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地方視察

 三ツ者を発足させて数日後、俺は地方視察のために南東部第三領ジハーク領に来ていた。年が明けて以降、視察の時は白い軍服を着用し、一目で俺とわかるようにしている。

 国軍の正規部隊の正装軍服は黒で身分を示す隊章は襟にある。貴族の私軍は白と黒以外でなおかつどこの所属かわかるように襟や袖、または胸元など見える場所に隊章がついている。


 俺が領の中都市に到着するとジハーク領を任せているマリオ・ジハーク・ガダルフォン龍爵が出迎えてくれた。

 俺が連れているのは馬車を操る御者の他には身の回りの世話役にアゼリアを同行させているのみである。


「陛下、このような片田舎までお越しいただき誠にありがとうございます。何もない街ですが精一杯おもてなしさせていただきます」

 ガダルフォン龍爵は四十後半の男で種属は魔翼族、戦闘形態では悪魔のような格好になるそうだが、今は翼はなく、頭から生えた巻角と炎のような赤い肌が特徴なくらいだ。

 わざわざ領都から出向いてきて挨拶をしてくれたのだが、その表情はさえない。


「ガダルフォン龍、その気持ちはありがたいがもてなしは最低限でかまわない。私に税を使うよりも民のため、開発のため、国のために使うがよい」

 俺はそう伝えてから、

「それよりも、だ。この領内での昨年の大型モンスターの出現が多く報告されている。少し気になってな」


 俺が来た理由はモンスターによる領内の不安解消のためだった。ジハーク領には大きな湖があり国内を南東から王都近くを経由し北東の海に流れ出る大河がある。さらに山林も多く小型のモンスターの生息しやすい地形が多い。

 そしてそれをエサとする大型も発生しても仕方ないのだ。 


 都市内にある議会場の一室を借りてガダルフォン龍爵と話をする。この場にいるのは俺と龍爵、護衛数人とアゼリアだけだ。

「……報告書では銀角獣(シルバーホーン)は討伐できたが、切裂骸骨王(ダズキングボーン)疫病川獺(フルーオッター)がまだだそうだな。シルバープレート十人以上が必要と聞いているがガダルフォン龍、戦力はどうなのかね?」

 俺は確認のために持ってきていた書類に目を通しながら龍爵に聞いてみる。俺の言葉にうつむいてしまったガダルフォン龍爵が言葉にしたのは、

「申し訳ありません。我が領にいるのは私を含めてシルバーは六名、ブロンズとアンバーが八名ずつしかおらず……我が不徳の次第でございます」


 龍爵は実に申し訳なさそうにしているが、俺はその戦力を聞いて、

「よい。それだけの戦力で銀角獣シルバーホーンを討伐したことは誉れ。断じて不徳にあらず、誰がそなたを責めようか」

 俺は龍爵の手を取って言葉を続ける。

「そなたに不徳はなく、あるとすれば私だ。そなたら領主の苦労を知らず王の椅子に座る私の責であろう。王にとって軍臣民すべては子であり、守らねばならん。私はアンリ先王よりそう教わった。あとは私に任せよ、切裂骸骨王と疫病川獺の出る地に案内せよ」


 龍爵は震えている。たぶん譴責や処罰を恐れているのだろう。

「そなたを罰するつもり出来たのではない。モンスターを討伐し、そなたの悩みを減らす。それは民の安寧につながる。私はそなたと民のために来た。そのように震えることはない」

 俺は優しく言ったつもりだったが、龍爵は更に震えを増して、

「へ、陛下、申し訳ありません、申し訳ありません」


 この男、調べたところ、なかなか直情で貴族らしい腹芸は苦手で表情も感情も素直に出す。新年会でも話してみたのだが、いいことをいい、悪いことを悪いと言える好漢だ。

 そして今は俺の言葉に感涙してしまっていて俺の手を強く握り返している。


 おっさんの泣き顔は綺麗とは言えないし、目にも悪い。俺はチラリとアゼリアに目配せするとタオルを出させた。

「龍爵、顔を拭かれよ。領民の前でその顔はできんぞ?」

 素直にタオルを受け取り、涙と鼻水を拭いた龍爵は顔をキリッとさせて、

「それではすぐにでも準備に取りかかります。失礼いたします」


 龍爵は俺に一礼してから会議室を飛び出ていった。


-----


 街で一番の宿の最上級の部屋を提供された俺は二日待った。

 そして龍爵の寄越した馬車に乗る。

「陛下、行き先はまずジハーク湖になります。そちらには疫病川獺がいて湖の魚や水鳥を襲っております」

 馬車の中で龍爵は地図を見せてくれながら説明する。

「うむ。ジハーク湖と言えば貴族にも人気の高い避暑地と聞いている。今年は私も遊びに来たいと思っているくらいだ」


 俺は頭の中で湖横のコテージでゆったりバカンスするイメージをわかせた。そして俺の両隣には水着姿のレイラとクレア……。後ろにはアゼリアとイゾルデも控えている。

 うん、いいね!

 俺のヤル気がアップした!


 数時間して川の畔に出る。

「いい眺めだな。アゼリア、飲むものをくれないか?」

「はっ」

 アゼリアは足元に置いていた大型のバスケットから数種類のボトルを出すと水筒のような物に入れて混ぜていく。そしてグラスに注いでくれた。

 フワリとフルーツの香りが漂い、その中に少しだけ薬草のような香りもする。


「これは何かな?」

 淡い黄色のドリンクが放つ香りを楽しんだ後にアゼリアに聞くと、

「イゾルデが陛下のためにと用意していたドリンクです。数種の果汁に水と疲労がたまりにくくなる成分を含んだ香草のエキスが混ざっております」

 ここにいないイゾルデに感謝をして口をつける。舌に当たり一番に爽やかな酸味、そして口内に広がる淡くも長く続く甘味、飲み込んだ後にも口の中にはサッパリした後味がある。


「陛下のおそばにいられなくともご奉公したいとイゾルデが申しておりました」

「アゼリア、龍爵にもお注ぎしてくれ」

「はっ……」

 アゼリアはもう一度同じように作り、龍爵に渡した。龍爵も飲んで驚きながら感謝の言葉を出す。


 その間にも馬車は川の源、ジハーク湖に近付いてきているのだった。

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