side by 勇者3
帝国を出て約十日、王国の国境まで一日の距離まで進軍してきた。順調に進んできた。
もう少しだ。もう少しであいつのところに辿りつく。この兵を見て、俺の全力を見て、驚けばいい。跪け、そして詫びさせてやる。
俺は遊牧民の住むゲルのような大きなテントの中で椅子に座っていた。
大きな丸テーブルを囲むように並べられた椅子のいくつかには神兵が座り、空席が埋まるのを待つ。
伝令兵が別動隊の二つが合流してきたことを伝えに来て、
「ああ、神兵をここに連れてきてくれ。揃ったら会議を始める」
口元がゆがむのが嫌でもわかる。喜悦か、加虐心か、それとも別のナニカか……。
-----
まもなくして神兵全員が揃い会議を始める。俺の両サイドにはクリスとリックもおり、主戦力は集まった。話すことは決まっている、魔王討伐について最終の打ち合わせだ。
「全員揃ったので始めようか」
改めて神兵達を見やる。俺に友好的な視線はなく皇帝の命できている、と目で語る者もいる。何より神兵達も仲間としては共闘できるが、仲がいいというわけではない。
神兵は一から十三まで実力と功績でランキングされている者で切磋琢磨どころかお互いを蹴落とそうとする立場にある。
どいつもこいつも躍起になって戦功を立てようとするし、別隊の手柄を取ろうとすることもある。功名心が高いのはいいが俺の計画を邪魔しないで欲しいところだ。
「で、勇者殿。どのような作戦で魔王を屠るつもりか?」
序列二位の男が尋ねてきた。本来は第一皇子警護だが皇子の一存で俺への協力が命じられている、らしい。実力は剣技だけならクリスにも匹敵するほどだ。
「元二位から聞いた話では勇者殿もねじ伏せられたと聞き及びましたが?」
俺を見下すような口ぶりで言い放つと俺の後に元二位、現五位に視線を移す。
元二位はあの交渉の場で魔王に斬り掛かる役を担ったが、カウンターで天井に弾かれた。その処罰として五位に降格されている。
「俺も勇者殿もあの場では全力を出せまい。全力を出せば練兵場はおろか砦すらなくなってもおかしくないはないだろう」
「ふん。どうだかな」
険悪な空気になるが今ここで揉められても正直めんどくさい。間を割って入るように、
「諍いはやめてもらおうか。まずは魔王討伐、これを済ませてからだ」
俺は広げてある地図に駒を置く。想定しているのは平地で正面から当たりながら囲んでいく。
おそらくだがあいつの反応だと砦か何かに立て籠もって少しずつやり合うとは思いにくい。それに自信過剰なのか、俺を格下に見ている。なら速攻強擊、初擊に八割を投じて二割は間隙を突く。その波状攻撃であればあっという間だろう。
「たしかに、あの時俺は仕留め損なった。だが今回は周りの被害も考えずに攻撃ができる。周囲をなぎ払おうが地を裂こうがかまわない。まず兵は遠距離魔法や矢にて攻撃をし続ける。そして二位、四位、五位、八位、九位、は接近戦を挑む。その間に十位、十二位は極大魔法を詠唱して同時に放つ。第二波として俺達が動く」
地図の中央に魔王を示す赤の駒を置いて、それを囲むように番号の振られた青い駒を並べる。
さらにその後ろに青の駒を並べていく。
「ヤツは自分で言った、体術使いだと。そうならば遠距離魔法には弱いはずだ。ヤツの体術は五位も見ただろう?」
俺の言葉に五位は頷く。俺が満足して周りを見やると神兵達も口元を笑わせている者がいた。
そうだ、やる気になれ。そして、トドメは俺が刺す。俺が本当の救国の勇者となって、俺は手に入れる。
-----
次の日の朝、全ての兵が集められて神兵を戦闘に各隊ごとに並んでいた。
実に壮観でこの兵達が俺の指揮で動き、魔王を討伐する。いくら魔王が強かろうとこの数には勝てまい。
俺は用意された壇上に立つと兵達の間を流れる空気が一層緊張する。
俺は拡声器の魔道具、どう見てもメガホンマイクのような物を手にして、
「とうとうこの日が来た、そう言ってもいいだろう。我ら帝国は魔王の企みにより不本意な脅迫による偽りの和平を結ばされた。だが、今日それは変わる!ここにいる烈士諸君と共に魔王を討ち、魔王国を従え、真の平和へと導こう!」
俺は一度言葉を止めて兵達の目を見る。どの目も勇者である俺を信じている、そして敬意を持っている。
「皆は俺を勇者と呼んでくれるが俺だけが勇者ではない!兵の皆々にも守りたいものがあるはずだ!それは人であり、民であり、国であろう。ならばここにある皆が帝国を救う勇敢なる者、勇者となる!俺と共に歴史に名を刻もう!悪辣なる魔王を討った勇者として、定刻を平和に導いた者として、皆の名を永遠なるものもしようではないか!」
俺が拳を挙げると兵達から大きな声が上がり、否が応でも士気は一気に上昇した。
だが、一部無反応の者がいる。俺の作戦を断った女、神兵四位とその部隊。昨夜の作戦会議にて第四位は俺にこう言った。
『私が派兵されたのはあなたのためではない。我が主が命のもの。ゆえに私はある程度の強力はするが命を賭すことはない。それは私のみならず我が隊の者も命の危険があれば退くように厳命されている。……姫君からの令諚もある』
結果、四位の隊は初擊には参加するもののその後は他の隊を補助する動きとなった。
ここで無理にでも命令すれば、例え討伐を成功させても姫の機嫌を損ねたくはないからな。
一点の不満を残しながらもほぼ全てに満足し、俺は壇上を降りようとした。
「おやおや、ずいぶんと面白い表明だったな」
不意に声、魔王の声が響く。俺の首筋に冷たいモノが走る。まるで後ろから覆い被さるように白い腕が俺の首に回されていた。
その手は、肘から先だけでこの世のものとは思えない生気のない青白い肌で、しかも魔王のものではない女の腕だった。
誤字脱字がありましたらご指摘の程お願いいたします
感想、評価、レビューお待ちしております
お気に入りいただけましたらブックマーク登録よろしくお願いいたします