候補生探し
グレナルドが手続きをして武術学校のスカウト兼視察の日取りが決まった。
そして十日後。王都の外壁のすぐ外にある王立武術学校に来ていた。広大な敷地と複数ある特大の校舎。
馬車の横を通りかかる軍服に似た学生服の少年少女達は下は十歳ほどから上は俺と同じ年頃までと幅は広めだ。
左右に常緑樹のある石畳の道を橋は進み校舎の一つの側につけられた。
俺は黒の軍服に袖を通して、一応目元を隠すだけの面をつけてグレナルドの半歩後ろを歩く。グレナルドは勝手知ったると言わんばかりに迷わず歩く。ただし後ろの俺に気遣って様子を見ながらの歩調ではあるが。
そして学長室と書かれた部屋の前まで来るとノックをした。返事があってからグレナルドは扉を開けて俺を中への誘った。
中は落ち着きのある部屋で一見質素に見えるが上質な造りと飾りで意匠を凝らしてある。俺好みでこういう部屋も悪くないと思う。
中にいた事務員らしき女性が俺とグレナルドを案内して奥のソファーに通す。そこには白銀髪の初老のエルフと豹の獣人らしき女性が立っていた。
「陛下、こちらまで御足労いただき誠に恐縮でございます。学長のイアン・ソルベェグと申します」
「グレナルドの元担任をしておりました、ミシェル・ウィリースと申します」
やや年嵩、五十代と思われるエルフの学長と気の強そうな三十代後半と思わしき女性。俺とグレナルドに座るように勧めてくれて俺達が座ってから二人も座る。
「今日、こちらに寄せてもらったのは事前にグレナルドからお伝えしているかと思いますが私の護衛を探しておりましてグレナルドに伝手を頼んだところこちらを紹介されたので。本日はよろしくお願いします」
俺が頼むように頭を下げると慌てて学長らが、
「陛下、私達共に頭を下げられては威厳にかかわります。学生らが陛下のご期待に添えるか不安はございますがご覧ください」
それから学長の案内で第一訓練場と書かれた塀に囲まれた場所に案内された。そこには学生服ではなく軽重様々な装備をした二十人から三十人程度の学生が集められていた。
土のグラウンドで一糸乱れず五列縦隊で足を肩幅に開き、後ろ腰に手を組んでいる。その足元には使うつもりであろう武器もある。
学長の説明によるとこの武術学校は三カ月ごとに入学と卒業の試験がある。在学中も試験があり、そのすべてに合格すると卒業となる。
入学から卒業は並の者で四年から五年、入学が八歳くらいの者や能力やスキルが遅咲きの者で六年から八年。
段階的なカリキュラムもあるそうで最速でも二年はかかり、過去最高記録は二年と三ヶ月だそうだ。
「三年より早く卒業する者には『完全なる者』の証を授けております」
「ダル・ウェレン?」
「はっ。アンリ先王のおられた国の言葉で『完全なる者』という意味だそうです。グレナルドも二年と九ヶ月で卒業し『完全なる者』の証を持っております」
俺とウィリースがそう話している間にグレナルドが生徒達の前に立つ。そして普段の様子とは違って毅然とした声を出し始めた。
「後輩諸君、私は元十六将が一人ロザリア・グレナルドだ。近頃に陛下より新しい部隊の長として起用された。そして今日はその部隊の兵となる者の候補を探しに来た。ここにいる者は今期卒業を見込まれた者の中でも屈指の武を持つ者と聞いている。栄光ある兵となりたいと思う者は手を挙げて応えよ!」
グレナルドの言葉が終わるとザッザッと土を蹴る音がして皆脚を揃えて左手を腰に、右手を一度心臓に当ててからまっすぐに挙げた。
「よろしい、戻せ」
また一糸乱れることのない動きで最初の姿勢に戻った。それを見たグレナルドが一度俺の方に視線を送る。
俺はグレナルドの半歩後ろに行く。
「では、試験の内容を言う。今より順番にこの男と全力で戦ってもらう。戦闘形態の使用も許可する。万が一、この者を殺してしまっても罪には問わない。合否の基準は言わない。質問がある者はいるか?」
誰も手を挙げず学生の視線は俺に向かう。
「ないな。では名前を呼ばれた者は前に出て氏名、年齢、プレート、座学と実技の順位を言ってから戦闘を始めること。以上だ」
グレナルドが俺を残して離れていく。そして十分に距離をとると、
「ではまず、ダナト・サンドリア!」
一人目が呼ばれて試験が始まった。
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