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アンリ先王の遺志

 アンリ先王の代になってから戦争は激化していくばかりだった。特に化け物級の一体で戦線は荒らされている。

 今見ているページの最後はジョアの死から数年ほどして子のいないクレスパイズ王から王位継承直後にアンリ先王は前線に向かっている。そしてどうやってか不明だがこの化け物級を撃破している。その後は戦線は安定している。

 

 ページをめくった先からはアンリ先王の戦歴やクレスパイズ王から引き継ぎ行った法整備などが綴られており、最後の方に、

『シュルシュトフロストアンリ王、異世界より救国の士を呼ぶ。地球日本よりリュウト・ソウマが呼ばれる。三カ月後姿を消す。その一年後に帝国側にリュウト・ソウマの姿を確認』

 俺の中で怒りが再燃する。本を持つ手に力が入るが重要な書であることが手の力を留める。そして、

『シュルシュトフロストアンリ王、再度異世界から救国の士を呼ぶ。地球日本よりシュウイチ・イマガワが呼ばれる。シュルシュトフロストアンリ王、先の召喚と同じところから来た者であることに心を不安を抱えながらシュレリア・ファン・グリエスを内政特務官に任じ監視と教示を命ずる』

 ここから先はアンリ先王の功績と客観的に見たアンリ先王の様子が綴られていることと俺に対する批評もあった。


 俺が本を閉じ、天井を見上げて大きく息を吸う。その様子を見ていたアドウェネドが一通の封筒を俺の前に置いた。

「アンリ先王より、陛下がこれをお調べになられたらお渡しするようにと……」


アドウェネドの声は硬質的で感情が読めない。

 俺は震える手でそれをとって開く。ここにアンリ先王の意志がある、それがとても怖い。

『これを見ているシュウイチ君へ。すでに私はこの世界におらず君に後事を託しているはずだ。気の優しいシュウイチ君なら異世界から来た自分が王になったことに疑問を持つかもしれないと思ってこれをしたためる』

 そんな言葉で始まる俺宛の手紙、震える手でしっかりと持ちながら続きを読んでいく。

『ご覧の通り、子のいなくなったクレスパイズ王より私は異世界から来た者として戦った後に王になった。私が君に託したインフィニスト、それは私の朋友ともジョアが死の間際に私に託したスキルだ。インフィニストは自身にしか影響できない。戦闘力だけの私でも、魔力だけのジョアでもあの強敵には叶わなかった。私はインフィニストを受け継いで強敵を討ち、ジョアの敵を取ることも出来た。

そして私は満足してしまったのかもしれない。君が王位を継ぐ条件を私に告げた日に、リュウトと戦うことを決意したあの日に、全てを託せる者が現れたことに。

聖魔光王国十七代目王として君に言おう。かつての王族はすでに継承権を持つ者がおらず、君が継いでいって欲しい。そして君が誰かと子を成したならば君の次代はその子に託せるように育てればいい。もちろん君ならば次の王としての心得を子に教示できていくだろうと期待している。

最初から自信を持ってやることは難しくともゆっくりと付けていってくれたらいい。私は君を見たから言える、君ならいずれ王としての立派に政務をこなしていけるはずだろう。

最後になるがアドウェネドとフロミラの子、レイラ君のことは彼女が小さい頃から知っているが聡明な子だ。是非妻にどうだね?』


 俺は最後の一文に額から崩れて机に派手にぶつける。そして苦笑いを浮かべながら、

「やれやれ、アンリ先王にまだ心配されているのか、俺は。ダメだなぁ。でも、うん」

 体を起こして封筒に紙を戻して懐に入れる。ここまでアンリ先王に俺の行動が予測されているとは思わなかったが、言い交えばあの方は俺を見ていてくれた、期待してくれた、そして……俺に後事を託したことに安心もしてくれた。

 だから、俺は頑張れる。自身がまだ未熟で不安で信じ切れないけど、まずはレイラがミックがアンリ先王が信じてくれるシュウイチを信じていこう。

 そうすれば少しずつでも自信が付いていくはずだから。


-----


 アドウェネドとフロミラに礼を言って部屋を出た頃には日が傾き始めていた。昼前に入ったというのに昼食もとらず、それだけ集中していたのだろうか?

 そう思ったら急に空腹を覚えて腹が鳴る。

 俺は執務室に向かいながらおそらく貯まっているだろうと思われる書類の山を予見していた。

 しかし、

「陛下。本日の執務の残りですが明日でも大丈夫の手はずにしております。今日はもうおやすみください」

 ミックに追い返されるような感じで私室に向かう羽目となった。もしかしてアドウェネドかフロミラが手配してくれたのだろうか?


 そんなことを思いながら私室の扉を開けるとレイラがソファーに座り待っていた。机には軽食も置いてあり、

「陛下、お調べ事も大事なことです。何を思われてかはお伺いませんが私は陛下を公私にわたり信じております」

 レイラは両親から何か聞いたのだろうか?

 俺はそれを聞くことはしないがレイラの向かい側に座り、レイラの瞳を見る。

 変わらないレイラの目から外して皿に並べられたサンドイッチに手を伸ばして食べながらも心中は揺れ動く。

 何が出来るのか、やるべき事は何か、何を成したいのか、成した後にどうするのか。

 チラリとレイラを見る。俺の視線に気付いたのか微笑む。


 今は……そうだな。この人の笑顔を守ろう。俺の手が届く場所にいる人の、俺の目に映る人の、俺が大事にしたい人の笑顔を。

 俺は自然と口角が上がった。


 俺がサンドイッチを呑み込むとレイラは少しはにかんで、上目遣いになり、人差し指を唇に当てて、ちょっと悩ましげに、

「えっと……あなた様が貴書奥院で調べ事をされているときにご昼食にお呼びにいたのですが……」

「え、来ていたのか?すまない、気付かなかった」

 俺は慌てて謝るがレイラは小さく首を振って、

「いえ、大層御集中されていたので……ですが、その、えっと……」

 レイラのかなり歯切れが悪い。言い出したいことがうまく言えないらしいのだが彼女にしてはとても珍しい。

「何か、あったのか?」

 俺の問いにレイラはうつむいて小さく震え出す。しばらくそのままだったが顔を上げて凄く恥ずかしそうに、

「母から『早く御子を授かるといいわねぇ』って……」

 レイラはまたうつむく。俺は固まる。


 部屋の中には振り子時計の音だけが小さく聞こえて、数分の時間がそのまま過ぎる。

 俺の頭の中では混乱と理屈が混在して出した答えは、

(もしかして、あの手紙の内容を二人は知っているのか?……いや、アンリ先王は俺と会った時点ですでに手が動かないほどだった。ということは代筆だ、か、ら……)

 そしてレイラが俺の正妻候補に推薦したのはアドウェネドでもフロミラでもない。


 俺はまだアンリ先王の掌の上らしい。

 そんなことに少し笑って、ソファーから立ちあがるとレイラの横に行き、その手を取る。立ちあがらせて抱きしめると優しくキスをする。

 俺の突然の行動に驚きながら照れるレイラが可愛くて、もう一度キスをしてから、

「王としても子は必要だけど、俺個人の意志でもレイラに俺の子供産んで欲しいんだけどいいかな?」

 レイラは顔も耳も紅潮させて俺の腕の中から俺を見上げる。そして小さく何事か唇を動かして、それから、

「はい、幾人でも」

 可愛いことを言われてたまらなくなり俺はレイラをベッドに連れ去った。

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