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まずは御挨拶

 将軍らに俺の戦う理由を説明したがあまり賛同は得られなかった印象があった。

 将帥は兵の見本でなければならない。命ずるならばまずは将帥が動き、それを見てこそ兵は動く。

 四文字熟語で何かあったが忘れた。俺にとって将軍らに伝えたのは、

「私は王だ。ならば全国民を守ることが使命。民ではなく、国民なのだ。民を守るのは兵、兵を守るのは将。そして将を守るのは王でありたい。私は目の前にいる、自分の助けられる者を助ける。私の守った者が自分の周りを守れば、民の全てを守ることができる。理想論だが、青いと言われるだろうが、私は皆を守りたいのだ」


 青臭いと言われても、理想論だと言われても、かまわない。これが俺の願いであり、アンリ先王の願いで、その前の王から託された念願なのだから。

「それを見た者が私の言葉を理解し、その者が自らの下にいる者を守れば、民の隅々までが守られるだろう。皆には不安や不満を抱えさせていることはすまなく思う。だが、今しばらくは我慢していただけないだろうか?」

 イディルスキー将軍やサラス将軍、ギーデウス将軍は納得、もしくは飲み込んでくれたようだった。しかし幾人かは納得しがたい顔をしていた。


 だから、俺は結果で示さなくてはいけない。俺に皆を守れるだけの力があることを、将軍達が外敵に気を配らずに済み安心して周囲を守れる環境を作れれば、この国はきっといい方向を向くはずだから。


-----


 二日後に俺は非干渉地帯の平地を駆けていた。馬よりも魔力強化で走った方が速く、馬の疲れやエサ、避難の心配もしなくていい。動きやすいいつもの白の軍服を身に纏っただけで手甲と脚甲は亜空間倉庫に入れたままだ。

 希にモンスターらしき影を遠くに見るが討伐する気もないし、そもそもこの地はどの国のものでもないので討伐しなくてもいい。


 推定された帝国軍の侵攻路が書かれた地図を片手に山や森などを目印に進んでいく。朝から走っているが順調で問題もない。

 そして帝国軍が陣を構えているだろうと予想される場所の手前の丘に近付くと身を隠して丘にある森の木に登り気配を消す。森から離れた平地、見晴らしのいい河の近くに陣はあった。

 この場所を予想したイディルスキー将軍の優秀さには舌を巻くしかない。


 緑のマントに透明化魔法をかけてみる。するとマントを持っていた手が消えて、そのまま背景が見える。腕や足などを隠してみると完全に姿を消すことができる事ができた。

「うん、これでいい」

 俺はそれで全身を覆うと帝国軍の陣に近付いていく。先ほど木の上から見えたのは大量の兵が隊列を組むためか、並び始めていた。おそらく侵攻準備が整ったのだろう。


 さぁ、御挨拶に参りましょうか。


-----


 平地を駆けていき、最低限の見張りだけがいる陣にスルスルと忍び込む。勇者君の声が聞こえてくる。士気をあげるための言葉だろうか?

「……国は魔王の企みにより不本意な脅迫による偽りの和平を結ばされた。だが、今日それは変わる!ここにいる烈士諸君と共に魔王を討ち、魔王国を従え、真の平和へと導こう!」


 俺がその場所に辿り着いたときには壇上から勇者君が兵達に言葉をかけていた。

「皆は俺を勇者と呼んでくれるが俺だけが勇者ではない!兵の皆々にも守りたいものがあるはずだ!それは人であり、民であり、国であろう。ならばここにある皆が帝国を救う勇敢なる者、勇者となる!俺と共に歴史に名を刻もう!悪辣なる魔王を討った勇者として、定刻を平和に導いた者として、皆の名を永遠なるものもしようではないか!」


 勇者君が挙げた拳に呼応して兵達も拳を挙げる。野太い声が上がり、並々ならない士気を感じる。だが、兵の質はどうだろうか?練度は?強度は?

