ。給与面に関しては相談に応じるが銀貨三枚程度プラス能力給なども告げていく。

「どうかな?私は直臣に優秀な者を求めている。ここの生活に愛着があり離れたくなければ断ってくれてかまわない。私は無理強いをしたくないのだ」

 この言葉で俺は説明を締めた。彼女の顔を伺うと少しばかり遠目だがニコニコとしている。もしかしたら案外いい返事が聞けるのかと期待が芽吹く。

 ディグドラ男の顔も少し軟化して娘を見ている。親子二代続けて王直臣直属兵となれば貴族としてかなりの名誉ともなろう。そしてディグドラ男子息達の顔も末妹を見たまま、どこか期待した雰囲気を持つ。


 スティルはというとその視線を受け止めて、ニコニコとしたまま、息を吸って、

「お・こ・と・わ・り、ですわ♪」

 なぜか和やかに断られた。両肘を机に付き、絡めた指先の上に顎を置く。ゆらゆらと小さく揺れながら機嫌がいいように微笑む。

「なっ!?陛下直々におっしゃってくださっているのだぞ!?」

 ディグドラ男は動揺して大声を出した。机に置かれた手がわなわなと震えているが怒りよりも困惑がうかがえる。

「急に来て臣下となれ、だなんて……よく知らない方の臣下として働くなんてまっぴらごめんですわ」

 鼻で笑うかのように鼻息を付いて、肩をすくめて大袈裟にポーズを取る。

「お父様が連れてくる男も軟弱者や愚鈍な者ばかり。私は私の認める方にしか従いたくございませんわ」

 傲慢にも感じるが強気で勝ち気、自らの強さの自身の現れ。そんな風にもとれる言葉に俺は納得もある。

「では、どうすれば私を認めてもらえるのかな?」

「さぁ?私は陛下のご真意は何も知りませんので、まずはそこからお伺いしたいですわ」

 挑戦的な目つき、その視線は俺の目を捉えている。これはこれで楽しそうな気がしてくる。

「なるほど。では、貴女が納得するまで論戈を交わそう」


-----


 部屋からディグドラ男の子息達は出されてから話が始まる。

「では、陛下のお考えを知りたいので……そうですね、陛下が今推進されている内政に関してお伺いしますわ。まず国営農場や国営工場について、なぜ陛下は不労者やスラム者を使ってこのような事業をなされているのか。直轄地や貴族から納税された財産を湯水のように下々に使い、我々には還元されておりません。これはどのようなお考えで?」

 俺が国営で行っているのは軍の狩った魔物の解体工場と衣類や日曜生活品の生産工場、農産畜産施設を王都と直轄の大都市のそばに作ってある。

「ふむ……皆から納められる血税は大事な国庫。それがどうして納税した者に還元されないのか、ということだな。では本当に還元されていないか?貴族とは何を以て貴族というか。治める地やあるべき立場を以て税から収入を得る。それは民から集められた金だ。私が行っているのは民に還元することで国の最下層の生活者に職を与えることで国民の生活基盤を造り、民一人一人の生活を潤す。そうすれば各領地や貴族領での税収も上がり、統治者の収入も上がる」

 俺からすれば生産向上と内需拡大による金銭循環の活性化を目指した国民全体の生活力アップのための国営企業だ。都市機構にそのまま組み込んであるので不労者はかなり減らせている。

「税は人に例えるならば血液、これが回らなければ臓物も手足も動かん。頭を働かせるにも血が必要。金とは循環させてこそ真価と言えると私は考えている。今はまだ動き始めたばかりで工場も農産畜産も大きな成果は出ていないがここから得られる収入は国を発展させる資金となり得る。しっかりとした成果が出次第、貴族の皆にも推進したい。皆の領地でも税収を上げられることを証明するための途中段階だ」


