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新しい衛士

 数日分の執務を前倒してせっせと時間を作るために働いた。何日か繰り返して俺が王都にいなくても大丈夫なときに俺は出かけていく。

 今回はグレナルドがついてくるほかにノアード・ジグレシアとルイーゼ・シャルナックがついてくる。ジグレシアとシャルナックはグレナルドが選抜してきた衛士隊の一人。


 ジグレシアは元魔物狩りの魔龍人ブルードラゴニス族の男だ。180はありそうな高身長で短めの銀髪、蒼輝石を思わせる涼しげな瞳は女性から見ればまさにイケメンだろう。

 胸当てと関節など軽装の鎧の下にある体は高い身体能力に優れた耐久性があるそうだ。そして多属性の魔法も使える魔法剣士だそうだ。


 シャルナックは妖花フラウ族の女性で回復魔法や補助魔法、防御魔法に特化した魔導師だ。白い素地に緑の糸で魔方陣が刺繍されたローブの裾が地面スレスレ、150センチにも届かなそうなちびっ子だが成人している。

 黄色人種よりも黄色みのある肌、その腕には蔓草を巻いたような緑の螺旋痕がある。真っ青なセミロングの髪は風に吹かれるとサラサラと流されている。そして反則のようにデカい胸、足元見えてないんじゃなかろうか……。


「まさかグレナルドの下につくとは思ってもみなかったな」

「私はローザの下なら悪いとは思わないですね~」

 声変わりしているはずなのに高めの声質のジグレシアに完璧なアニメ声のシャルナック、並ぶとものすごいデコボコ感のある二人だ。

 俺が二人とグレナルドの関係を聞くとグレナルドが軍に入る前に通っていた武術学校での友人らしい。


 グレナルドが馬を四頭引き連れて王城の正門前に姿を見せたのは俺と二人の雑談がちょうど終わった頃だった。

 いつものほぼ黒に近い深蒼色の全身鎧であるがグレナルドは鎧を含めても160ほどの身長だ。馬と並ぶと小柄なことがよくわかる。

「陛下の馬はこの子をお使いください。大人しい気質で頭もよく聞き分けがいい子です」

 グレナルドが俺に渡してくれた手綱の先には青磁器のような青白い毛並みの馬がつながれている。馬について詳しくないが競馬で見るサラブレッドのようなサイズをしているが額には鶏冠のような黒い角がある。


