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グレナルドの真意

 最近、レイラの機嫌がとてもいい。いいことなのだがあまりの良さに何かあったのではないかと疑う。それとなく聞いても、何もないというのがとても怖い。

「はい、陛下。本日の午前中の決裁書類です」

 甲斐甲斐しく書類を持ってきて、茶を入れ、お菓子まで持ってくる。アゼリアやイゾルデの仕事までやってしまうほどでめまぐるしく動き回っているのに疲れた様子一つ見せない。

「陛下、各地より孤児路上生活者児の数の報告と保護施設の予定地と予算の書類が届いています。それと、グリエス将軍より書簡です」

 ミックが持ってきた書類を決裁書の山の隣に置いてから俺はグリエス将軍の書簡を開く。


 中は挨拶から始まり、グリエス将軍の妻であり副官でもあるシュレリアを一時的に執務から外す許可、それと新しい副官が欲しい旨が書かれていた。

 理由も添えられていてシュレリアの懐妊について書かれていた。

「ほう、これは喜ばしいことだ」

 俺はほくそ笑んでいるのを見たレイラとミックが不思議そうな顔をする。

「どうかされましたか?」

「何か嬉しい報告でしたか?」

 俺は書簡を二人にも見えるように机に広げて、

「シュレリアさんが妊娠したんだってさ。喜ばしい。あの二人の子であればさぞかし優秀だろう。あ、カルトバウス大臣はこれを知っているのかな?ミック、念のためこれを持って行って大臣に見せてあげてくれ」

 俺はミックに書簡を預けてからラーバを取り出して悩み始めた。

「陛下、どうされました?」

「ん、ああ。子供ができたら母乳の心配もあるだろ?俺のいた世界では哺乳瓶と言ってこんなものがあってな……」

 適当にとった紙の裏に哺乳瓶を書いていき説明する。そして、

「この吸い口のところにラーバが使えないかと思ってな。そうだ、召賢館と魔道具研究所に持って行って作れないか打診しよう」

 俺が腰を上げようとしてたらレイラがあることに気付く。俺が哺乳瓶の説明を書いた紙をひっくり返して表を見て、

「陛下」

 ニコリと笑う。笑顔なのに冷たい。室温と体温が下がる気がした。

 紙の表をレイラに見せられて俺は少しばかり焦る。

「保存する報告書の裏にメモ書きはやめてくださいと何度言えばわかっていただけますの?」

「ご、ごめんなさい」


 城内にある魔道具研究所に行って説明をして材料を預けた。数日もすれば報告があがってくるだろう。

 執務室に戻ると俺が裏にメモをしてしまった報告書はレイラが複写して処分していた。

「複写も時間使うんですからこんな手間かけさせないでください」

 再度怒られる俺にレイラは嘆息を漏らしてから表情を緩めて、

「しかし、先ほどの哺乳瓶、優れた物ですね。あの、ゴムと言うのですか。ラーバを加工したらできそうな物、何かと利便性が良さそうで様々な使い道がありそうですね」

「ああ。俺のいた世界でも色々使われていたさ。衣類にも使えるし、緩衝材、断熱材、その他色々。俺もよく知らない物にも使ってたはずだよ。この世界に作れたら画期的な物を作り出せるかもね」

 俺は頭の中に一番にズボンやスカートなどの半身着の腰回りをどうにかしたいなぁと描く。全部ホックやベルトなので寝るときも何か締め付けられている感じがして仕方ない。


-----


 執務を終えて自室で手紙を書く。片方はジルノイヤー聖宛てにクレアを迎えに行く日取りについての打ち合わせ、こちらは事務的な内容になってしまったがすぐに書き上がった。問題はもう一通。

 差出人はルナール・ダナ・サラス、サラス将軍の娘で新年会の夜に俺に告白してきた少女だ。

「……ん-……」

 俺は彼女からの手紙の内容に口元を緩めながら読んでいた。内容はなんてことない、砦の街人が育てている野菜が実り収穫祭がされましたとか、兄が家族に隠れて何やらしているかと思ってこっそり後を付けたところ女性と会ってましたとか。砦のことや街のこと、家族のこと、たわいもない話が書き連ねられていて小さく笑えることもあり、驚かされることもある。

