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合格者

 俺が待っているとウィーリスの連れてきた者はずいぶんとやんちゃっぽいというか、うん、不良だな。髪が赤青の二色であれが天然なら驚きだ。

 逃亡防止なのか首根っこをウィーリスが掴み、ほぼ無理矢理引きずるように連れてきた。頼んだのは間違いかもしれない。


 グレナルドが小走りに俺の側まで来て、

「あの者はヴィシャル・ラガハート・ランバッハで南部第五領の第六子だそうです。学長の話では実技はともかく座学の方がかなりひどいそうです」

 グレナルドの言葉に俺は頷きながらランバッハ家のデータを思い起こす。


 たしか現当主に三人の妻、八人の息子娘に息子の嫁と娘にも婿がいて、前当主妻は健在だったか。

 長男から三男、長女と次女は成人しており、長男を除いて領の軍部や内務に務めて優秀さをみせている。長男も父親に随行し統治にて手腕を振るっている。

 それの弟がこの不良もどき……。いや、上が優秀すぎるから反動か?


 俺の前に連れてこられて、

「この者が実技1位ではありますが……」

「なんだよ……連れてこられて何しろって……」

 ウィーリスは俺の方に向いているがランバッハはこちらを向かず小さい声で愚痴をこぼす。

 そしてランバッハは狼耳を曲げて尻尾をブラブラさせて、いかにもつまらないと体現する。


「えーと、少年、名前と年齢、プレート、あと座学と実技の順位を言って私と手合わせしてもらう。合格基準を超えていればグレナルドの指揮する部隊に所属してもらい、手腕を振るってもらいたい」

 俺がざっと説明すると胡散臭そうに俺を見てきた。

「……要はアンタと勝負すればいいって事か?」

 退屈そうな顔から一転して獰猛そうに笑う。口元から犬歯が見えて凶暴性を見せた。


「ああ。私をねじ伏せて見せてくれ」

「……ヴィシャル・ラガハート・ランバッハ、16、ゴールドプレートで座学83位、実技1位だ!」

 言うやいなや飛びかかってくる。アッパー気味だが握っておらず、爪でひっかくように顎を狙ってきた。


 それが躱されるとわかったのか、急に動きを変えてミドルキック、俺が肘で防御をしようとすると蹴りの最中で膝を曲げてミドルではなくローキックに変化する。

 空手で言う飛燕脚。本来は高い技術が必要なこの技を難なく放つ身体能力は素晴らしい。

 それを蹴り上げるようにして弾く。脛に当てたはずだがダメージはなさそうだ。


「ちっ!」

 乱暴に舌打ちをして拳を握ると拳打で勝負を挑んできた。こちらはそれを主に手の甲で受け流すが時折、目や喉、心臓など正中線に対する鋭い攻撃が混じっていて油断ならない。

 おまけに拳打だけだと思っていたが掌打や側面で擦るような攻撃もある。


「おもしれぇ!」

 ランバッハの眼が爛々と輝く。俺にまだ一発も当たっていない、彼からすれば自分が当てられない相手がいることに喜んでいる。

 攻撃の速度が上がる。俺としても久しぶりに自由組み手をしているような感覚となって気持ちが高ぶる。


「うん、いいね」

 俺からも手を出す。ランバッハはガードに肘や膝を使う。かなり実戦的で攻撃的な防御だ。受けた流れで攻撃に移ってくる。

 おまけに変な姿勢からでも攻撃してくるし、たまに土を顔に投げつけて目潰しまでやってくる。


「アンタ、やるねぇ」

 ランバッハは歓喜の笑みを浮かべる。そしてその両腕と両足に光が集まる。脚は見えないが腕にははっきりと光でできた文様が作られる。

 踏み込む速度が上がり体の動きが変わる。左で殴ってくるかと思えば途中で体を倒して右で俺の脇腹を狙う。肘打ちを止めればそのまま裏拳になる。

 型なんかない、無形の動き。

 正統な武術では対応しにくい。地を這うような足払いから跳ね上がりながら縦の蹴り横回し蹴りとつないでくる。まるで格ゲーのキャラが画面から飛び出してきたような動きを見せる。


