side by 勇者2
俺はとうとう約束を取り付けた。
帝国の最強の騎士『十三の神兵』が率いる神兵隊のうち半数を超える七つの隊を借り受けることに成功した。
一の隊、三の隊は帝都にて陛下の守護、六と七の隊は帝都城下と帝都周囲に配置されていて俺には同行されない。
そして十一と十三は戦いには参加しないものの支援部隊として前線の砦に待機される予定となった。
俺がトライメタル、クリスとリックがゴールド。ついてくる神兵も三人がゴールド、四人がシルバーで戦力として十分だ。あぁ、ティアもいたがあいつは回復と補助だな。
それに総勢7500の兵、こいつらは大半がイエローかブルーだが部隊長の中にはレッドやアンバーもいる。集団詠唱をさせれば盾ぐらいなら作れるはずだ。
あいつは言った。
「勇者君には私を殺しに来てもらいましょう。あぁ、仲間は何人でもかまいませんよ?極端に言えば五千でも一万でも」
一万には届かなかったが手練れが十人と7500の兵。あのあいつが言ったように押しつぶしてやる。
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皇帝との謁見の間で俺は片膝をついていた。謁見の間では皇帝が来るまでは皆が片膝をつき、武器は離した位置に置くこと、そして皇帝の声がかかるまでは顔を伏してなくてはならない。
皇帝は常に尊大で横柄だ。かなり独裁的な国柄で皇帝は、皇軍総統、政務総統でもあり国の全権を一人で持っている。
太子の第一皇子は父親譲りの気質があり、軍準最高権威の皇軍総統補佐の地位にある。皇帝に伺い立てなくてはならないとは言え、実質的に軍を動かしているのはこの男だ。
足音がして椅子に座る音がしてから皇帝はしばらく何も言わない。この待たされる時間というのは皇帝の裁量であり、いつまで待たされるかは皇帝の気分一つらしい。
「勇者リュー、面を上げよ」
数分後になってようやく顔を上げることが許された俺は内心の苛立ちを隠して、
「本日は陛下にお目通りさせていただき誠にありがとうございます」
俺は作り笑顔で皇帝の機嫌伺いから入り、
「して、何用か?」
「はっ。本日は出立のご報告に参りました。先日陛下の御配慮にてお預かりしました神兵とその部隊を率い、聖魔光王国魔王討伐に赴く次第でございます」
「ふむ……。我が国の誇る神兵まで連れていくのだ、失態は許されんぞ?」
「必ずや戦果のご報告をできるかと存じ上げます」
皇帝も俺も口元をゆがめる。
皇帝は俺への圧力をかけるように、俺は自身の勝利の確信が近いことに。
「一つ、願いがございます」
「なんだ?」
俺は最近会えていない人を思い口にする。
「セレシア様にお礼を申したげるため、お目にかかりとうございます」
「セレシアに礼?」
「はっ。本来神兵第四隊はセレシア様の護衛。しかしながら向かう討伐に第四隊をお貸しいただき、そのお礼を……」
俺はここで深く頭を下げて頼むような口調にする。
しばしの沈黙の後に、
「……よかろう。中庭か部屋におろう」
「ありがとうございます」
こうして俺は姫に会う口実も作り、皇帝との謁見を終えると早速に姫を探しに城内を足早に歩き始めた。
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皇帝の言った中庭というのは花が好きな姫のためだけに作られた専用の箱庭だ。場所は城にある塔の一つの屋上階で天井はガラスのような透明な板でできていて空が見えている。
広さはたぶんテニスコート四面ほど、四季折々の珍しい花を東西から揃えてさらに中央には噴水やちょっとした家まである。
ここに入れるのは王族とその付き人、花の世話人のみ。付き人や花の世話人は女性のみで、あとは皇帝の許可がない限りは入ることは許されていない。
今日はその噴水横の椅子に腰掛けて幸せそうに微笑んで花を愛でていた。
俺と同じ十六らしいのだがその雰囲気は大人びていて、翡翠色の長くきれいな髪、金色の瞳、薄水色の豪奢なドレス。
肩や鎖骨周りは白磁のような白い肌が見えて日本人ではなかなかいそうにない美乳の谷間がある。顔付きもハーフっぽい顔つきでコンテストに出ればトップクラスだろう。
そもそもこの世界の標準的な顔つきが西洋東洋のハーフのような顔つきが多い。
俺が近付いていくと傍に立っていた騎士の方が先にこちらをチラリと見る。俺だとわかり姫の肩に軽く触れて俺が来たことを伝える。
俺は姫に笑いかけながら、
「お久しぶりです。近頃は忙しく姫様のお顔を見に来ることも叶わず、申し訳ありません」
椅子に座る姫の前に跪き胸に手を当てて見上げる。
姫の表情が消える。先ほどまで花を愛でていたときには微笑んでいたというのに、
「……そう」
姫は俺を一瞥しただけで興味なさそうに視線を移して庭の花々を見ている。
「姫様、本日の夕刻より魔王討伐軍が出立いたします。この度は姫様直属護衛であるはずの神兵第四隊までお貸しいただき誠にありがとうございます」
俺は恭しく姫に頭を下げた言葉を待つ。
「……別に……あなたのためじゃないから」
俺に視線を向けることなく、そしてビスクドールのように表情を変えることのない姫は呟くように言う。
この姫のツンの壁を越えてデレにする方法は俺が英雄になればいい。姫が自分から求めるような、英雄に、勇者に、生ける伝説になればいい。
俺は姫を見上げたままわざと時間を空けて、
「俺はこの国のために戦っているわけじゃない。……いや、最初は勇者になるために、ふさわしくなるためだった。でも、今は違う」
静かに深く息を吸う。姫の視線がこちらに向くのを待つ。そして、
「あなたのために戦っています。勇者なんてどうでもいい。あなたがこの国を守れと言えば命をかけてでも……」
俺がそう言っている最中に姫は俺の後ろに視線を送り表情が変わる。明るい笑顔になり椅子から立ちあがると俺の横を通り過ぎていく。
「ファニール、今日は大丈夫なの?」
そこにいたのは第二皇子のファニール皇子だった。姫より二、三ほど下でまだ未成年だ。そこを差し引いても父親や兄とは違って線がやや細く、武人には向かない。そのうえ、二年ほど前に倒れて以降たまに発作を起こしては錯乱するらしい。
「ええ。今日は体調もよくて」
整った顔立ちの優男の笑顔。学校などに行けば身分が皇子でなくてもモテるだろう。
そして姫の笑顔はこの第二皇子に向けられている。俺は眼中にすら置かれずにいる。
「……それでは、俺は失礼します」
会釈だけして中庭を去る。
いずれ、だ。いずれあの笑顔が、姫を俺の手中に入れてみせる。
身も心も、いつか。
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