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迎撃準備

 俺は執務を終えて城内にある魔道具の研究施設に来ていた。

 まぁ研究施設といってもよくわからない金属や石材、木材に液体、ほかにもモンスターの素材などが所狭しと並べられている中で、白衣を着た者達が加熱や錬成、組み立てなどの加工や作業をしている部屋だ。


「これは、陛下!」

 施設長がめざとく俺を見つけると開いた右手を左胸に当てて会釈をし、研究員達も倣う。

「手元は止めなくていい。施設長、私が頼んだ素材はどれだ?」

 俺はある素材を頼んでいて今朝方にその材料が揃ったとの連絡を受けて、執務を終わらせてきているわけだ。

「はっ。こちらになります」


 施設長が少し離れた机にかけられている布を取り去った。

 そこに並んでいたのは白濁したような水晶が複数と魔力の感知に優れ高魔力負荷にも耐えられる木材。

 木材は頼んでいた大きさに加工済みで俺はてにとって確認していく。


「これが枠で……うん……施設長、この水晶は書き込みができるのか?」

「はい。ですが魔水晶の再利用は前々から考案されていたのですが書き込みには膨大な魔力を使い、さらに書き込める魔法は一種類なので効率が悪いとされ研究は止まっております」


 俺は施設長の言葉を聞きながら濁った水晶、魔水晶を手に持って角度を変えながら見る。

 ……あぁ、切裂骸骨王を倒したときに出てきたものに似ているな。


 俺は早速魔力を集めて、ある魔法の術式を書き込んでいく。

 水晶の濁りが急激に消えていき、薄緑色に染まっていく。淡く優しい光を中央から放つ水晶が出来上がり俺はひとまず魔力の流動を止めた。


「さ、さすが陛下で、ございます」

 今の現象に施設長も研究員達も目を丸くしながら俺の手元の水晶に視線を注ぐ。

「あとは……組み立てか。部屋でやるとするか……」

 俺は材料に手を伸ばすとドアほどの板と長めの棒を抱えて私室へと向かった。途中所々で城内の者に見られて俺がまた何かやろうとしているのが盛大にバレていた。


-----


 俺は材料を組み立てていくと出来上がったのは一対の脚付きドア。

 そして水晶に別の魔力、形状を変化させる魔法を込める。すると球体だった水晶が飴細工のように伸び始める。それを四つに千切るとドア本体の縁と枠の内側に貼り付けていく。

 水晶を薄く伸ばして二つのドアに貼り付け終えると俺は二つのドアを左右の壁際に置いた。そして片方を開ける。


 するともう一つも開いた。そして開いた空間には白い渦が巻いていて多色の光の粒が吸い込まれていく。

 俺はそこに手を突っ込む。そして反対側のドアを見る。そこからは俺の手が出ている。

「よし、完成だ!」

 俺が喜びの声を上げているところに、

「失礼します。陛下、まずは王都の孤児の数の把握ができましたので……ご報……こ、く……。えええええっ!!!!」


 ミックの叫び声に廊下にいたグレナルドも飛び込んでくる。

「陛下、何かありましたか!?」

 グレナルドは部屋を見渡してミックと同じものを見て、

「えええええっ!!??」

 同じ反応をされた。


 数分後。

「えっと、だな。試しにできるかと転移魔法をやってみたらできたのだ。それでだな、それを魔道具にしたのだ。名づけて『フリーウェイドア』だ」

 どこでも、にすると何かがまずいので別名にしたが機能はほぼ一緒。違いは使用者の魔力が必要なことと使用者の行ったことがある場所でないと転移ができない。

 転移魔法には行き先の正確な座標が必要で失敗すると魔力を消費するだけに終わる。これがあれば座標を指定しなくても対のドアに出られて、魔力の消費も少ない。


「……て、転移魔法なんて見たことありませんよ……それを魔道具にするだなんて……」

「へ、陛下は……天才なのですね」

 ミックは汗をダラダラ流してグレナルドは驚嘆の声を漏らす。

「あー、俺がいた世界の物語に出てくる道具をモデルにしただけだ。不干渉地帯の最前線に砦と街を作っておいて勇者を迎え撃つ。見張りから連絡が入ればすぐに王都から向こうに行けるからな」

 俺はドアをコンコンとノックしてニヤリと笑う。


「ああ、そうだ。グレナルド、君からの推挙の候補は王都の武術学校にいるのだったな。ほかにも有能な者がいないか見たいから近くにでも直接行こう。手続きを頼めるか?ミックの報告書は写しをカルトバウスとレイラに渡しておいてくれ」