 俺が馬を見ているとグレナルドが、

「この子はラセアンと申します。小さい頃から私が世話をしてきた馬です」

 グレナルドが馬の首に手を添えて馬の名前を教えてくれる。そして馬、ラセアンを俺の前に連れてきて、

「手のひらに魔力を集めてこの子の額に寄せてください。自分より強く、敵意のないものの命令に従うので陛下がこの子より強いとわからせてください」

 俺はグレナルドの言うとおりに手のひらに魔力を集めるとラセアンの額にかざす。するとラセアンは俺の手に額を擦りつけ始める。

「これで、いいのか?」

「はい。これでラセアンは陛下の指示に従います」

 少し困る俺にグレナルドは自信を持って返事をする。


「ジグレシアはこの子、ライアットに、ルイーゼはフィガット」

 それぞれに手綱を渡したグレナルドは残る手綱につながれた馬の首を撫でて、

「シャルール、お願いね」

 馬は名を呼ばれたのがわかるのか一鳴きするとグレナルドが騎乗するのを待つ。シャルールはラセアンと同種なのか、ラセアンを少し小さくしたような馬だ。

 ライアットは全身が黒く紅の目が異様なほどにぎらついたように見える。しかもかなり大きく、大柄のジグレシアが乗ってもジグレシアが小さく見える。

 フィガットはシャルナックの体格に合わせたのかやや小柄な馬だがたてがみの他に足や腹の毛が少し長く風に吹かれるとサラサラと揺れている。


 グレナルドは騎乗する前に思い出したかのように俺の前に跪くと、

「陛下、申し訳ありませんが一カ所だけ立ち寄ります。ジグレシアとシャルナックの武器の最終調整が終わっているはずなので」

 その程度のことかと思いながらも臣下が王を待たせるのはよろしくないのでグレナルドはこうしているのだろう。

「ああ。かまわない」

「申し訳ありません。朝には終わっているはずだったのですが微調整が間に合わず、陛下のご予定に合わせることが出来ませんでした」


 俺が気にするなと言うとグレナルドは立ち上がると馬を見ながら、

「ありがとうございます。ただこの子達の足ならば二日もあればフリアナ領都に着きますのでご安心ください」

 普段のグレナルドからはあまり見られない自身が言葉に感じられる。それほどまでにこの馬たちに手をかけてきたのだろう。

「なら往復と滞在を足しても五日六日程度か。普通の馬車の三倍ほど早いな、素晴らしい」

 俺がラセアンを撫でて騎乗するとグレナルドらも騎乗する。

「では、私が先導いたしますので陛下は後ろに。ジグは陛下の左、ルイーゼは右について」

「わかった」

「うん」

 隊形と言うほどでもないものも決まり、城門を潜り街へと歩き出す。街中では馬を歩かせるのはいいが、駆けることは城門へとまっすぐ続く軍馬専用道以外では禁止されている。

 60年ほど前にアンリ先王が伝令の駆る早馬のために作ったらしいのだが、その頃を知るものはもう高齢の者くらいだ。


 城のすぐ傍にある貴族街を抜けて向かったのは貴賓街、貴族ではないが金持ち達の住む区画だ。ここらには多くの豪商や魔物狩りでも高位の者、王国騎士の将帥、風変わりな一部の貴族などが住んでいる。

 その区画にある商店街は高価だが高品質、貴品、珍品など平民街では見かけないものが数多くある。王城の食事に使う食品もこの区にある食料品店から買い上げている物も多くある。

 そしてグレナルドの先導で向かったのは高級武具店が並ぶ通りの横、鍛冶屋や建築、細工などの職人達の住む通りだった。ドワーフやエルフ、ドルイドなどの職人の姿が目立つ。


 馬が止まったのは通りにある店の一つの前だった。だがそこには店の看板もなく営業しているようには見えない。馬を降りたグレナルドを見て俺も馬から下りる。ジグレシアやシャルナックも下馬するど馬止め用の金具に手綱を止めていく。

「申し訳ありません。狭いところですが……」

 グレナルドは扉を開けて俺が入るのを待つ。俺が入るとグレナルドらも続いて入ってきた。

「陛下、少々お待ちください。……フィオン!」

 グレナルドからが奥に呼び掛ける。その間に俺は中を見渡す。


 入ってすぐにカウンター、そこには誰もおらず呼び鈴が置いてあるだけ。奥には鍛冶屋らしい設備はあるがそこにも誰もいない。火の気もなく工房らしくない。

 左手奥には二階に続く階段、そこの上から返事があって足音が近付いてくる。

「はいはーい」

 声が高くて女の子だと思ったら下りてきたのはまだ十歳程度の男の子だった。両腕で抱えている白い布で包まれたものが二つ。二つとも少年の身長ほどあり持ち運ぶのは大変そうに見える。

