フリアナ領
翌朝、朝食を済ませた俺達は時間つぶしを兼ねて街を散策する。王都に比べると規模は小さいが通りの店には活気があり、物品の取引も盛んなようだ。とくにフリアナ領産の茶葉は良質な物が多く香りも味も良く、国内でも多く求められて高値で取引されている。
もちろん低級品もあるがフリアナ領での評価が低いだけで他の地域の良品と大差がないほどにフリアナ領の茶葉自体が超一流ブランドなのだ。
そして最高級茶葉の一部は王城王室御用達でもある。
王都では見かけない品種も多くあり、ブレンド配分や葉の品質向上、新種開発も研鑽されているのだろう。
茶葉の名産地だけあって紅茶バーみたいなものもあるがその中で異色を放つ店がある。
『コーヒーショップ』だ。王都でチョコレート開発と平行して行っていたコーヒーが王都の富貴層で流行りだし、それがフリアナ領に来たのだろう。店の前には看板があり『王都最新流行飲料』とある。
「どうだ、寄っていくか?」
俺はグレナルドらの返事を待たずに店に入る。ドアに付けられたカウベルが店内に来客を告げる。
「いらっしゃいませ。空いているお好きなお席にどうぞ」
奥から若い女性の声が聞こえて俺は歩を進める。中は男性客がほとんどを占めていてその視線の先にいるのはホールスタッフをする女の子達。
肩を少し露出させた白いブラウスと膝より少し高めに揃えられた様々な色のミニスカートで統一されている。少し屈めばショーツを拝めるだろう。
俺達は少し奥側の六人掛けのテーブルに陣取ると狼獣人の女の子が駆け寄ってきて、
「こちらがメニューになります。ご注文がお決まりになられましたらお呼びください」
とメニュー表と小さいハンドベルを置いていった。
メニューにはまずコーヒーの説明がされていてミルクや砂糖、蜂蜜などのトッピングシステムが採用されており、サンドイッチやフレンチトースト、カットフルーツといったメニューもある。
「俺はミルクコーヒーにするか。三人も好きな物を選べ。どうせ時間は持てあましているのだからな」
そして悩んだ三人がメニューを決めてオーダーするとしばらくしてミルクコーヒーとブラックコーヒー、生クリームの盛られたコーヒーが二つ運ばれてきた。
「こちらがミルクコーヒー、こちらがブレンドコーヒー、こちら二つがアインシュベナーになります。こちらの砂糖とミルクをご自由にお使いください」
それぞれの前に置かれたコーヒーとテーブル中央には砂糖の入った小瓶とポーションクリームの入った小瓶が置かれた。そして俺の前にあるカップを持ち上げるとソーサーに置かれた紙を手にとった。
「陛下、それは?」
俺の行動を見ていたグレナルドが小さな声で聞いてきたので俺はその紙を指で摘まんだままグレナルドのほうに見せた。
「私がフリアナ領に送っている諜報からの報告だ。この店自体が諜報員達の拠点にさせている。まぁ何事もないそうだがな」
俺は紙に書かれた内容に小さく息を吹いてから指で飛ばすとグレナルドの前に落とした。
『別事なく平穏、南東部天候悪巡麦芋類が不作になるかもしれません』
短いながら王都に送ってある情報以外のことが書かれている。フリアナ領が不作であれば豊作の地方から小麦と根菜類を回すか。ジルノイヤー聖に伝えておこう。
「ああ、他でここのことは漏らさぬように、な?」
俺はわかっているだろうがと言うように念押しをしてから表情を変えて、
「それで、ダルハッドについてだがジルノイヤー聖に会った後、私もその面談に立ち会おう。良いな?」
俺の言葉にグレナルドが顔が見えないはずなのに顔色が悪いなるのが察せれた。
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俺達が馬でジルノイヤー家を訪ねると出迎えてくれたのは家人達とザクスだった。
「陛下、お待ち申し上げておりました。本日は我がジルノイヤー家にお越しくださり、光栄の極みに存じ上げます」
玄関を入ってすぐのホールで頭を下げるザクスに俺は笑顔を見せて、
「謙らずともかまわん。が、ジルノイヤー聖と奥方様方はどうか……されたようだな?」
俺の声の途中からザクスは額に冷や汗を浮かべて笑顔が引き攣っていく。
「陛下、どうぞこちらに」
案内されて歩く間に俺は横を歩くザクス顔を向けて、
「何があったのだ?」
「はっ……父の動向には気をつけておりましたが……私や家人達の目もかいくぐっていつもの遊びをしたようで……母らは大層怒ってただいま父は領都内を逃げ回っております。ただ、直に捕まるかと」
ザクスはものすごい苦笑いを浮かべている。俺自身はジルノイヤー聖や奥方様方、クレアだけでなくクレアの兄弟達にも比較的緩やかな態度を見せている。そのおかげでザクスもかなり親和的で軽い冗談交じりの会話慣らしてくれる。
かなり広めの部屋に通されて長いテーブルの上座を勧められた。護衛の三人は俺の後ろに立っていて俺が座るとすぐにメイドがソーサーとカップを出す。いくつか離れた席に着いたザクスが、
