side by 勇者4
どうしてだ?こうもうまくいかないのは?誰のせいだ?どう考えてもアイツだ、アイツさえいなければ俺がこの国の勇者としてすでにあの国を倒して、あの国の半分ほどを領地とする大貴族になって、姫を妻に出来ているはずだった。
俺は選ばれた勇者なんだぞ?初代王がそうであったと伝説のブラックプレートを除けば最強のトライメタルプレートの俺が、全属性適応もあって、魔力増強もあって、なんで俺が負けるんだ?
アイツが選ばれた存在で俺は踏み台なのか?そんなわけがない!アイツを殺す、殺す!殺す!!俺の持つ知識をすべて使って、殺してやる!
俺は机の上にあったすべての物を手で振り落とすと帝国重要庫に足を向ける。あそこには、宝物ではなく書類や古からの物が転がっていると聞いた。そこにあるものと、俺の頭にあるもので、殺してやる。
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何人かの魔道具技師を使って見つけた物に手を加えていく。古書をひっくり返し、過去と現代の魔道具から適応できそうな技術を付加していく。
材料はドラゴン種の心臓から稀に採れる竜王玉、黒い雷を纏う深淵鳥の魔眼、奇跡の大樹と呼ばれる高い魔力を持つ涙の神樹、他にも国宝級や貴族の宝の魔宝具に使うような素材をつぎ込む。俺が殺してきたモンスターの素材をどう使おうが俺の自由だ。
本当は魔王を殺した後に売って金に変えて城でも建てようかと思っていたがそんなことは後回しだ。どうせ魔王の城にも宝物庫くらいあるだろう、そこから金目の物を奪えばいい。
魔導鋼線によりつながれていく材料、そして組み上がる魔導兵器。俺はまだ途中であるが別の作業を始める。
手元にあるのは魔道技師と武具匠に命じて用意させていたものだ。俺は図面を引いてある武器を作らせる。この世界にはない、魔法の概念からは浮かび上がらない兵器を。これがあれば、あの魔王は討てる。
技師たちは自分たちが何を作っているかわかっちゃいないだろう。だがこれが成功すれば飛躍的に強くなれる。
そしてこの技師たちは俺の下に組み込んで俺の領地に抱え込む。そうすればこの国に技術を奪われずに魔王に勝てる。
そして俺の下にいる者のみに使わせる。俺が世界で最強の軍を持つ勇者として君臨する。
俺が世界の勇者になる。
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数時間後、制作中だというのに招集がかかる。どうせ先の戦いの論功行賞だろう?
俺が会議室に姿を現せるとすでにほぼ全員が揃っていた。あと来るのは皇帝と皇子くらいだろう。
この会議室も謁見の間と同じように皇帝用に数段高い位置に皇帝の椅子があり、皇帝から一段下がった場所に椅子が二つ、下段に神兵や将軍位、俺達が座る用の椅子がある。
「……勇者殿は何をしてたんだか、ずいぶんとごゆっくりで」
誰か知らないが俺への皮肉か?会議っつてもどうせ責任の押し付け合いでもするんだろ?
俺が上座の空いている椅子に座ると向かいにいる神兵一位が声を掛けてくる。
「勇者殿、力の及ばない物の声は耳に入れず。陛下の許可があれば私も同行し勇者殿と協力して魔王を討ち果たせていたやもしれないというのに、この者らは全く当てにならなかったようですな」
たしかにこの男は強い。魔力はゴールドプレート止まりだが指揮能力、作戦立て、陣立ては紛れもなく上。個の力なら俺は勝てるが指揮となれば俺では敵わないのは事実だろう。
「魔王の足止めを命じたが一撃で気絶してるようでは戦力にならない。おかげで俺が魔力をためる時間が足りなかった」
俺が事実を言うと反論したくても出来ないのか、数人が睨み付けてくる。そこに、
「陛下がいらっしゃった。皆、椅子から降り伏せよ」
皇帝の半弟でもある軍部大臣が来る。大臣なんてたいそうな役職に就いてるが皇子の腰巾着程度でしかない。
俺達が椅子から降りて床に片膝をつき顔を伏せると足音がする。おそらく皇帝と皇子だろう。
「皆、面を上げよ。着席を許す」
珍しく待たせることなく許可が出た。俺達は椅子に座るとさっそくに、
「では、先の魔王との戦においての戦果と戦功についての報告を始めよ」