 兄がどちらかまでは書いていないがもし結婚までこぎ着ければ俺の方に将軍から連絡が入るだろう。

 俺はルナールのくれた内容についての感想や俺の近況報告、最近あった面白いことを返書にしたためていく。それが終わる頃にはアゼリアの入れてくれた紅茶は三杯目だった。


 俺はやることをすべて終えたと至極の時間、風呂に入った。

 風呂上がりの冷やしたカフェオレは非常においしい。これはほとんどの人がわかってくれるだろう。たまに果汁を搾ったフルーツオレも飲むのだがコーヒーを開発してからという物、ほとんどの日がカフェオレだ。

 この時間にはアゼリアもイゾルデも生活用に与えてある部屋である女中控え室にいて俺は一人の時間を過ごせる。

 この世界は複数の妻がいる者はそれぞれに部屋を持たせて妻の誰かが必ず添い寝をするわけではないそうだ。

 レイラはそれを知っているから生活は王妃の私室にいて、二日に一晩は俺の部屋で伴に寝る。二人でゴロゴロしているのも幸せな時間であるが子作りにも励んでいる。

 和平を成してからは民からの俺の治政に対する期待感は高まる一方で、結婚を機に早々と王子か姫の誕生も待ちわびている、らしい。


 軍と民からの期待はいい方向を向いているのだが、残念ながら貴族からの期待はまだ小さく、俺の理解者はまだ少ない。軍属ではない貴族で名を挙げるならば、サラス将軍の父親であるジャフリー・ダナ・サラス信爵、グリエス将軍の父親のレイドック・ファン・グリエス龍爵、クレアの父ジルノイヤー聖爵の三人を筆頭とした程度で彼らはジルノイヤー聖を除けば子が軍関係者である。

 そしてこの三人の影響があってもまだ二割ほどしか信を得られてはいないだろう。


 俺はため息をこぼす。自身の足りないところが多すぎて嫌になる。それでも王として努めなければならない。この国の皆を裏切ったアイツを止めて、この国を心から救ったときに俺の役目が終わるのだと思う。それまで俺は王を努めあげなくてはならない。

 それに、守りたい人がここにいる。だから、大丈夫、頑張れる。

 俺がそう思ったときに部屋がノックされる。この時間に私室に来る者は限られているが、ミックでもレイラでもなくアゼリアやイゾルデでもない。

 入室を許すと彼女はいつもの姿で俺の前に来た。

「グレナルド、この時間にどうした?まさかご母堂に何かあったのか?」

 俺は心配になり椅子から立ちあがろうとするがグレナルドは慌ててそれを止めるように駆け寄ってきた。

「だ、大丈夫です。母に何かあったわけではありません」

 そう言うがいつもと様子が違う。顔は見えないが何か思い詰めた雰囲気がある。俺はグレナルドの様子を見ながら椅子を勧める。

 少し迷って椅子に座ると兜から深呼吸する音が何度も聞こえる。俺はグレナルドの言葉を待つ。何かあってきたのだから。


 しばらく黙っていたがグレナルドは小さく頷いて、何かを決めたようだった。

「陛下にお願いがあって参りました。今よりも陛下のお力に、盾となり剣となれるように陛下にお願いがございます」

 俺はグレナルドのほうを見たまま、何も言わず待つ。お願いとは何か、とんでもないことの気もして首筋には汗が浮く。

「ま、まずは説明しなければならないことから致します。えっと、私は妖鎧族デュアルメイルという種属なのはご存じかと思います。元々は歴戦の戦士達が使っていた武具に魂とマナが混ざった物が宿り人型となったのが私達のような妖鎧族妖武族の始祖と言われています」

 グレナルドの種属のことは知っている。いわゆるリビングアーマー、命ある鎧だ。妖武族はその近種で鎧ではなく武器という違いだけだ。グレナルドの説明は続く。

「戦闘形態は私の場合、黒瘴気を纏う鎧姿になりますが……もう一つ、妖鎧族妖武族には戦闘形態がございます。本来の武具の形、剣や盾、槍、鎧など自動出来ない上に使用者を限定する事で強度や魔力が大幅に上がります。……陛下に、私の所有者になっていただきたいのです」