「なるほど……では、次に各都市にて孤児を調べているとお伺いしました。また貴族領での国営孤児路上生活児保護施設の建設の通達も聞いております。これはどのようなお考えでしょうか?」

「子供は大きくなり未来のこの国を担う。未来への投資することで孤児や路上生活児の中から素質のある者を見出して取り立てる。そうすればこの国の先行きは明るい。各種の学校を建てているのもそのためだ。技能があれば、知識があれば就労には困るまい。何より、親の責で不利を受ける子供を救うことに何ら理由があるべきか?」


 俺の問いかけにスティルどころかディグドラ男すら黙り込む。この者らは貴族だからおそらく最下層の生活を知らない、いや俺もやったことはないけど。だが俺は何度も視察に行った。泥水を啜り草の根を噛み飢えを凌ぐ子供たちを見てきた。

 ボロボロの教会に住んで着る物もボロボロで、腐る寸前の食べ物を塩だけで味付けした物を食べていた。適当な肉を振る舞っただけでご馳走と喜ばれた。

 その子供達に何の責任がある?誰が手を差し伸べる?誰も手を伸ばさないなら……俺が手を伸ばす。目に映る者皆を守るのが俺の努めだから。


「そのために税を使うと?収入となり得るかわからない者に血税を使い、実とならなかったら無駄金。そのリスクにおける補填はどこにございましょうか?」

「リスクは承知。失敗しないように詮議を重ね、急性することなく時間を掛ける。私にはそのようなやり方しか出来ない。私はまだ王として一年にも満たない未熟者だ。だからこそ、知識のある者、力のある者、能力のある者を私は求めている。私一人で国を変えることは出来ない、私には私を支えてくれる臣が必要なのだ」


-----


 それからも数時間、論議は交わされた。俺の内政、軍事、外交などあらゆる面を追求された。

 驚いたのはスティルの情報力だ。俺がしている国政事業を細かく知っていた。公に口にしていない獣人国との水面下での婚姻計画についても知っていた。ディグドラ男の子息達は既婚でここには情報は届いていないはずだというのに。


「……なるほど、陛下のお考えはすべてを受け入れるまでは出来ませんが納得しうるお答えはいただきました。次に私が問うのは陛下ご自身のお力、私を従わせるほどであるかどうか。……そこのグレナルド元将軍にお守りされているようでは私を従えるほどにはありません」

「なるほど……。論戈を交わして妥協しても最後は拳で語れということか。今までの男もそうだったのであろうが……私はほんの少し強いぞ?」

 スティルは笑う、まるで論戈は前置きだという風に。それにあの情報量であれば俺の戦闘能力について知っているはず。

 なぜ、戦いを求めたのか。俺には理解できないが彼女に誘われるがまま外に向かっていた。


 庭に出るとスティルはポケットから笛を出してそれを吹く。やや甲高い音が鳴るとしばらくして羽ばたく音が聞こえてくる。

 それは空を飛び屋敷の向こう側から姿を見せた。羽ばたきながらゆっくりと下りてくる。

「キュィィィ」

「ザルヴァー、いい子ね」

 二メートルほどの二足の黒龍、ワイバーン。しかも首輪と手綱、鞍まで付けられている。ずいぶんと人懐こいようで主であろうスティルに頭を擦りつけた後、俺の方まで近付いてきて匂いを嗅ぐ。そして首をかしげて、