皇帝の一言に会議は始まる。ここからは結論が出るまで皇帝は口を挟まない。
「俺が作戦を立てたが皆はどの程度こなしてくれたか、話を聞こうか?」
俺は率先して口を開く。負けたのは誰のせいか、はっきりしないと俺に批判が集まっては困る。
「まず、二位、五位、八位、九位、俺達が魔力をためている間の足止めを頼んだはずが一瞬にして破られていたが?」
俺が各位に目をやると不満そうに睨み返す眼ばかりだ。
「接近戦を挑めと言われたがあれば兵卒達の矢や魔法の援護があっての前提、前日の魔王の襲撃で兵が使い物にならなくなっていたのは勇者殿も把握していたことではないのか?」
「ですね。作戦の雑さをこちらの責任にやらないで欲しい。あの時点で何度か作戦変更の時間もあったはず。魔王の力を目の当たりにして、交戦経験もある勇者殿が何も練らずに突撃を命じたのは事実」
俺の責任、ねぇ。
「その辺りは確かにあるが、神兵たるあんたらが一撃でやられてるんじゃ勝てる戦いも勝てねぇよ。魔王からすれば兵卒達なんか路傍の石と変わらないんだろ。俺からすれば作戦だの責任だの、どうこうよりも動きが怪しいヤツが二人いたが?」
場にいる者の視線がまず一人目を捉える。
「四位、お前は俺の命令に従わなかったな?作戦の不満以前に戦闘に参加しない行動まで取った。その点に関して釈明でもあればしてもらおうか」
俺の質問に四位はたじろぐ様子を見せない。四位は懐に手を入れて紙を取り出す。それを周りから見えないように広げて、
「私はあの時に言いましたよ?私は姫様の命令で出撃したまで。私の行動に不満を申されるのであれば、それは姫様に申されてください」
四位は表情を変えることなく俺を見返してくる。
ここにいない姫様に責任を取らせるつもりか?
皆が少し動揺する中、足音が小さく木霊した。カツンカツンと高い音、軍靴ではなく女性が履くヒールのある靴の音。
皇帝や皇子の来た幕の方から姫様が姿を見せる。
「勇者殿は私が彼女に命令したことに従ったことを軍令違反、そうおっしゃるのですね?」
皇帝と皇子に一礼してから皇子と同じ段にある空席に座る。
なぜだ?軍事には参加しない姫様がどうして?
「セレシア、珍しいな」
「あまり軍務には興味はありませんが、私の仕事を全うしに来ただけです」
そう、王族で成人している姫様にも皇子と同じように軍籍を持つ。役職は軍総正官、軍令違反の判断や処罰の軽重を決定できる身分だ。だが、ほとんどは軍務大臣に丸投げしてきたはずだ。
「シンシアには私が令諚を出していましたよ。魔王の力をみること、隊に被害を出さずに撤退すること、味方の撤退を援護すること。シンシアは私の命令通りに動きました。何が軍令違反なのか、勇者殿?」
また、あの眼だ。俺を歯牙にかけない、まるで見下すかのような眼。俺になぜその目を向けるのかわからない。俺はこの国を救う勇者だというのに。
「……いえ、ありません」
これ以上不機嫌にさせてもしかたない。
「だが、四位には一つ答えて欲しい。なぜ交戦した者の中で唯一無傷なのか」
「解りかねます。私が交戦したのは勇者殿たちが敗北してからですが、終始向こうがこちらの力に合わせていたようです。理由は定かではありません」
四位は不気味なほどに冷静で感情の起伏を見せない。神兵の序列で女性の一位で、姫様の直属護衛で、姫様のお気に入り。
「シンシアについては皆様もご理解いただけましたか?私の命令に従ったまで。もし、不満があるのであれば、この場で、私に、おっしゃってください」
姫様の断言に誰もが黙り込む。皇帝の子供の中で二人しかいない成人。女性ながら発言の力と責は皇子に並ぶほどで皇子すらこれに異を唱えない。
「……どなたもなければ第四位は不問ですね」
しばらくの沈黙、それを破るように俺は発言する。もう一人の変なヤツだ。
「ティア、お前もなぜ無傷だった?十二位が横にいて一撃で仕留められた後、魔王はお前に何もせず立ち去ったのを兵が見ている。どう説明してくれる?勇者の仲間のくせに、勇者を、この国を裏切ったのか?」
俺の後ろに立っていたティアに視線が集まる。俺が肩越しに睨み付けるとすでに泣きそうな顔をしている。