 所有者になる、と言うことがイマイチ理解できない。そこに何のメリットがあるのか。

「陛下が私の所有者になっていただけると私が陛下の鎧となり守れること、私の魔力を陛下がお使いできること、私の武技を陛下がお使いできることができます」

 おう、メリットだらけ。

「ふむ、話はわかったがどういった理由で私を所有者に選んだのか、聞かせて欲しい」

 俺がそう言うとグレナルドは俯いて黙り込んでしまった。だが少し考えて答えを出したのか顔を上げて、

「陛下は勇敢な武のみならず、下々まで思いやる慈愛、無益な戦いを好まず弱者のためにお力を振るわれます。そのお姿を私は敬愛しております」

 俺のそばで働いていた分、俺の考えや動きをある程度理解していてなかなかに明確な答えを出してきた。

「……敬愛、ねぇ。だが私はまだまだ足りないところが多い。王として未熟で君が期待しているほどの人物たり得るか、自信がない」

 俺は思わず迷いを口にしてしまった。本来伏せておかなければならない心を、臣下の前でこぼしてしまった。

 不信、俺が周りにもたれてはいけない物を表面に出してしまった。しかし、

「陛下、足りないのであれば陛下はきっと努力を成されます。そのためのお力になるために、陛下に私の所有者になっていただきたいです。それに陛下はおっしゃいました。『私に力を貸して欲しい』と」

 俺は兜の中の瞳を探すように見つめる。見えないが強い意志を感じる。俺は小さく息を吸う。

 俺はこの子に信じられている。なら、俺が出すべき答えは、

「わかった。君のその言葉と期待に応えられるよう、私は努力をしよう。そのために、私の力となってくれ」

「はっ!喜んで陛下のお力となります」

 大きな声ではないが気持ちの入った声。気持ちいい返事だ。

「で、その所有者になるにはどうすればいはいのだ?」

「あーえーと、あの、その」

 頭を上下にあたふたさせて凄く歯切れが悪い。嫌な予感がふたたび鎌首を持ち上げでくる。

「……わた、私とせい、……性交してください」

「え゛?」


 嫌な予感は得手でも不得手でも当たってしまう物らしい。グレナルドの答えに俺は言葉が詰まるが、

「……悪いがそれなら無理だ。私はそのような理由で男女が肌を交えるべきではないと思う。それに今のままでも十分に守れるだろう?」

 俺の答えにグレナルドは一瞬だけ止まった。だが、小さく震えて、絞り出しように、泣きそうな声で、

「……陛下が性交を交わされるのは、そこに必ず愛情があるのを知っております。私では、ダメなのですか?私は陛下をお慕いしております」

 涙声の告白は俺の心に突き刺さる。女の子から言われて手を出さないなんて女の子に恥をかかせているのだから、ひどいことなんだろう。今さら理解しても遅くて、俺が出来ることは、

「すまない、恥をかかせた。グレナルドは私に正面から向かいはあってくれているのに私は逃げようとした。許してくれ」

 俺は立ち上がりグレナルドの傍に座る。泣き声が止まり、少し距離を取られた後、グレナルドは俺の方を向く。

「陛下が女心に鈍いことは存じております。レイラ様から許可もいただいております」

「許可?」

 鈍いのは今さらだ。自分でも女心なんかわからないことを知っている。昔も鈍感野郎とまで言われて後から気付かされることも多かった。

「……レイラ様は陛下の傍仕えの女性達に『陛下は愛情深き方。皆の中にも陛下に心を寄せる者もいるでしょう。誰かを愛する気持ちは自由です。しかし陛下にお手付けいただきたいなら、まず先に私に断りを入れに来るように』と……」

 俺はグレナルドの言葉でレイラの機嫌が理由を理解した。


 俺に側室や妾が何人いようが自分を一番愛してくれるなら構わない。彼女はそう言っていた。そして他の女には俺に手を出す前に正妻である自分に話を通しに来い、そう三ツ者や衛士隊の女性に言ったと言うことだ。

