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対・疫病川獺

 ガダルフォン龍爵の案内で俺はジハーク湖に到着した。

 馬車の中で疫病川獺(フルーオッター)についてしっかりと聞いてある。言ってみれば巨大な川獺かわうそ、大きさは約十五メートル。伸縮性のある爪は猛毒があり傷一つでも受ければ数分で高熱や目眩、さらに体が動かなくならしい。筋肉か神経に作用するのだろう。


 兵達に詳しく聞き取りをすると、俺におっかなびっくりしていたが部隊長を務めている男が話してくれた。

「私はブロンズプレートなのですが全力でシールドを張っても数発も耐えられません。毒も強力で一撃が致命傷であり、爪だけでなく血液や唾液にも毒が含まれているので噛まれても毒を受けます。巨体からは想像できないほどに早く、また泳げるのである程度ダメージを与えても逃げてしまうのです」


 なるほど、それは厄介なところだな。水の中に逃げられると手が出せないと言うことか。

 俺は頭を掻く。シミュレーションで退治する。まずはブロンズプレートよりも強いシールド。それにダメージを与えたとして逃がさないように閉じ込めるシールドを張らなくてはならない。

「……身体強化、速度強化、硬質障壁、と攻撃に解毒……同時に使いこなせるか?」


 指折り数えてもかなりの数がある。それに解毒にしても毒の知識はないし、知ってる毒なんて河豚のテトロドキシン?とスズメバチのなんとかっていうタンパク質破壊の毒くらいだ。

 正直言うと毒はくらいたくない。まぁ身体硬化魔法でなんとかすればいいか?爪や牙が当たらなければいいのであればいいのだろうけど、唾液を飛ばされたときは……魔法で弾けばいいか……。

 そこまで考えて外道ながら有効な方法を思いついてしまった。……やっていいのか?


 ガダルフォン龍爵、俺、ガダルフォン龍私兵団の部隊が二つ。この四班で分かれて湖の周りと河口周辺を探す。

 俺の班は河口から湖沿いに東に、ガダルフォン龍爵は河を渡り湖に沿って西に、部隊長が率いる隊は河の両岸を下る方に向かう。

 ガダルフォン龍爵の兵と共に湖の周辺を回る。かなり警戒している兵達は疫病川獺の恐ろしさを知っているのだろう。俺も音を立てないように歩きながら周囲を警戒する。

 捜索を初めて数十分、見つけた場合は魔法弾を打ち上げて知らせることになっている。


「今のところは見つからないな……」

 水辺の土にも目をやりながら気配だけでなく痕跡も探す。

「陛下!」

 アゼリアが空を指す。その方向には青い光の玉があがっていた。

「魔法弾です!」

 別の班が見つけたらしい。

「くそっ!遠い!」


 あがっている地点は俺たちがいる場所からするとかなり離れた位置で、その場所はガダルフォン龍爵のいる場所だった。

「皆は他の魔物にも気をつけて合流に向かってくれ。私は先に向かう!制御・重力コントロール・グラビティ身体・強化(フル・ブースト)身体・加速(フル・ドライブ)!」

 それだけ伝えて俺は地面を蹴り、自身への重力を消して一直線に向かった。


-----


 その場所が目に見えてくる。まだかなり離れているが人が大きな生物と戦っている。

 だんだんはっきりと見えてきて、巨大な川獺がいる。その周りに兵が武器を持って対峙しているが、川獺が腕を振り爪で切り裂くたびに兵達が倒れていく。


「おらっ!」

 着地ついでに疫病川獺の頭に蹴りをぶち込む。が、踏ん張りがない一撃だったためか、毛皮と肉が厚いのか、それとも両方か。

 とにかくダメージらしいものはなく、着地した俺に視線を向けた。


 見た目だけなら地球の川獺と大して変わらない。だが話に聞いたとおり、デカい。それに俺に向ける紫の目、そして口から垂れている唾液が落ちて、転がっていた剣に当たると異臭を漂わせて溶かしていく。

 さらに猫のように出し入れしている爪は一メートルはあるだろう。

「キシャー!!!」

 いきなり蹴りをかました俺にヘイトが向いている。


 俺は魔力を練り高めていく。察知したのか、川獺は爪を振りながら俺に襲い掛かってくる。

創造・障壁(メイク・シールド)!」

 俺の前に淡く白い半透明の壁が現れて川獺の攻撃を阻む。

「今のうちに兵を引かせろ!」


 俺が指示を出すと兵達が慌てて仲間を救出し、離れていく。俺がそれを見届けていると、

「陛下!」

 ガダルフォン龍爵の声に視線を前にすると障壁への攻撃をやめた川獺が鞭のような尾を使って横からなぎ払おうとしていた。

「ふんっ!!」

 俺は腕を盾にして尾を受けるとそのまま掴んで本体ごと上に投げる。


創造・球障壁メイク・シールドボール

 川獺の周りを球体のシールドが発生して川獺の動きを封じる。

 中にとらわれた川獺は爪でシールドに攻撃を加えるが練り込んだ魔力はけっこう注いであるので簡単に破壊はされない。


「少しひどいが……制御・空気・炭素コントロール・エア・カーボン!」

 血にも毒がある以上、斬り殺すわけにはいかない。

 だから、殺し方は決めていた。


 〝二酸化炭素中毒〟これなら血は出ずにすむ。糞尿やヨダレは我慢しよう。唾液は強酸性の液みたいだからまだ被害は少なくてすむ。

 運ぶの俺じゃないし。最悪、亜空間倉庫に押し込んで運べばいい。

「そのまま、大人しくしてろよ?」

 障壁の中で大暴れしているがそのうち動きが悪くなり、そして白目をむいて泡を吹いて動かなくなった。


 歓声が上がる。俺は障壁を維持したまま振り向いて、

「もうしばらくすれば絞め殺せる。問題は遺体の輸送だがその辺はどうするのだ?」

 俺がガダルフォン龍爵に尋ねるとポカンとした表情を浮かべていた龍爵が頭を振って、

「お、驚きです。いとも簡単に疫病川獺を倒せるとは……陛下にはなんと申し上げれば……」


 また泣きそうになり、というか感極まり泣き出した龍爵は部下の差し出したタオルで目元を拭く。

「陛下、憚りながら……輸送は兵用の馬車の後ろに台を用意してありますのでそちらにて行います」

 部隊長の男が跪き、説明をしてくれた。

「では、そこまではこのまま運ぼうか」

 俺は部隊長の案内に従い、障壁を操作して自分の後ろを追わせる。

「ああ。作戦終了の合図もあげねばな……」

 俺の言葉に慌てて兵の一人が白の魔法弾を打ち上げて合図を出していた。

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