「ずいぶんと路地裏喧嘩(あちら側)に慣れているようだな。私も少し変えるか」

 軽く息を吸い、心を静め、いや沈める。深く、黒く、屠る。


 体は左半身にして重心はやや後ろに腰を落とす。右腕は肩の高さに少し伸ばして拳を握り少しだけ下げる。左腕は肘までは体に添わせて腰の高さから手のひらを上に開く。

 真横から見れば右手と左手が獣の牙に見える、閃武流虎顎の構え。


 右膝を曲げて踵で水平に跳ねる。まずは下から、左の手刀で切り上げる。同時に引いた右手は鎖骨辺りを狙い振り下ろす。

 ランバッハは両腕を盾にして少し後ろに飛んで最初の一撃に耐えて、振り下ろされた拳にはまさかの蹴りを合わせてきた。


 腰から上を旋回させて力を受け流す。そのついでに左手でランバッハの足を掴みにかかる。

 足首を掴むとそのままハンマー投げのように振り回して背中から地面に叩き付ける。そして土埃の中トドメを刺したと示すために右手を振り下ろして寸止めした。


 が俺の右手が寸止めしたか向こうが早かったか、俺の眼前にランバッハの左足があった。

「ふむ……予想以上だ」

 俺はランバッハの足を離す身体強化などを解いてランバッハに背中を見せた。


 グレナルドが駆け寄ってきて周りに聞こえないような声で、

「陛下、大丈夫ですか?いくら学生とは言え加減してある陛下に怪我を負わす程度の力はあるかと心配でしたが……」

「ああ、驚いた。加減したとは言え私に一撃入れる者がいるとは思わなかったぞ?」


 皆の前で目元を隠していた面が割れて落ちる。学生の中にも貴族や軍臣の子はいる。俺の顔を見て驚愕の声が上がる。

「へ、陛下じゃない?」

「そ、そうなの?」

「似た人じゃないのか?」

「いくらなんでも陛下が学校なんかに来るかよ……」

「しかも俺たちと戦うなんて……」

 さすがにザワサワし始める。


 俺はランバッハが立ちあがるのを見てから皆に聞こえるように通る声で、

「はははっ、いかにも。私は王のシュウイチ・イマガワだ。次代を担うにふさわしい若い力を見極めに来たが十分な収穫があった。まず合格者は一人、ナターシャ・ハイゼランス」

 学生達の目がハイゼランスに向けられてハイゼランスは俺の方を向いてゆっくりと自身を指さす。俺は大きく頷いて、

「ハイゼランスは希望するなら卒業後にグレナルド麾下の兵として私の直属部隊に召し抱えたいがどうする?」

「……はっ!ナターシャ・ハイゼランス、忠義と刃を持って陛下にお仕えします!」

 ハイゼランスは右手を心臓に当てて頭を下げる、軍式の敬礼をする。少し震えているのはどんな理由だろうか?


「よい、私の前であるが崩してよい」

 すると女子生徒を中心にハイゼランスを囲み、肩をバンバン叩いたり胸を小突いたりしながら祝福の言葉をかけている。

 友人のことを無邪気に喜ぶ輪から少し離れた別の輪では何人かは項垂れていた。

「あぁ、言い忘れていた。実力を見せてもらった者の中にも磨けば光る者がいた。その者らは軍部や貴族達に名を教えておこう」


 俺の言葉に生徒達は自身や友を指さし笑い合う。そうしている方がいい。実際に優秀な者は軍に引き込もう。

「そのままでかまわんが聞いておけ。諸君らはこの国の次代を担う者として優れた者たちだ。王軍、私軍どちらに入ろうとも結果を残せるだけの才はある。数年後、諸君らの名が将軍格や隊長格として私の耳まで届くことを期待している。最後になるが一名、補欠合格とする」


 静かに聞いていた学生達がピクッと反応した。俺は全体を見てから、

「……卒業ができれば登城してきてもらうか。……ヴィシャル・ラガハート・ランバッハ!頭が悪すぎる者は使えん!だがお前には光るものがある!今より強くなりたければ卒業後に私の元に来るがいい。以上だ!」

 俺は最後にランバッハを見る。先ほどまで殴りかかっていた相手が王であることには驚いただろうが、補欠合格を言い渡されたランバッハの顔はあまりにも間抜けで少しながら失笑してしてしまった。

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