 階段を下り終えた少年はカウンター横にある通路から出てくると、

「えっと、こっちはジグさんの剣。こっちがシャル姉ちゃんの杖」

 ジグレシアとシャルナックはそれぞれ包みの布を開く。ジグレシアの剣は薄緑の鞘に収まった長剣、抜いた刃は金属的な輝きがなくただ白い。磨き上げられた白亜の石のようだ。

 一方シャルナックの杖は錫杖のようなもので尖っただけの石突きに対して先端側は透明な宝玉に三対の翼、翼はどれも違う色をいており意味ありげな感じがある。


「うん。昨日より手に合う感じだ」

「魔力流動がよくなってる……」

 俺がジグレシアとシャルナックをよく見ると薄らと魔力を纏っているのがわかった。そして剣と杖にそれぞれの魔力が通い、力強さを感じさせる。

「……まったく、ゴルゴドおじさんもこだわりすぎるんだから……」

 俺の耳に聞こえたのはグレナルドの小さな愚痴だった。

「どうした、グレナルド?」

 俺が呼び掛けると慌てたように、

「あ、いえ、陛下をお待たせして申し訳ないと……」

 グレナルドがそういうと少年が目を輝かせて、

「お兄さんが陛下なの?わー、こんなに近くで陛下を見れるなんて……」

 少年は憧れの存在を見るかのような目で俺を見ていて俺は微笑みを返す。

「フィ、フィオン!陛下の御前で騒ぐのやめなさい!」

 グレナルドが諫めるもフィオンの足は止まらずに振り返って階段を半分上ると階上に向かって、

「エレシア、ローザ姉が陛下と一緒だよ」

 けっこう大きな声でエレシアなる人物を呼ぶ、真上の部屋からドタンと大きな音が鳴って走る足音が聞こえる。


「グレナルド、もしかしてだが、君の家か?」

 俺が首の上だけを横に向けてグレナルドに聞くと、

「大変なご無礼申し訳ありません。ご察しの通りでございます」

 グレナルドの頭が深々と下がっていく。武器を取りに来ただけのつもりが弟がはしゃぎだしてグレナルドの心中はたまったものではないだろう。

「子供は多少無礼でもかまわない。……まぁ、私自身親しみやすい王ではありたいのだがね?」

 本心をこぼしながら階段を下りてくる足音の主を見る。こちらは少女、フィオンよりも上だろう。


 少女は階段を下りてすぐに跪くと、

「エレシア・グレナルドと申します。そこのロザリアが妹になります」

 一二、三歳だろうというのにかなりしっかりした挨拶をする。頭を下げたときに肩口まである銀の髪がさらりと垂れ下がり、横にいたフィオンには片手が伸びて無理矢理座らせると何事か囁く。すると、

「申し遅れました、ロザリア・グレナルドが弟、フィオン・グレナルドでございます。陛下の御前での粗相、大変申し訳ありません」

 どうやら叱られたらしい。俺は微笑ましく思いながら、

「立って楽にしてくれ。グレナルド、よい弟妹だな」

「恥ずかしいばかりでございます」

 グレナルドは思いっきり肩を落としてため息をついた。俺は微笑ましいなと小さく笑っていた。


 楽にしてくれ、と言った後からはグレナルドが弟妹に仕事で数日家を空けることを伝えて、

「……と言うわけで二人で母のことをしっかりと看るように。何かあればゴルゴドおじさんかバルザおじさんに言うとこ。いい?」

 弟妹に人差し指を立てながら言い聞かせている。

「はいはい。というか、姉さんはいつもいないんだから家のことは私に任せてよ」

「バルザおじさんに言うとナタが来るからやだなぁ……」

 内気なグレナルドが弟妹の前ではしっかりした姉、それに対して生意気に言い返す妹にあからさまに嫌そうな顔を浮かべる弟。それぞれの反応が面白くて俺は口元を緩める。

「陛下、どうかなさいましたか?」

 ジグレシアから聞かれて俺は口元に手をやりながら、

「私は兄弟がなくてな。羨ましいと思うのと、城とは全く違うグレナルドが面白くてな」

「ははは……それは私も同じ事を……」

 ジグレシアも俺と同じ感想だったようだ。


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 王都から出ると馬たちが本領発揮する。初速は比較的ゆっくりだがドンドンと加速していく。速度は車ほどだろうかと思っている間にも加速していき体感的には車を超えた。

 目をこらすと馬の前には三角錐状のほぼ透明の障壁があり防風になっている。

「軍用馬はこんなにも速いのか」

 俺が感心したように言うと

「はい、家畜化しているとは言え魔物です。いざとなれば戦うことも出来ますがこの馬たちなら逃げる性質でしょう」

 ジグレイシアが横から説明をしてくれてた。

 グレナルドが自信を持って言うわけだ。これなら予定通りどころか予定より早く到着できるかもしれない。

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