「ラシミシェルという葉を主に幾種類かをブレンドした紅茶でございます。陛下のお口に合えば大変喜ばしく存じ上げます」
説明をしてくれて俺は香りを楽しんでから一口、独特の酸味と味わいのアクセントに微かな苦み、そして後から来る爽やかな甘味。
「うん、とてもおいしい。王都でも味わったことのない味だ」
俺はカップを一度下ろしてソーサーに置くとザクスの方を見る。
「ありがとうございます」
ふかぶかとあたまをさげるが俺はここで少し表情を変える。堅い陛下ではない、俺自身の性格を出す。
「で、ジルノイヤー聖は何をしたんだい?」
緩やかに笑い、談笑をしようと表情でザクスに向けるとザクスは胸をなで下ろすかのように息をついて、
「はっ。どうも領内のお酒の店で若い女性と楽しく飲んでいたそうで、父の服から女性からのメッセージカードが何枚か出てきたそうです」
ザクスも困り顔を浮かべながら教えてくれて俺も小さく吹き出す。
「私のいた国では英雄色を好むと言うからな。大事を成す者なら少しはよいだろう」
「それでは、陛下も大事を成される方でありますからクレアを大事にしてくださることを兄として願います」
ザクスは俺にそう言ってから少し笑い、俺はしてやられたなぁと笑みを浮かべる。俺とザクスの信頼関係を知らない家人達はかなり冷や汗ものだろう。
そしてノックがされて部屋に入ってくる者達がいた。
「陛下、お待たせして申し訳ありません」
可愛らしいアフタヌーンドレスのクレアを先頭にクレアからして次兄のハンガーと妹のストリーがついてきていた。
「クレア、久しぶりになってしまったね」
俺はクレアの傍に歩み寄ると軽く抱きしめる。柔らかい髪から甘い石鹸の香りがする。そして視界の隅で可愛い耳がピコピコと動いていて触りたくなったが我慢した。
クレアを離すと俺の傍に座らせてニコニコとその顔を見る。クレアは照れたように、
「へ、陛下、あまり見つめられては恥ずかしいです」
しかし俺は気付いている。クレアの尻尾がパタパタと動いているのがスカートの揺れで見て取れる。
「陛下、本日はフリアナ領にお越しいただきありがとうございます。クレアのこともございましょうが父らが今おらず陛下をお待たせすることになり大変ご無礼な次第、申し訳ございません」
真面目に挨拶をするハンガーは軍人ではないが軍属である。フリアナ領軍馬管理場官吏という役職にあって領都の傍で馬の生産を管理し、フリアナ領全域に馬を出荷している。騎乗馬の他に伝令馬や荷馬車馬、農耕馬まで幅広く飼育しておりジルノイヤー聖の子の中で唯一の既婚者だ。
「いやいや、かまわんよ。公務ではなく私用できているのだからジルノイヤー聖の執務が終えてからの方がよかったのだがな」
俺は小さく笑いながら一番と奥に座るストリーと目が合う。すぐに恥ずかしそうに小さな体を更に小さくしている。
「ああ、そうだ」
俺はあからさまとわかるほどの演技で手を打って亜空間倉庫から木箱を取り出す。それをザクスとクレアの間に滑らせて、
「新しいチョコレートの開発で意見が欲しい。食べてみてくれないか?」
箱の中にあるのは某駄メーカー商品に似た台形状のチョコレートだ。甘ったるいココアミルクチョコで子供が好きそうな味にしてある。
「ちょうだい致します」
ザクスは口にすると目を見開いてから飲み下して、クレアは頬を緩ませて味わっている。最後に手を伸ばしたハンガーは珍妙な顔になった。
「これは……非常に甘いですね。なんと言いますか、私には甘すぎます」
「ザクス兄様は甘い物が苦手ですからね。私は好きです、女の子好みの味かと」
「単体ではかなり甘いですが何かと合わせれば……パンに挟むのはいかがでしょうか?甘い物が苦手な兄上もきっと食べられるかと」
ストリーからは大人の話でつまらなく見えるだろうが兄姉が食べているのを見て羨ましそうにもしている。俺はニコッと笑って、
「小さい子からも意見が欲しいな」
クレアらの視線もストリーに向いて、木箱がストリーの前に運ばれた。ストリーは俺とチョコを何度も交互に見て、俺が頷くとおずおずと手を伸ばして宝物を手にしたかのような顔で口にした。
「子供向けに味は問題なさそうだな」
俺だけでなく皆も微笑ましくストリーの様子を見ていた。
感想を言うよりも床に届いていない足をパタパタさせながら頬を押さえる様は子供らしい可愛さがあった。
【Heroine Profile】
クレア・フリアナ・ジルノイヤー
獣人金狐族
プレート・ゴールド
170cm・61kg・17歳
B93W59H71・Hカップ
髪 ・サラサラロングストレート
髪色・金色
瞳 ・蒼
職業・貴族の娘
尻尾と耳がモフモフな孤族
毛色によって分けられますが大差はない
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