 俺は二人に指示を出す。グレナルドは元気のよい返事と共に頷き敬礼をして部屋を出て行ったが、

「陛下、そうおっしゃるだろうと思ってすでに渡してあります」

「ミックは仕事が早いな」

「陛下ほどでも」

 お互いに笑い合う。最近、ミックは素の表情や性格を見せることも多くなり、俺も公私両方の顔を見せている。


 俺はドアを壁に立てかけるとソファーに座り机の鈴を鳴らす。これも魔道具で片方を慣らすと対の鈴もなる。

 これを鳴らすとアゼリアかイゾルデが来てくれるのだ。

「一休みしたい。ミック、話につき合ってくれ」

「はっ。御存意に」

 ミックは俺が指した向かいのソファーに座った。


 そこにアゼリアが来てお茶と菓子を頼んだ。

「ミック、夫婦仲はどうだ?やや、強引に結婚させてしまったがあの……シェーラさん、だったか。うまくいってるのか?」

 俺は時間があれば聞いておこうと思っていた話を切り出した。ミックは大層嬉しそうな顔をして、

「はっ。陛下に心配させてしまい申し訳ありません。ですが何も問題ありません」


 俺はミックの顔に少し不満がある。俺は陛下と右ではなく対等な友人になりたいと思っていた。

「ミック、今は仕事の顔をして欲しくない。私ではなく、俺はミックを友人だと思っている。この世界で歳が近く、共にいる時間も長い。俺はミックの友にはなれないのか?」

 思いを口にする。王は孤高で孤独だ。対等の者がおらず、妻であるレイラですらほとんどの時間をどこか一歩引いたところがある。


 要は、寂しいだけなんだがな。


「陛下、僕に友となれ、と言うことですか?」

「ああ。人に聞かれてはまずいこともあるから最低限の線だけ引いて、陛下でいるときは私、友としているときは俺、そう呼び分けてるから俺の時は友になって欲しい」

 そう言うとミックは少し思案顔になる。まぁ王と対等な友になれと言われて易々な返事はできない。

 易々と返事されても困るが。


「……では、陛下が私と呼ぶときは臣として、俺と呼ぶときは友として、お付き合いさせていただきます」

 深々と頭を下げた。俺は手を差し出して、

「対等な友とはこうだろう?」

 頭を上げたミックの手を取って少し強めの握手をした。


 手を離したところにアゼリアが戻ってきて紅茶とクッキーが出される。

「アゼリア、ありがとう」

 アゼリアは少し口元を緩めて会釈するとワゴン横に立っていつでもおかわりなどの対応ができるように控えた。

「で、生活はどうなんだ?」

「あー、えーと、ですね」

 なんだが先ほどとは違いミックは頬を指先で掻いてから、

「楽しくて仕方ありません。家に帰れば待っていてくれますし、毎日お弁当まで用意してくれて。料理が好きだそうでメイドにさせず僕と彼女の食事は彼女の手作りなんですよ」


 ミックは少し照れて口元を緩める。なかなか見たことのない表情に俺も笑みがこぼれる。

「ミックは……グランドルイドだったな。ハイエルフとの風習の違いでシェーラさんも困ってないのか?」

「ええ。エルフとドルイドは近しい風習で魔素信仰は同じです。ただ……」


 そこで少しミックの顔が陰りを見せた。眉が少し下がり、イケメン度が下がる。

「母がいい顔をしてなくて……」

 嫁姑問題があるのか、そう俺が口を開こうとしたがミックは、

「……元内政査察警司官なのでどうしても他国の者には厳しい眼です。諜報官か僕の身柄を向こうに攫うんじゃないか、警戒しています」


 どこの世界でも嫁姑問題があるのかと思ったが、予想の斜め上の問題だった。

 内政査察警司官は為政の不正がないか、内務官の中に他国の諜報官がいないか、秘密裏に調べる組織の一員だ。普段はただの内務官として動いているため、誰が査察警司官なのかは長官と内務大臣、王の三人しか知らない。

 

「それは……予想外だな……」

「ええ。ですがシェーラは僕の仕事の内容は知っていても詳細は聞いてこないし、調べもしないのでたぶんそう言った心配はないかと」

 そこまで言ってミックは表情を戻す。

「で、向こうの両親とはどうだ?新年には俺の名代で行ってもらったが」


 ミックは苦笑いを浮かべると、

「僕が右だと知ってご両親には喜んでいただけたのですが……お義兄さん達に囲まれちゃいまして」

 うんうん、と俺が頷いて続きを待つ。

「その……倒してしまいました……」

「はっ?」

 俺は開いた口がふさがらなかった。


 ミックは公国での新年会の様子を交えながら事の顛末を離してくれた。

 向こうでは挨拶から食事会、社交ダンスまであったそうで次はうちでも取り入れるかと思う。

 そして兄弟五人の中で一人だけの女の子だったため、義兄も義弟もシスコンで「俺を倒せないようなヤツに妹(姉)は任せられない!」のくだりがあり、文武両道なミックは加減した上で叩きのめしたそうだ。

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