「わ、わかりません。十二位様が魔王の攻撃で昏倒した後、魔王は私の方を見て、私が何もしなかったら、笑って十二位様を指さして『命に別状ないとは思うけど一応看てあげてね』って言って視界から消えました」
首をブンブン横に振りながら釈明をする。
だが敵がなぜこちらを気遣う?戦いで敵に情けをかけるなんて理由がない。
「待て、魔王は私を気遣ったというのか?……いや、うん、……確かに、魔王は私を一撃で殺すことが出来たはず……それを殺さずに……どういうことだ?」
十二位は動揺を見せて考え始める。
「まさかとは思うが、魔王はこちらを殺す気がないのか?ただいたぶり嬲る事が目的か?」
「ならばなぜ兵達に魔力圧で使い物にならなくした?いたぶるのが目的なら兵もつぶしに来るはずだ」
「あの数には魔王も相手をするに苦するからではないのか?」
「冷静になれ、兵の被害はどうなんだ?我が隊に心を病んだ者は多数いるが死者はおらず、身体的な怪我をしたのは直接闘ったわしのみだ」
「我が隊にも死者はなしです。闘った私のみあばらを半分折られて回復に時間を要しただけだ」
口々に被害報告が飛び交うが共通していることがある。
兵は心を病んだ者が多数いてその半数は今も回復していない。死者は出ていない。怪我人は魔王と闘った神兵のみで治癒魔法で数日から十数日で治るほどの怪我のみ。
飛び交う言葉が治まった後に誰かが呟くように言った。
「魔王は……加減しているのか?」
小さなざわめき、帝国の最高戦力を出しているというのに魔王には加減して間に合う程度なら……勝ち目はないというのが全員に解る。
「ははは、さすが、魔王だ。魔物の力はこうもまで圧倒的なのか?我々に勝ち目はないのか?」
乾いた笑い声を上げた九位が壊れたように言葉を連ねる。一度ならず二度負けている九位は限界だったのか、頭を抱えだした。
「無理だ、魔王を殺すなんて、我々の力では……」
「……つまみ出せ」
皇子の冷たい一声で九位は兵士達に引きずられていく。抵抗もなく、ただ笑って。
「後任を探しておけ。誰か策はないか?」
「本当は使いたくなかったが四の五の言ってられない。次こそ仕留める、俺や奴のいた世界の武器をここで作る。武器じゃないか、兵器だな。これを見てくれ」
俺は頭に血が上るのを感じながら紙を出す。先ほど工房で作らせていた試作品の概説だ。もちろんだが製作方法や仕組みについては書いていない。
「勇者殿、今度こそになりますよ?」
一位が俺の失敗を嘲笑うかのような顔をした。苛つく。城中にいるメイド達の噂に因ればコイツは姫様の夫候補にもあがっているらしい。上位貴族で現皇帝の祖母はこの家の出自らしい。
神兵一位の実力、皇帝からも外戚筋に当たり血統もいい、表立った評判は悪いことはない。……忌々しい。
「一位は魔法で……そうだな、四百メートル先の的に当てるのにどの程度時間が必要だ?」
「唐突なご質問。そうですね、五秒もあれば」
秒速八十メートル、その程度なら、
「この兵器ならその倍速い速度で敵に到達する。試作に一月から二月、その間に扱える魔力の高い奴隷兵を集めて訓練する。満足いく試作品が出来ればすぐに量産。おそらく六ヶ月あれば充分だ」
周囲は俺の意見に驚きを隠せない。当たり前だ、魔法より早い遠距離武器がないこの世界に銃を作れば確実に勝てる。
次こそアイツを、魔王を殺す。
俺が腹の内で決意の炎を燃やしていると小さな笑い声が聞こえた。その主は口元を隠していたが小さくゆがめているのが分かる。
「……勇者は直接戦うだけが戦いと思っているのでしょうか?」
「どういう……意味でしょうか?姫様」
姫様が俺だけでなく周り全員に呆れたような顔を見せる。軍人でもない彼女が戦いの何をわかるというのだろうか?誰もがそう思っているようだったが姫様は眼を大きく開くとカクンと首をかしげて、
「魔王は勇者と同じ世界から来て、話が通じ理が通るのでしょう?言葉が通じるならただ戦うよりも用いることも出来るものがありましょう?」
姫様はある案を出してきた。俺の兵器が揃うまでにそれを仕掛けると。うまくいけば魔王は死ぬ。
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