王位継承
三日後、王城のテラスの一つにアンリ王と俺、三大臣が並んでいた。周りを固めるのは白の鎧で統一された近衛兵。
テラスに置かれた台には16の水晶が並び、それぞれ違う街や砦などの広場が映っている。
そしてテラスの下にある巨大な広場には城下町に住む者たちが集まり、その上に浮遊する巨大な水晶にはテラスの様子が浮かび上がっている。
この水晶は魔石で作られた映像通信できる魔道具でかなり希少な物らしい。十の大都市といくつかの前線基地にしかなく、残りは音声のみのもので王位継承式が全土に伝えられる。
「今より聖魔光王国第17代国王シュルシュトフロストアンリ陛下より、お言葉がある。軍臣民、皆心して静聴せよ」
カルトバウスが通信用魔水晶に声を向けると映像を映している水晶からもカルトバウスの声がした。
アンリが水晶の前の椅子ごと運ばれると、
「余は聖魔光王国第17代国王、シュルシュトフロストアンリである。今日は皆に謝らねばならぬ。
40年前、余は先王クレスパイズ陛下より神蒼帝国との戦を止め、ともに和の道を歩くためにできる限りのことをすると約束し王位を継承した。
しかし40年経った今もなお戦争は続き、血を流す者は後を絶たない。
本来であれば余の代に和を契り、軍臣民に安寧を約束させたかった。いや、しなければなかった。それが余と先王との誓いであり、余がやらねばならぬ王としての責務であった」
アンリは一度言葉を止めて目の前にいる軍臣民と水晶を見渡す。慈愛の想いがあるのか、父母が子供を見守るような目をしているが、悲しみの陰りも持つ。
「しかし知っている者もいるであろう。余の命に許された時間は短く、この体はもう動けぬ。
先王との誓いを守れず、この身は果てようとし、軍臣民を守ることさえ叶わぬ。
故に余は退位し、次の王に余の意思を、先王の意思を継がせ、真の平和たる世を築かせたい
余と同じく、異世界より我が意志を継ぐ者を召喚した。彼の者の名は、シュウイチ・イマガワ。この者に次代の王として余の意思を託したいと思う」
アンリに紹介された俺はノーネクタイのスーツのような格好で水晶の前に立った。
「軍臣民の皆、初めて顔を見せる。私がシュウイチ・イマガワだ。シュルシュトフロストアンリ陛下より次代を託したいと請われ、身に余る者だがここに立っている。
私は異世界よりここに来て日が浅く、皆がどのように思っているか日々、見聞きし、調べた。
皆は和を願いながら、望まぬ戦をし、安寧なる生活を望んでいると私は見た。
故に私はシュルシュトフロストアンリ陛下の御意志を継ぎ、皆に安らぎある平穏なる暮らしを得られる世を目指し、皆の王になりたい」
ここまで言って俺は大きく息を吸い、吐き出す。
そして、この先は俺が王位を継ぐに当たって付けた条件を軍臣民に告げなければならない。
俺が王として約束すること、その決意と責任を持って。
「私はまだ王位継承について完全に受け入れた訳ではない」
集まった群衆と水晶からも少しどよめきが起きる。それが静まるのを待ってから、
「私がいた世界にはこのような言葉がある。王なくして民はなく、民なくして王はない。民は王があってこそまとまりを持ち、王は付き従う軍臣民があってこそ王でいられる。王も民も国が国としてあるために必要な者であると言うことだ。
故に私は軍臣民の皆に王として認められてこそ初めて王になれる。
私は皆に約束をする。先ほども言ったとおり、私はシュルシュトフロストアンリ陛下の御意志を継ぎ、神蒼帝国と和の道を模索し、実現する。そして皆に安らぎある平穏なる暮らしを得られる世を目指す。そのために私の持てる限りを尽くすことをする。
これが王として私が皆に約束することである」
そう、ここまではアンリ王の想いを受けての決意。そしてここからは俺が王としての決意表明であり、俺がこの国の者に受け入れられるか、どうか。
「そしてもう一つ、和の道を作り上げたとき私は皆からあるものを奪う罪を負う。
この国の誰もが神蒼帝国との戦において、親を、伴侶を、子を、恋人を、朋友を、失ったであろう。
神蒼帝国を憎しみ、恨み、許せざる、その心を、復讐心を私に預け、その復讐を叶わないことにする罪である。
皆はわかっていよう、親や子、伴侶を失った悲しみを、恋人を朋友を失った辛さを。憎んだであろう、恨んだであろう、呪ったであろう。
しかし戦が続けば、己が親に、子に、伴侶に、恋人に、朋友に、その思いをさせることとなる。それは誰しもが願わぬ事ではないのか?
そして和の道を共に歩めたとき、今持つ復讐心は共に歩む者として持ってはならぬ物ではないか?
復讐心をは新たな戦の火種となりかねない。だが捨てることは難しい。
故に私は皆から復讐心を預かり、復讐を叶わぬことにする罪を私が負う。
私は私の代で太平の世をこの国に築き、私の次の代に、そのまた先の代にこの国に生きる軍臣民のために、皆の復讐心を私に預けてもらえないであろうか?
私の心を理解してくれた者は、私を王として認めてくれた者は拍手を以て応えて欲しい」
俺が三日間考え、そしてカルトバウスやジェラール、ノゼリックらに添削を受けて作った文章だ。
俺は講和の道を進めた場合に皆が報復をしないように咎め、平和な次代につないで欲しい想いがあった。
しばらくの沈黙の中、民衆の中から小さな拍手がした。
その音はゆっくりとだが確実に広がっていき、全ての水晶からも聞こえてきた。
その拍手に俺は頭を下げた。
そしてアンリからインフィニストを継承し、万雷の拍手の中、聖魔光王国第18代国王になった。
【お金について】
小鉄貨(1円)鉄貨(10円)小銅貨(100円)銅貨(1000円)
小銀貨(1万円)銀貨(10万円)小金貨(100万円)金貨(1000万円)
くらいの換算で一般的な一人暮らし収入は銀貨一枚と小銀貨五枚前後です
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