 周囲に自身が正妻であり俺の寵愛を一番多く受ける者だと宣言すれば機嫌もよくなろう。

 少し理解して俺は心の中でため息をこぼす。明日、レイラを抱くときにしっかり苛めてやろう。あぁもちろん性的な意味で、だ。

「あー、えーと、うん。わかった」

 俺が問いかけるとグレナルドは震える指で兜の留め具に指を伸ばした。

「妖鎧族妖武族は一人の相手しか生涯を伴にしません。それと……元が物だからなのか、誰かに所有されたい、自身が誰かに占有されたい願望があります」

「グレナルド……本当に私でよいのか?その話であれば、グレナルドはその……」

「私は陛下をお慕いしております。側室になりたいとは申しません。ですが、ずっとお側においていただける傍仕えにしていただきとうございます」

 兜の下、グレナルドの素顔を初めて見る。兜を外した途端、広がる銀の髪、閉じられたまぶたが開かれるとつぶらな紅の双眸が俺を見つめる。小柄で少し細めの顔。小動物系美少女だ。

 俺が見惚れていると顔を赤くしていく。耳まで赤くして、

「あ、の、あの、見つめら、れりゅと、恥ずかし、いでしゅ。そ、それに、可愛く、ないです、ごめんなさい」

 呂律が回らず、言葉が変なところで区切れて、兜を顔の前に出して隠す。

「いや、凄い美少女だぞ?私のいた世界でも、たぶん国一番とか、だ」

 俺も並外れた美少女を前に心拍があがる。

「み、身は清めてきてありますが、陛下がお気になされるのであれば……」

 兜の後ろから顔を出し、そのまま兜を机に置く。そして肩当てなどを外していくと体型も露わとなる。立ち上がり、腰回りも金具を外していく。

 黒の手首と足首まである上下に割れたボディスーツのようなアンダーウェア、前のフックを外してそれを脱ぐ。

 

 鎧でも小柄だったが脱ぐと更に小さく、俺の首程までしか背がない。可愛らしい藍色のネグリジェ、その下にある体型は顔に劣らず見事な物だった。

 首筋から下がって丸くくぼんだ鎖骨、胸は大きすぎず小さすぎずちょうど手に納まりそうなお椀型。露出した四肢は鍛えてあるはずなのに筋肉がやたらついているようには見えず、細身だが女の子らしい丸みのある肉付きをしている。

 ネグリジェは透けたタイプではないので見えにくいが腰はキュッとくびれていて丸みのあるお尻を際立たせる。


 ネグリジェと下着のみになったグレナルドはモジモジしながら俺の方を上目遣いに見る。

「あ、うん。可愛らしいぞ」

 俺は目の前にいるグレナルドの手を取ると立ち上がり、ベッドの方に誘う。

 少し引っ張られ気味に付いてきたグレナルドはいざベッドに座らされると少し不安げな様子を見せる。

「あ、あぅ。陛下……」

 俺が隣に座ると落ち着かせるように頭を撫でる。最初はびくついたものの、次第に気持ちよさそうに目を細める。

「サラサラして綺麗だな」

「あ、ありがとう、ございます……」

 柔らかくしなやかな髪、それに華奢な体、俺は空いた手をグレナルドの肩に回して身を寄せさせる。

「あの、陛下?」

 俺にされるがままに胸に転がり込んできた。側頭部から納まり、耳元がちょうど心臓に当たる。

「……陛下の、鼓動が聞こえます。少し早めで、でも心地いいです。陛下」

 グレナルドは俺を見上げて懇願するような眼で笑顔を浮かべる。

「陛下のなさりたいことをしてください。私の身も心も、陛下のものです」

Heroine profile】


ロザリア・グレナルド

妖鎧属デュアルメイル族

プレート・トライメタル

152cm・58kg・18歳

B81W57H80・Cカップ

髪 ・腰の少し上まであるストレート

髪色・白銀色

瞳 ・深紅

職業・衛士隊隊長


妖鎧属は魔力が高いほど全身鎧に近くなる。魔力が低い者はガントレットやレッグス、ヘルムのみなど。総じて物理耐性が高く痛みにはやや鈍い。デュアルメイル族はフルアーマーと剣、盾、の一式の戦闘形態。物理耐性のある特質的な筋肉を持つため見た目よりもやや体重はある。

妖鎧属の特性として所有されたい深層心理を持ち、男性は一対一のつがいを好み、女性は番もしくは一夫多妻を好む。一度交われば死が別つまで身命と忠義、情愛を以て傍をいて離婚はあり得ない。妖鎧属や妖武属を伴侶とする者は数少ないが総統吟味されて厳選されるため人格者が多く、妖鎧属の伴侶であることだけでも社会的信頼は強い。



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