お疲れ様です
足の下で呻き声を上げるものがある。粋がっていたリューは少し加減をして殴り散らし動けなくして、クリスと魔導師(リック、だったか?)は膝蹴り一撃で寝てもらっている。
「はぁ……。もう少し歯ごたえがあるとは思っていたが……」
魔力強化した手甲で殴ること、数十発。最初は障壁や身体強化で防御していたが俺の攻撃から身を守るには大量に消費していったようであっという間に魔力は底をついたらしい。
転がっている今は防御に回す魔力も尽きていてリューからは魔力の奔流が感じられない。適当に蹴りながら話を続ける。
「俺はさぁ、弱い者イジメが、したいわけじゃないんだよ?ただ、同じ日本人としてさ、許せないんだよ。助けを求める人を見捨てて、大樹の陰に逃げて、助けを求めた人に、剣を向けた、お前が」
鎧の上から魔力強化もせずに蹴っているだけだからダメージはそんなにないはずだ。見下ろすのではない、見下した目でリューと視線を合わせてやる。
義憤か、憎悪か、別の感情か、わからないが俺はそれにつられて口角が上がる。
「義もなく、仁もない。ラノベの主人公を気取るならな、王国を助ける、勇者になるべきだったんだよ。……まぁ、そんなことは今さらですでに俺が王として君臨している。俺は軍臣民すべてを守る。……誰にも……誰にも傷つけさせない、今度こそ守るんだ……今度こそ……」
蹴っていた足はいつの間にか止まっていた。言葉の途中から俺自身の心が洩れてしまっていた。
水晶越しに聞かれてしまった、あぁ恥ずべき事だな。王として弱いところは見せられないはずなのに……。
そう思っていると後ろから足音が近付いてくる。まだやる気のあるヤツがいたのか。
振り返ると一人、比較的軽装の鎧とサークレット、そしてレイピアを下げた女。月にも似たほぼ白に近い淡く薄い黄色の髪を風に揺らしている。
ややつり目で飴色のような目には強い意志と勝ち気な印象を受ける。
「まさか、ここまで強いとは……勇者がまったく相手にならない実力……だが、任務は任務」
シャープで形のいい顎に片手を当ててぼそぼそと喋る声はかなり怪しい。
「ご覧の通りだが、私と戦うか?」
「任務故」
フェンシングに似た構えをとり俺に剣気を向ける。
俺も構えを取る。閃武流の構えの一つ、斬剣の構え。足は肩幅にして前後に開き、両手の手の甲を相手に向けて、左は胸の前で曲げて、右は下方に伸ばして正中線上に並べるようにする。
「……では、参ります」
素早い突きを連続して放つ。俺はその突きに合わせて手を動かし手首を伸ばして手の甲で軌道を変えて攻撃をしのぐ。
女の目は真剣なのだが妙な感じがする。何か違和感、周りには意識のない三人以外は誰もいるような感じはないのに時間稼ぎか何か調べるような雰囲気。まるで勝つつもりがないように感じられるのだ。
「何が目的だ?……剣に殺意がないのにやる気だけがある。理由がわからないな」
しばらく攻撃をしのいだ俺は彼女に問いかける。攻撃は止まないが彼女の表情は変わる。何か迷っているような顔をして無言で攻撃を繰り返す。
「……っ」
俺は切っ先を弾くのではなく摘まんで止める。すると彼女はそのまま止まって引くことも押すこともしない。戦意もなく俺の目を見ている。
しばらく眺めていたが俺は手を離す。
「……どうして王一人が戦う?」
「……私の国だからだ。王は国を守るべき存在。だが私の考える国とは名前や土地ではない。軍臣民すべてがいてこそ国だ。我が国の軍臣民に敵対するのであれば私が盾になる。……そして軍臣は民を守る盾となって欲しい。それが理由では納得いかんか?」
どういうつもりか知らないが将軍らと似たような質問をしてきた。俺はそこに正直に答える。
守りたいものを守れない力なんて、何の役にも立たない。今の俺には力がある。だから守りたいものを、助けを呼ぶ声があるなら守りたい。
女がレイピアを腰に収める。そしてリューらに目をやってから近づき、そしてまだ意識がないことを確認してから、
「……魔妖人は世間で言われるような粗暴で邪悪なものではなく、聖魔光王国は力のみに支配された恐怖支配下にあるわけではないのか?」
どうも話せる人らしい。俺は戦う姿勢を止めて、
「そうですね。私の知る限り、暴力や恐怖による統治をしている地域はないはずです。それにそちらが望むなら貿易だって可能ですよ?」
態度を軟化させて少しだけ微笑みを浮かべる。
俺はこの女が魔妖人肯定派とまでは言わないが懐疑的であると共に、この女に命令をしている者も魔妖人全否定には懐疑的なのだろうも推測した。
「……あなたの名前と……あなたの主の名前を聞かせてもらえないだろうか?」
女は腰に手を当ててつま先で地面を数度叩いてから、
「……神兵第四位、シンシア・ファイエランド・フローレシア。主の名は明かせない」
ちょっと生意気な口調で名乗るとふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「ありがとう。改めて、私は聖魔光王国国王、シュウイチ・イマガワ。あなたの主に伝え願う。聖魔光王国の和平と交易の門は常に開かれている、と」
「……主には伝えておく。それでは失礼する」
彼女、シンシアは翻して行こうとしたが俺はその背中に声をかけた。
「そちらの兵一人として命を落としてはないだろうか?一応威圧だけのつもりであったが思った以上の惨事になってしまって少し気がかりだったのだが」
俺の言葉に足を止めてくれたシンシアは振り返ることもなくだったが、
「……しばらく兵としては使えないかもしれないが命に別状あるものはない」
「よかった、誰も殺したくはないのでね。……それと、こちらは引き上げるのでそこに伸びている勇者君達の回収の程もそちらにお任せしていいかな?」
俺はそれだけ伝えて飛翔すると戦地を後にした。
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俺がサラス将軍の砦に戻ると将軍らは全員いた。いや、将軍だけでなくグレナルドやレイラ、ミックまで揃っていた。
王都に置いてきたはずのレイラ達がいるということは馬ではなく魔法で身体強化して走ってきたか飛行魔法でも使ったのだろう。
俺は少しばかりため息をついて、
「話は奥で聞こうか。それぞれ言いたいことはあるだろうからね」
初めて将軍らと会った大合議室にて全員が椅子に座ると、
「陛下、まずはお疲れ様です。皆で水晶越しに拝見しておりましたが何の支障もなかったこと、喜ばしく」
ミックは俺に頭を下げて労う言葉を口にする。それに対して俺は、
「……私の本音が少し、少し零れてしまったが私は皆を不安にさせているだろう。私は先日と同じで、先ほどの言葉通りだ。私が守りたいのは国という入れ物ではない。軍臣民の皆がいるから、この国を守りたいのだ」
一度皆の顔を見るとなんとも言えない、だが出陣の前よりも俺の言葉に理解を示してくれているように見受けられた。
「信用していないのではない。信じているからこそ、私は皆を守る。私に守られた者は下の者を守ってくれればいい。皆が自信の傍にいる者を守れば、皆に平和と安寧を図ることができる。私が初心にも言ったことが実現できるのだ」
俺はここまで言ってから大きく息を吸い、順番に顔を見ながら将軍らの名前をフルネームで呼んでいく。そして改めて、
「ここにいる皆の力、私に貸して欲しい」
俺がそう伝えると半数近い将はすぐに頭を下げ、残る数人は少し間があってから頭を下げた。
こうして俺は軍にとって将の将、王として認められて踏み出した。
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