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勇者襲来!

 俺は書類に目を通しながら箇条書きでメモを作っていく。

 五十年年以上前にアンリ先王の作った法がどのようなものか、また現状や先における過不足はないか。

 調べれば調べるほどアンリ先王のやってきたことの大きさがわかる。後を任せると言われたがやはり荷が重すぎる。


 軍法は俺のわかる限りでは完璧と思えるので手の加えるところはない。だが民法においては日本の法律を少し加えた方がよさそうな気もする。

 ちなみに俺が以前に受けた裁判で適用された刑法もアンリ先王の制定した方だ。科料から始まり罰金や禁固、蟄居、所領召し上げ、強制労働、隷属化、死罪まである。


 しかしなぜ女による強姦が死罪級の犯罪なのか、これについても調べてみた。調べるとすぐにわかり、答えは簡単であり難しいことであった。


 たとえば対立貴族にメイドを送り込み次期当主を強姦させて子供を身籠もれば強引に妻の座に収まることや子供を跡継ぎにねじ込むことができる。

 昔はこのようなことがかなり多くあったらしく、貴族同士の対立や自派閥の強化のために対立する貴族の次期当主を使用人などの女に襲わせる手段が跋扈していたこともあったそうだ。

 タチが悪いのは次期当主が女に襲われたとあっては貴族の名折れでなかなか訴える者はいないため抑止力程度にしかなってないらしい。


 それと子供のプレートは両親のプレートに大きく依存しており、ほぼ全ての子供は両親のプレートの間の者が産まれるらしい。

 例えば父親がシルバー、母親がレッドである場合、産まれる子供はシルバー、アンバー、レッドのいずれかである。極希に両親よりも上位のプレートの子供が産まれる事もあるそうだが、そこにも祖父母のプレートが関わっているそうだ。


 下位プレートの者が上位プレートの血筋を欲しがり、女が押し倒すという沙汰も少なくはないそうだ。

 子供が上位プレートであれば為政者から目をかけられるかもしれない、成り上がれるかもしれない、今の生活から抜け出せるかもしれない。そんな野心や貪欲な女性、貧層階層の女性が考えて起こしたのが女による強姦らしい。


 ちなみに人種も両親か両方の祖父母のいずれか、最大でも六種族のどれかしか産まれず、ハーフの種族という存在はいない。


 そしてこの世界ではなかなかに皆健康的で介護の需要は少ないものの、もしかしたら必要があるかもしれない。医療については、怪我は魔法で治療できるが病気や欠損、疲労は回復できない。

 そもそも感染症の原因がウィルスであるという概念がなく感染症対策に街の清掃を取り組んだときには貴族や将軍、代官らへの説明に多大な時間を使った。


 だがディグリート将軍の母親のように身体の欠損がある者に対する福祉法的なものがあればよりよいだろうか?戦争もあったし、モンスター討伐もある。

 不随や四肢の欠損に対して軍では一時金があるものの、その後の生活保障や一般人のそういった傷病に対しての支援はない。

 その辺りの法を整備して、義肢義足の技術も考えなくてはいけない。問題は俺にその技術も知識もない。


 俺が頭を抱えて悩み出したときにけたたましくノックがされる。俺が返事をして入室を促すと兵が一人飛び込んできた。

「へ、陛下、緊急事態です!前線のサラス将軍より通信が入りました!帝国側より侵攻!その数およそ八千です!」

 腕章を見ると通信水晶を管理する通信室の伝令兵だった。

「ふむ。行こうか」

 俺は書類をその場に置いたまま、グレナルドにはここで待機させておく。そしてミックやレイラへの伝言を頼んでおいた。


-----


 通信室に着くとサラス将軍の砦とつながっている水晶の前に座る。

「将軍、私だ」

『陛下。帝国側より侵攻です。おそらく陛下の出された条件だと言い切るつもりかと。我が軍勢で迎え撃ちましょうか?』

 水晶に映るサラス将軍は非常に落ち着いているが闘志は見て取れる。

「いや、私がそちらに行く。私が迎え撃とう」


 俺は一度自室に戻り、フリーウェイドアを亜空間倉庫に入れるとサラス将軍の砦の前を思い出す。

 明確な場所をイメージして転移魔法を発動する。両手を揃えて前に出すと上下に開く。空間に薄い光を放つ筋が入る。そしてそれを中心から左右に開くとフリーウェイドアを開いたときと同じような白い渦の空間が広がる。

