たまには街を歩こう
俺が執務室で決済印を捺しながら待っていると呼び出した者が集まってくる。
俺が部屋に戻ったときにすでにいたアゼリアとレイラ、俺の後にすぐに入ってきたイゾルデ。
それから書類の束を抱えて来たミック。そしてカルトバウスに拘束の解かれていないヤルナ。
ヤルナの姿を見た途端、アゼリアの気配が殺意を帯びる。しかし俺に見とがめられて殺意を殺す。
「さて、そこのが例のヤルナだ。本来は三族極刑のところだが奴隷処置から奴隷権と全ての保障を取り上げた、ただの生きているだけ物のだ。扱いとしては人ではなく物で私が生殺与奪も握っている。それゆえ、皆はこれで遊ばないでもらいたい」
この言葉はアゼリアやイゾルデに対して発しているもので、レイラは腹に据えかねるとは言っていたが俺が無事であることと俺の無責任な単独行動を諫めるのが先だった。
「それの仕事は私の盾だ。私に武器が向けられたときに、牙が向けられたときに命を捨てて、自動的に動く盾として使う。死しても捨て置く。以上だ」
ヤルナに視線を向けると絶望的な表情を浮かべて震えている。そして拘束の鎖が解かれたのだがそのまま膝から崩れ落ちた。
「アゼリアとイゾルデは私に隠れてあれを蹴ったり殴ったりせんように、な?」
やる気だったのか目をそらした二人に俺は嘆息をついてから、
「ヤルナ、そこは邪魔だから隅にいろ。……と、これかな?」
俺は書類を出してソファーの方に移動して書類を拡げる。そしてミックとレイラ、カルトバウスもソファーに座り書類を見る。
「孤児育成機関の制作だ。王都のみならず直轄都市、領都、各砦にも孤児はかなりいる。その者らは親がなくスラムや裏路地で生きている。だがその中には才ある者もいるだろう。公設の孤児院を造り、教育を施し、次代を支える人材を拾い上げる」
建物の規模や収容数、職員数や必要な職種を書いてある。そして、
「ミック、三ツ者に各都市にどの程度の孤児がいるのか調査させて数を出すように指示を出してくれ。カルトバウスは保護する孤児の規定とこの規模でどの程度の財源が必要が試算して確保できるか、レイラは総合的な判断を頼みたい」
レイラは俺の狙いを理解している。俺は今を見ているだけではないつもりだ。先も見てそして必要なものを模索している。
「畏まりました。三ツ者、初の大きな仕事になりますのでご期待に添える結果を出せるよう、最善を尽くします。早速、かかります」
ミックは一礼だけして部屋を出て行き、カルトバウスも書類を再度見直しながらしきりに頷いている。
「その書類は預ける。厳しく精査の上、無駄は少なく質はよく頼むぞ」
「はっ」
カルトバウスは書類を片手に頭を掻きながら部屋から出て行った。俺の公的事業の方針は『無駄なく質にはこだわれ。安く雑な仕事より高くとも質のいい仕事をしろ』我ながらひどく厳しいとは思う。
「レイラ、仕事はたまっているか?召賢館と集明館に行くのだが、支障がなければついてきてくれ」
レイラは頷き、俺は隅っこにいるヤルナに、
「初仕事だ。護衛しろ」
ノロノロと動くヤルナに内心は、どうもする気もないのだがな……とぼやいていた。
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普段着に着替えて馬車は使わず街をのんびりと歩きながら召賢館に向かう。休戦以降、街の活気はよりよくなりエルフ公国から来る変わった魔法素材もチラホラ見かけることも増えた。
「ん?これは何だろう?」
俺は魔道具の素材屋で見かけない枝を見つけた。
摘まみ上げて見ても、ただの小枝に見える。
「あぁ、兄さん。それはエルフ公国から入ってきた面白いものでな。燃やしたら小さな爆発をして燃えて消えるんだよ」
店主は俺を王だと思ってもない。まさか王がフラフラと出歩いてるとは思うまい。
……まぁ、それで失敗したんだがな……。
「少しもらって試していいかい?」
店主に小銭を払って少し買い取ると魔法で燃やしてみる。
ポンッと音を立て白い煙を残して小枝は消えた。
「おもしろいな。……なんか使えそうな気がするぞ」
「おや?兄さんは魔道具の研究家か何かかい?若いのに凄いねぇ」
楽しげに思案顔を浮かべた俺に店主も楽しそうに別の素材も勧める。
「これもエルフ公国からだが、雷魔法が効かないラーバという素材だ。おもしろいだろ?」
ラーバは鉛色の素材で厚さや大きさは模造紙程度、手触りは硬質ゴムといった感じのものでこれも買った。
何かおもしろいものが作れたらいいな。
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召賢館に着くと裏口から入り、事務室に入ると職員達を見やる。俺とわかって慌てて伏す者もいるが俺はかまうなと手で合図を出した。
召賢館も集明館もかなり質素倹約を心がけて、柱や手すりの飾り彫りや豪華な調度品などはない。目の保養程度に大小の花瓶に花が活けてある程度にしてある。
大きめの部屋には机が向かい合い並べられ椅子に座る職員は忙しそうに書類をチェックしていて、まるで会社のオフィスのような感じだ。
そして俺たちが入ってきた入り口とは別に表入り口からすぐの受付とそこから分別された多数の個室があり、そこで面談が行われる。
事務室の最奥まで行くと俺は館長を務める魔龍族の中年男性、カレル・ヴェルヴィッヒに声をかけた。
「館長、仕事を多く任せてしまっているが人手は足りているか?」
「陛下。館まで足をお運びくださいまして誠に恐縮でございます。どうぞ、こちらへ」
カレルは応接スペースのソファーに俺とレイラを勧める。そしてヤルナを見て、
「こちらは?」
「護衛程度だ。気にしなくていい。面白そうな人材で推挙のあげられる者はいそうか?」
俺が尋ねると、
「陛下のご期待に添えますかどうか……少々お待ちください」
カレルは事務棚の方に行くといくつか書類を手にして戻ってきた。
「こちらの者であれば陛下が面白いと思われるかもしれません」
三人の書類がある。一人一人見ていく。
俺が面白いと思うのは特化型。万能ではないがワンポイントで使える人材。
この国はまだ発展途上にあり、そういった特化型の人材を活かし切れていないところがある。
「……ほぅ……」
俺が気になったのは一人だけ。
「この男、使えそうだな」
ターキス・コンフォーデ。吸血鬼族で多種の変体魔法を使えるのだが、それしかできない。他の魔法も武芸もろくにできない。
「そ、その男ですか?」
カレルには意外だったらしい。
「後日、面談を予定したい。本人の都合に合わせるので登城するよう連絡を入れておいてくれ」
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