新年会・前
今日は新たな年を迎えた日で将軍や重臣、貴族らは王都に来て登城し、新年の挨拶に来ている。
俺は城の最上階の王の間にある玉座に座り、隣の椅子には王妃として着飾ったレイラがいる。
朝から大量の軍臣と貴族が詰めかけてきて、順番に面会して話をする。
新年の挨拶だけでなく、結婚の祝辞、それに絡めてうちの娘はどうでしょうか?と暗に聞いてくる貴族もいる。
かれこれ当主や将軍らと30人くらいは会っただろう。しかしまだ先は多い。
「次は西部第二領、フリアナ領拝領貴族、ジルノイヤー家当主、ギルバート・フリアナ・ジルノイヤー聖爵です」
長い説明の後に入ってきたのは、金髪の五十くらいの男、そして半歩後ろには同じ金髪の二十代中頃の男と栗色の髪をした二十歳にならない程度の美女。三人とも頭にはキツネ耳、腰の後ろ辺りには狐の尾がある。
「陛下、臣ジルノイヤー参りした。臣とし新たな年を迎え、陛下には……」
うんたらかんたらと長い祝辞を笑顔で聞き流す。
休戦締約が結ばれてからは王都から離れて、各地の地方視察に行ってあちこち見回ってきた。
このジルノイヤー家に与えてある西部の領地では茶葉の栽培が盛んで、しかも品質がかなりよくて王都だけでなく他の貴族領、俺の直轄している都市にも輸出されていてジルノイヤー家からの税収はかなりのものだ。
「……でして、王都王妃様におかれましては末永く仲むつまじく……」
俺が記憶を辿っていてもギルバートからの挨拶は終わっておらず、少しばかりため息もつきたい。
俺がチラリとギルバートではなく、後ろの二人、嫡男のザクスと長女のクレアに視線を送った。
二人は少し申し訳なさそうな視線を返してきて、下げている頭をほんの少し深く下げた。
「……臣ジルノイヤー並びに一族と臣下、領民は陛下が御ため一心にお仕え申し上げます」
長々とした挨拶の終わったギルバートは深くお辞儀をした。
「ジルノイヤー家が忠誠、私は誠頼りにしている。今後も忠勤をお頼みし、私ではなく国がため、民がための働きを大いに期待する」
俺は何パターンか作っておいたテンプレ返しの言葉をすると悪戯っ子のように笑い、
「ザクス、父上は最近いかがかな?」
「はっ。父は最近大人しく、陛下がおっしゃったことに深く感銘を受け、無用なイタズラをしないよう心がけております」
俺の言葉にザクスは意味深な言葉を返しながら俺と同じ悪戯っ子の目をして視線を交わす。
「父の補佐ばかりか、母らを助けるは子の鏡である。孝行に勤められよ」
ギルバートは領主としてはかなり優秀であり、視察の時に見た領民の生活は他の都市や領地に比べて豊かであり、表情も明るく治安もよかった。
ただ一つ、彼には欠点がある。悪癖、女に手を出しまくるのだ。
視察の時にそれを知るも、俺はギルバートを信用している。その理由はギルバート自身が悪癖さえなければ言うことはないほどの優秀で、そして四人の妻と子供のうち成人している四人が非常に優秀で結果を出している。
まぁ一つくらい欠点がある方が人らしく俺は好ましい。
「クレア、久しぶりになるな。元気そうで何より。そなたとは何かの縁で側室に迎える者の候補として互いに知り合う時を持ちたい。今日の食事会でも少し時間をいただきたいがよいか?」
ギルバートの娘のクレアは俺が書類選考して、さらに地方視察に合わせて選考を通過した者との面談もしていた。その中で俺が最も気に入った者がクレアだ。
学校は卒業しており成績はよく、魔法の才能もある。さらに貴族の女性らしく音楽、魔法を得意として家事するらしく、さらに剣も使えると多才な娘だ。
正妻のレイラも貴族と軍の重臣、内政の重臣のそれぞれから側室を娶ることで軍、臣、貴族、どれにも肩入れしていない平等な王と周りからは見られると賛成はいただいている。
……が、側室を娶ることには少し妬いているのか夜が激しい。
「もちろんでございます。陛下とのお時間、楽しみに致しております」
柔らかく微笑むとその尻尾がふりふりと動き、感情を示す。
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午前いっぱいは軍臣貴族らとの挨拶に時間を費やして昼食をとると足早に城内にある調理室を覗きに行った。
夕方から行われる食事会の料理を見に来ていた。俺が入ると当然調理場は騒然となるが、俺は躊躇わずにメインシェフのところにいく。
「どうだ?天麩羅はうまく揚がるようになったか?あとムニエルにとんかつ、ハンバーグはどうなっている?」
俺は軍臣貴族をもてなす料理に地球の食事もいれて立食式のバイキングを考えてあった。
この世界の上流階級の食事ではコース料理が主で立食バイキングはもちろん、町中どころか行軍中の食事でも立ち食いという考えは大半の貴族連中にはない。
「はっ。陛下のご指導の賜物もありまして、なんとかこのように仕上がっております」
俺は見せられた魚の天麩羅をつまみ上げてよく見てから口にした。
さすが城で王族の食座を任されるだけあって調理レベルが高く日本でも通じるほどで、さくさくの衣でありながら中の食材が油っぽくない。
おまけに衣には薄衣をつけてからさらに衣を上から指で飛ばして追加し〝花が咲かせる〟という技法を使ってボリュームと見た目をよいものにしてある。
「天麩羅はこれでよい。できるだけ時間ギリギリに揚げるようにし、温かい状態で提供できるようにせよ。ハンバーグも……これでよいが、こねた後に中の空気抜きをしっかりと頼むぞ。中に残って割れてしまうと見栄えがよくない。……とんかつもよい、揚げる時間には気をつけよ。時間が長すぎると肉が固くなり、筋切りが悪いと曲がってくるのでな。今日はしっかりと頼むぞ」
俺は調理場をあとにして執務室に戻った。
来ている軍臣貴族らの家族もしっかり憶えておかなくてはあとで恥をかくからな……確認、確認。
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準備に追われながら時間が過ぎていき、気づけば夕刻になっていた。
そろそろ食事会をする大広間に向かわなくてはならない時間になっていた。
俺は執務室にあるベルを振って鳴らすと数分もせずにノックがされる。入室を許すとアゼリアが来て、
「どうされましたか?」
「よかった。アゼリアであれば話が早い。すまぬ、食事会用の着替えをとってきてくれ」
アゼリアは一礼すると一度部屋を出てしばらくすると戻ってきて俺の正装を持ってきてくれた。
王位継承式にも着ていたノーネクタイのスーツのような正装に俺は着替える。
「レイラの方はどうなっている?」
俺はズボンを履き替えて上着に腕を通しながらアゼリアに尋ねると、
「一時間ほど前からお着替えされてます。そばにはイゾルデがついております」
安心する返事が返ってきたので、
「ありがとう。いつも助かるよ」
着替え終わった俺はアゼリアの頬に軽くキスをした。
(結婚してからはアゼリアもイゾルデも相手できてなくて申し訳ないな……)
俺の心中には専属メイドであり妾でもある二人には心の中だけで謝った。
【爵位】
上から
聖爵・公爵・龍爵・信爵・男爵、女爵・令爵
貴族の名前は
個人名・領地名・家名、です
領地がない貴族にはミドルネームは基本的にありません
領地のない貴族や軍人市民の中には特別な功績により王や統治貴族に下賜されてミドルネームが付くこともあります
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