陛下を探して
※アゼリア視点になります
陛下があげてくださるはずの魔法弾があがらなくなって三時間が経過していた。
私はガダルフォン龍爵様やその私兵の方と一緒に村で陛下の安否を心配し始めていた。
私は宿の部屋から出て森の方が見えるところに立って祈りように手を組んでいた。
少し離れた場所では龍爵様が陛下を捜索するために兵の編成を確認しているのが見える。
一人の兵が私の元に来て、
「龍爵様は今より陛下の捜索に向かわれます。侍女殿には村にとどまり、陛下の帰りをお待ち願います」
私が陛下のお付きのメイドであるとわかっていて兵はもちろん龍爵様ですら私に強い物言いはしない。
「かしこまりました」
だからといって私が偉いわけではない。私が不遜な態度をとれば陛下のご威光に傷がついてしまう。
兵に一礼をすると視線はやはり森の方に向いてしまう。
「陛下……どうか、どうかご無事で……」
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数人の兵を残して龍爵様は陛下を探しに森の方に向かっていった。
私は変わらず村の中で森を見ていた。森には数時間あれば到着するはず。そこから探索すれば夕刻、夜にまで及ぶかもしれない。
私はいてもたってもいられない気持ちで陛下の帰りか龍爵様からの発見の合図を待つ。
村は百人ほどの規模で村人は農耕と魔物狩りの生活をしているようで村に訪れるのは流れの魔物狩りと行商といった者がたまに来る程度だった。
現に今、行商の者が村にある魔物の素材屋で交渉をしている。
風に乗って聞こえてくる話は、
「毛皮が欲しいんだがもう少しないか?領都で高く売れるんだ、少し高くてもいいから」
「毛皮は今見せたので全部でねぇ。この間、別の商人さんが買い占めて行っちまってな」
どうもないものはないと言われた行商の者は残念そうな顔を浮かべていた。
そこに大きな荷車を牽きながら大柄な女性が村に入ってきた。一直線に素材屋に向かうと、
「オッチャン、色々持ってきたヨ。解体も済んでるシ、皮に骨、毛皮、色々……」
と毛皮と聞いて行商の者がその女性の手を握り、
「売ってくれ。是非、売ってくれ」
拝み倒し始めた。
そして三人は商談を進めると金銭と物品を交わして三人ともいい笑顔で別れる。
行商の者は宿に、素材屋は店の奥に、女性は食材屋に向かう。
その女性が私の近くを通ったときに妙な匂いを感じた。なにか、嗅いだことのある……。
舌を出して空気中に漂う匂いを拾い集める。割れた舌先は味だけでなく匂いや気配も感知でき、ラミアー族は目が見えない暗闇でも何があるのかはっきりと分かる。
この匂いは……。
買い物をしている女にそっと近付き果物を手に取り見定めるように振る舞いながら女の匂いを嗅ぐ。
陛下の……匂い……濃く……強い…。
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私は果物を適当に買って鞄に入れるとすぐさま武器屋で短めの三叉槍を買い、建物の影に入り気配を消す。
家政学校で習った技能。主が襲撃された際にメイドは攻防逃隠の全てを以て主を逃がすべし。
その隠技を使い気配を消すと逃げるのではなく追跡に使う。
女は荷車一杯に食糧を積んで村を出るとそのまま森の横を通る街道に出て行く。すでに日が傾き始めていているが、平地に身を隠せるような物がない。
私はメイド服の上から頭まで外套を纏うと流浪者のようにして女から離れて追い始めた。
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数時間後、女は森の近くまで来ると辺りを確認し始める。私は木に身を隠し様子を窺う。
そして木の間に入った女をさらに追った。あまり踏み固められていないが明らかに人と荷車が通れるような広さのある道を女は歩いて行く。
日が暮れて普通には見えない影を私は追う。私にも見えてなくても、はっきりと視えている。
そして森の中に現れたのは木造の家。その横には先ほどの荷車があり、女が食糧を家へと運び込んでいた。
私は警戒を高めて壁に張り付くように身を隠す。
そして中の声に耳を澄ませて陛下を探す。
「……くは好きカ?」
先ほどの女の声がする。壁には窓があって覗き見る。
灯りも小さく薄暗い雑な作りの部屋の中に拘束された陛下は粗悪なソファーに転がされていて頭の血が沸騰するほどの怒りを覚える。
陛下は微かに動いているから命はまだある。しかし何をされるかわからない。
あの女が陛下から離れるのを待つ。偲び難き時間を数分、私の中では永久に感じるほどの時間を過ごす。
そして女が離れた。陛下のいるソファーから壁のない別の部屋に向かった。
今だっ!
私は槍と体当たりで扉を破ると陛下のところへ一目散に向かう。
「なっ?誰ダ?」
女は驚き身構えて、私が外套を羽織っているせいか陛下は私とわからない様子で身を固くしている。
私は外套を落として陛下に顔を見ていただく。
陛下、陛下が目の前に、ご無事で……。
喜びで顔が緩んでしまったが気を引き締めて、
「勝手ながらお助けに参りました。すぐにここから安全な場所にお連れいたします」
陛下は薬か毒かでお体が痺れているのか、声にならない声で何かおっしゃられた。口の中にある布を取り払い、
そして私はソファーの傍に陛下の衣服が全て落ちているのを見て、理解した。
憤怒や激怒、血が沸騰する、こんな言葉では生ぬるい。
「陛下、見苦しい姿をお目にかけますがご容赦ください」
私の愛しき陛下に手を出したこの輩を殺す気になった。
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