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三ツ者

 初めての新年会から一月、俺は年明け早々に召賢館から募集をかけさせていた。

 名目は政府の調査員としてあり、募集主はミック、身体能力と戦闘技能に自信のある者、前歴不問、としてあるが実際は俺の目となり耳となる諜報員だ。


 一月経って約百人ほどの希望者が出て俺はその選定をしていた。

 給与は月に銀貨二枚+出来高給、日本円にして二十万と収集した情報などの評価で追加する。

 なお聖魔公国の一般的な収入は一人暮らしなら銀貨一枚と少し、二枚もあれば贅沢ができる。銀貨三から四枚あれば家族四、五人が生活できる。


 俺はその全員に現役犯罪者や他国からのスパイがいないかだけを内偵させてから採用試験をおこなうことにしてある。

 今日はその日で王城から少し離れた場所に用意してある大量の馬車に分乗させた。そして俺は魔法で見かけを変えて試験管に混じっている。


 まずは一次試験は王都から馬車で半日ほど離れた場所にある人口一万人ほどの小都市。

 俺がこの町にする者からランダムに選んだ者がリストアップされている。そして候補の者には、彼らの名前だけや役職と見た目だけなど少量の情報を与えて、三日以内に対象の詳細情報をどれだけ集められるか。


 その試験を通過した者には別日に二次試験場に案内する。その数は六十人ほど。

 次は森の中、受験者にはそれぞれ番号を振り与えてお互いを捕獲させる。ただし、殺しは禁止してある。五日間の間に自分が捕まらずにターゲットを捕獲した者のみを合格者とした。


 種属は様々で魔人族に獣人やエルフ、珍しいところだと妖精族と呼ばれる小柄で羽を持つ種属や妖鎧族の親近の刀鬼族もいる。


-----


 残った者たちを数日後に王城の練兵場に集めてある。

「なかなかに面白いのが揃ったな」

「陛下。前歴を問わなかった結果、元盗賊や冒険者も混じっておりますが……」

 俺が楽しそうにするのと反対にミックはかなり困った顔を浮かべる。


「いいのだよ。蛇の道は蛇、盗賊の情報をよく知るのは盗賊だからな。利用できる者は何でも利用する。戦闘技能も申し分なさそうだな」

 最後の試験、残るのは二十八人。俺は身体強化と身体加速をかけてミックに笑いかける。

「さぁて。やるか」


 俺は変装を解かないまま、彼らの前に立つ。そしてミックも俺の横に立つと、

「さて、諸君。最後の試験に移る。今よりこの男と戦ってもらう、手段は問わず攻撃して認めさせよ。合否の判定の理由は言わない。さぁ誰からにしようか?希望者から順にどうぞ」


 ミックが退くと受験者達は一瞬だけ顔を見合わせた。そして一番にかかってきたのは猫耳の少女。瞬時で俺の前に現れると手に持ったダガーで高速の斬擊わ見舞ってくる。

 俺は手甲で全てを受けながら実力を見る。速度には目を見張るものがある。獣人の身体能力と魔力強化により並外れた速さを持つ。一撃一撃は軽いものの油断すれば刻まれそうだ。


 どの一撃も届かない。しかし焦りも戸惑いも見せない。それどころか、笑った。

 俺の視界の隅に影が走った。似た顔の少女。一人目とは違う方向から俺を狙うダガーが増える。二人のコンビネーションは練度が高い。

 手加減した強化速度に追いついてくる。数段階に練り込まれたフェイント、回避した先を狙う一撃。

たまに織り混ぜられる肘や蹴りといった体術もなかなかの威力を持つ。

「よっ、と」

 一人目の蹴りを掴み、二人目は手首を掴んで動きを止めると真上に投げて、

「はい、合格。次の方、どうぞ」


 ゴーレム族の男が向かってくる。一撃が重く、体術や武器の小剣に目をとられると違う方向から魔法を打ち込んでくる。

「なかなかいい」

 小剣を躱すと足元を狙う蹴りを受けた。しかも俺を浮かせるほどの威力を持つ。

 俺は体勢を崩しながら正拳を放つ。男の腰辺りに当たると男が崩れる。

「アナタも合格です。次は……」


 俺の言葉を待たずに影が飛んできた。俺の頭を掴み、首に刃を突き立てようとしてきたが俺は手を掴みふりほどくとそのまま投げ飛ばす。

「うーん……補欠」

 スピードもイマイチだし、掴みかかれても簡単にふりほどかれている。これでは少し物足りない。


 別の男もかかってきて順番に全員と戦ってから最終的に残ったのが、

「ふむ……。合格者二十一人、補欠が五人、不合格二人だな」

 俺は首をゴキゴキと鳴らしてからミックに振り返る。

「そう、ですね。では言われたとおり、こちらの皆さんは合格。こちらの五人は補欠合格で希望する方のみ訓練を受けていだき水準に達した方から採用する形になります。不合格の方は申し訳ありませんがお帰りください」


-----


 合格者と補欠合格のうち訓練を希望した三人が会議室の一つに集められた。

 俺とミックが前に立つと、

「では、皆さんに頼む仕事を説明します。お願いいたします」


 俺は皆の前で変装を解いた。皆が驚愕の表情を見せた。

「試験官で王のシュウイチだ。厳しい試験をくぐり抜けここにいる皆には期待している。仕事だが皆は各地の都市に住んでもらい、領主や貴族、都市の管轄機構が不正をしていないか、報告をしている内容と違うような為政や徴税をしていないか、などの調査をし良きも悪きも一切をミックと私に報告することだ」

 俺が仕事の内容を説明し、さらに給与や守秘義務、自らの身分の隠匿を架すことなども念を押す。


「……以上であるが質問はあるか?」

 誰も手を上げようともしない。

「……では、皆の者には私の直属の諜報員団、三ツ者という名を与える。働きを期待する」


 皆を城傍に作ってある兵舎に三ツ者衆にも部屋を与えて生活に必要な者を持ち込んでくるように伝えて帰らせた。

 俺の三ツ者の中でも気に入った人物がいた。

 まず最初にかかってきた獣人二人だ。

 最初にかかってきたのがノア・タルナック。そしてあとからかかってきたのかミア・タルナック。二人とも銀狼族で魔狼族の近縁種に当たる。

 コンビネーションがよかったのは昔から二人で狩りをして生活をしてきた姉妹と書類にはある。


 それと最後の方になったが一人、有翼人の男の腕前が気に入った。フェグリー・ギルドット、個の力も強く情報集積も一番早い成績を出していた。


「どの者も優秀そうだな。あとは誰をどこに配置するかだな……」

 俺とミックは地図と個人のプロフィールシートを見ながら悩ませていた。

「こちらの者はここに……あとは……」

 とミックは手早く配置予定を立てていく。

「だが、人数が足りないな。もっと増やしたいが……ミック、君の使っている内偵兵に才ある者を探させて諜報員を育てるか。三ツ者にも慣れてきたらスカウトをさせよう」

「畏まりました」

 ミックと俺は二人であくどい顔を並べた。

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