 少し、試してやらないと……無意味な死者はどちらにも必要ないだろう。

 俺は足音を殺し壇上に上がって魔力を練ると勇者君の首回りにちょっとイタズラを考えた。

 そして風魔法により拡声させた声を周囲に響かせた。

「おやおや、ずいぶんと面白い表明だったな」


 俺の声に勇者君が反応する。水魔法で作った青白い腕が勇者の首に巻き付く。周りの者が気付けばかなりのホラーな状態だろう。

 リューが首回りの腕に気づき悲鳴を上げそうになりながらも我慢して白い腕を払う。そして剣を抜いた。

「な?どこだ!?姿を見せろ、魔王め!」

 どこか劇的な雰囲気に笑い出しそうになる。踊らさせる人形のようで、滑稽な姿だ。


 勇者君はその場でゆっくりと見回しながら、時に背後も振り返る。

 残念ながら俺がいるのは君の左真横だ。見えないというのは面白いね。

 そっと手を伸ばして剣を持つ手の方を掴むと共にマントを投げ捨てながら魔法を解く。突然現れるイリュージョン、驚愕を与えるには十分な演出だろう。

「遠いところ、ご苦労さん」

 俺はニヤリと笑い、勇者君のもう片方の手も捕らえた。


「き、さまぁぁぁぁぁ!!!!」

 怒声を上げて勇者リューは俺を睨み付ける。

「そおぉぉれっ!!」

 腕を振って壇上からリューを投げる。そして驚いている将兵に向かって、

「ようこそ、帝国軍の諸君。私は聖魔光王国国王、シュウイチだ。皆には魔王といった方が伝わりやすいか?今日は帝国軍の諸君がどの程度か、御挨拶に参った」

 両腕を広げて笑ってみせる。驚愕の表情を浮かべて動かない兵達、そして最前線に立つのが隊長格だろう。何人かは武器を構えて俺を殺す気になっているのをみせる。


「おっと、気が早い方達だ。挨拶と言っただろう?」

 魔力を練り上げてノータイムで障壁を作れるようにだけはしておく。

「私は別に誰かを殺すつもりできたわけではないのだぞ?」

 一人が視界の端から飛びかかってくるのが見えた。それなりに速い斬擊、強化している俺からすれば、子供がプラスチックバットを適当に振り回しているときの速度程度。


 障壁を張るまでもなく、魔力強化してある手の甲で剣の側面を押して軌道をずらす。

「やれやれ……私は殺しに来たのではない。帝国軍の兵がどの程度か調べに来ただけで、な」

 魔力を体内で高めていく。それを武術で培った気と混ぜ合わせていく。

「ちょっと、失礼」

 剣を振るっていた将の腕を適当に掴むと別の方向から俺に斬り掛かろうとしていた将目掛けて投げつける。


 そして魔力と気を混ぜ合わせたものを前方遙かまでいる将兵に向けて放つ。気当たりならぬ魔力当たり、とても言えばいいか?

 ある程度の実力がなければ耐えられない、殺意に近い気と膨大な魔力によるプレッシャー。

 当たった者から影響を受けていく。ある兵は気を失い倒れ、別の兵は膝をついて震え、他には嘔吐をしている者もいる。


 ……あれ?


 俺が放ったのはアンバーならギリギリ耐えられる程度、これは何人かの兵の協力の下、実験してある。

 しかし、だ。ほぼ全ての兵が倒れるか、使い物にならないほどの不調状態になっている。

「やり過ぎた、か?」

 残っているのは辛うじて立っている最前線の兵が数人と将らしきメンバーが十人ほど、そしてリュー。


 俺は思っていたほどでもないと理解して魔力当たりを止める。それでもすぐには立ち直れずに兵は蹲ったままになる。

「何をしたぁ!!」

 将の一人がふらついた足取りで向かってくる。槍を振るうが力も速度もない。はっきり言えば話にならない。

「ただの気当たりだが?この程度だと戦闘になれば兵は私に攻撃しても傷一つつけるどころか、近付くだけで動けなくなるだろう。今倒れている者は私と戦う資格がない者だ」


 鈍い攻撃を躱さずに体で受け止める。弱っていることを差し引いても衝撃からシルバー程度の実力と思えた。そして別方向からは鋭い攻撃が来る。こちらはまだ元気で目にも力があり殺す気満々で俺を狙う。

「だりゃぁ!!」

「なかなか、だな」

 剣の動きに合わせて体を揺らす。髪一重で躱しながら少しずつ退いていく。

 集団から十分に距離を取ると、

「それでは、後日は兵を連れてこずにしていただこうか?無益な殺しはするつもりがないのでな」

 俺はまだ攻撃してくる剣士ののど元に紙の筒を向けた。それを鎧の隙間に射し込んで一気に上に飛び跳ねる。

「では、楽しみにしておこう」

 俺は空中で風魔法を使役して体を浮かせると砦の方に引き上げた。

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