「キュィッキュキュッ!」


 意味ありげに鳴くと頭をスイングバック、嫌な予感に俺は魔力を練り、そして俺に向けて頭突きをした。

 ガゴッと鈍い音がしたが咄嗟に魔力強化をしたおかげで怪我はない。しかしながら重量が変わるわけではないので吹っ飛ばされる。

「キュッ?」

 俺が尻餅をついていると近付いてきて顔をのぞき込み首をかしげる。

「ん、大丈夫だぞ?」

 ワイバーンの額に触れて軽く撫でる。金属のような光沢があり硬いのだが鳥のくちばしのような手触りに近い。そしてほんのりと暖かく命を感じさせる。


「陛下、申し訳ありません。今のはワイバーンの親愛行動の一種で子供のワイバーンが甘えるときやかまって欲しいときにやる行動です」

 スティルはこちらにくるとやや申し訳なさそうな表情を浮かべながら俺に手を貸してくれる。

「ほぉ、この子はまだ子供か」

「はい。まだ十歳ほどです」

 ワイバーンはスティルがそばに来ると口を広げて大きな舌を出す。そしてベロリとスティルの頬を舐め始める。


「ワイバーンの寿命は百年ほどといわれており、昔に偶然たま、……うぷ、卵を手に入れて、ザルヴァー、やめなさい。私が孵化させて、今はやめなさい。親代わりをして……ザルヴァー!」

 スティルが喋っていてもベロベロとなめ続けていたせいでワイバーンのザルヴァーは怒られてしまう。スティルに睨み付けられると目に涙を浮かべる。俺が思っているよりも知能が高く感情も豊かなようだ。

「キュー、キュイッ、キュキュー……」

 頭を下げてションボリしたような様子を見せてザルヴァーは反省の意を見せている。スティルの方はというとタオルで顔に付いたザルヴァーのヨダレを拭き取り、それから俺の方に向き直る。


「私が親代わりをして育てております。見ての通り、甘え癖もありますが頭が良く、いうことをよく聞く子です」

 スティルは今までの目つきと違い、優しい目でザルヴァーを見ると頭を撫でる。

「陛下はこの子に騎乗ください。私は飛行魔法を使いますので……」

 俺を連れていく場所があるそうだ。おそらく暴れても問題ない場所、もしくはモンスターの巣窟かと俺は少し期待を膨らませた。


-----


 スティルに連れてこられた場所は予想外だった。山手の方に来たときにはどんなモンスターとやり合う、もしくはスティル自身とやり合うか、期待していたというのに……。

 領都から離れた中都市からさらに山の方、あまり活気のない寂れ始めた山街に来ていた。


 スティルが入り口の兵に手を小さく振ると番兵は軽く頭を下げる。ザルヴァーは手綱を番兵に預けられて番兵は近くの柵に掛けるだけだった。ザルヴァーが温厚なワイバーンと知っているのだろう。

 街に入ると規模に比べて人口が少なく、人通りがない。それに売り家や貸家が多く余っていて扉の前に商業協会の看板が立っている。

 街の大通り、かつては人が多く行き交っていたはずの道を歩く。


「……ここはかつてドラキライト鉱の採れる鉱山として領内でも賑わいのある街でした。しかし今は採掘量が減り、若者は街を離れて都市へ出て行っております。残っているのは長くこの地に住む老人らと引っ越したとして働く宛てのない者や引っ越す財力のない者です」

 ドラキライト鉱は製鉄するとドラキライト鋼鉄と呼ばれる錆びにくくなかなか硬い金属となる。鍋から建材、武具材など広く使われていて生活になくてはならない金属の一つだ。


「ふむ……ヤンヴァッカルに来るのは初めてだが領都に比べてかなり寂しいものがあるな」

 素直に感想を述べると少し睨まれた気がする。街の中央らしき場所まで来るとスティルは振り返り不敵な笑みを浮かべた。

「では、陛下。この町の活性化する案とそれの予算や人材など、私と知恵比べをしていただきます。私ではなく街の皆が納得するお考えを出して、私の案より陛下の案が採用された場合は陛下の臣として忠誠をお誓いします」


 勝負といっておきながら目的は領土内の活性化目的。面白い、個人的にこういう性格の人は嫌いではない。

「よし、多少分が悪いがよいだろう。私の知識を使ってどうにか出来そうな案を考えよう」

 俺は挑戦的に笑う。なんとなくだがスティルの真意がぼんやりと見えてきた。

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