 俺はそこを通り抜けていく。辿り着き場所はわかっている。砦の外門の側だ。


 俺が光の中を抜けると予定通りサラス将軍の砦の外門側につく。突如現れた俺に驚きながらも警戒態勢になった番兵四人が俺を見つめて、

「誰だ!?へ、へ、陛下?」

「な、突然どこから?」

「中に報告を!」

 わたわたと慌てだした。

 あ、うん、なんか、ごめん……。


-----


 俺がサラス将軍に会えたのは外門から入ってすぐの場所。番兵が凄い警戒と共に入れてくれたのだが、理由は急に現れた俺が本物なのかわからなかったのかもしれない。

「将軍、転移魔法で飛んできましたよ」

「陛下、転移魔法……ですか……」

 ややビックリしているのか、呆然としたように呟く。それから、

「では、こちらに」

 サラス将軍に案内されて砦の外壁の上に来た。


 土の大地や草原、遠目に山などがよく見えて眺めがいい。

 サラス将軍は外壁の凸凹、鋸壁の一つに取り出した地図を広げると俺に説明を始めた。

「ここが砦になり、あの山が地図のここになります。斥候隊の情報ですとこちらと……こちらに」

 砦から数個離れた山の中腹とそれと別の高原地、草原地帯に赤い木の駒を置く。敵勢力を示す駒で数と大きさで大凡の兵数がわかる。


「ふむ、2500から3000の兵が三隊か。まぁ……よくも集めたもんだ。各将に私から話をして私が対応しよう。サラス将軍も通信用水晶の方に向かってください」

 俺は転移魔法で王城の通信室に飛んだ。


-----


 俺が通信用水晶を使って十六将を招集すると十五分ほどで全員が集まった。顔ぶれはグレナルドが抜けて新しくキトウェイ将軍が入っただけだ。

「諸将の皆、急に呼び出してすまない。帝国の勇者について話がある。……和平時の条件について、ディグリート将軍から皆は聞いているな?」

『陛下、私も聞いていますが納得いきません』

 俺の言葉に素早く反応して水晶の向こうから不満だと声だけでなく態度でも示している者がいる。

 フェイメル将軍、軍内でも好戦的な人物で裏では酒吞み戦バカと揶揄されることもある、主に穏健派に。


「……どこが不満なのか、言ってください」

『そりゃ……』

 どうも昼間から酒を吞んでいるのか、赤い顔がアップになり、

『陛下一人で戦うことに、ですよ!私だって暴れたい、ぶっ殺したいのですよ!』

 あ、うん、酒吞み戦バカだ。

「暴れたいなら領内のモンスターを狩ってくれ。どこにもめいわくはかからん。むしろ功績としよう」


 フェイメル将軍を横目に口を出したのは

「陛下、わたくしも納得しがたいことです」

 ヴィーキルズ将軍は黒く長い爪をカチカチと何度も合わせながら俺の方を見ている。

「陛下の剣であり盾である我々を共にしていただけない、それは陛下が我々を信じておられないからでは?」


 あぁ、そうとられるのか。俺は言葉が足りないばかりか、考えも足りない。将軍達は戦うことが本分、それを取り上げて俺一人が戦うとなれば不審を持つのも仕方ない。

「私の思慮不足で将軍達に不安をいだかせてしまったのか……。私が戦う理由をちゃんと説明しなければ、な……」

 俺は自身の戦う理由、それを彼らの前で口にする。それは正しいのか、それとも間違えているのか、自分の中でも確信のない答え。

 ただ本音であることだけは俺の中では信じていた。

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