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年末の記憶は書類の山

 俺がアンハイルトンに来て十ヶ月ほどして初めての年の暮れが来ていた。

 仕事は月末の書類に加えて、年末決済やら年末報告やらが大量に届いて毎日山のようにある書類と戦っていた。


「陛下、南西部貴族十五貴族からの税収報告書が来ました。お目通しをお願いいたします」

 ミックは俺の執務室の机にさらに山を作り出した。


「ミック、すまないがその報告書にある住民登記数と内偵の報告書にずれがないか、確認してくれるか?それと毎月の税収合計と年末の一年分の税収合計が一致するかも見てくれ。内政執務室の者になら見られても問題ないから手分けしてくれ。まだ西部貴族のチェックが終わらない」

 俺は手と目を休めることなく、ミックに指示を飛ばす。

「陛下、この部屋に何人か入れてもよろしいでしょうか?運ぶ手間が省けます」

「かまわない。任せる」


 俺が今見ているのは国内の西部に領地を与えている十五家の貴族からの報告書である。

 国土のほぼ中央にある王都から見て、東西南北とその間の八方位で国を区分けし、貴族には土地を貸し与えて領地経営をさせている。

 その地方で一番大きな領地を任せてある者に第一領の役職を与えてあり、一番小さな領地が第十五領である。


「では、しばしお時間を」

 ミックが走って出て行き、俺は手元に集中する。

 内偵があげる報告書と貴族からあがってくる報告書に差異がないか、不正は見当たらないか、誤記や不備がないか、すべてに目を通していき、印を捺す。

 人口や人頭税や商業税など各税収、収穫物の変移、モンスター討伐履歴、私軍編成内容、領地開拓や公的機関の建物修繕と公的人員の給与などの支出、俺が出した各指示の進行状態など情報は山ほどあり、ここ十日ほどはずっとこれであり、頭と目が痛い。


 しばらくしてミックが六人ほど内政執務室の者を連れてきて執務室で終わりの見えない仕事が続けられる。

 胃が痛い……。


 数日後、各方面の書類をすべて精査し終わって、しばらく書類なんか見たくない俺はテラスで一息入れていた。

 それでもまだ報告書に気になることがあった者は聞き取りをしなければならないし、不正については何件かあったので密偵を使い証拠をあげてから王都に呼び出して処罰しなければならない。


 気が重い中、明後日には新年を迎える。街は新年を祝う祭りのため、準備が進み、賑わいを見せている。何か問題を起こさなければよいが、小さなトラブルなら祭りの無礼講で済むし、見回りの兵もいるから大きな心配はない。


「陛下、お疲れ様でございます」

 レイラの声に振り返る。まだ内政官衣で仕事中のようだった。

「ああ。年末というのは怖いな」

 疲労を吐き出すようにため息をつくが体は重く、疲れは抜けない。

 そういえばこの世界は一月が30日で15ヶ月あり一年は450日だ。一日二十四時間というのは変わらないが、一年が長く感じるというか実質かなり長い。


「新年会の準備は着々と進んでおります。御挨拶のお言葉は出来上がってますでしょうか?」

「まだ……なんてな。これだ。それにしても、新年会に列席する軍臣と貴族の名前と役職、家族まで憶えろというのは厳しくなかろうか?」

 俺が紙を見せるとレイラは熟読しながら頷く。

「陛下は臣下に謙ってはなりません。謙虚であることと下手に出ることは別物で、陛下はその下手に出る癖がありましたが……最近はそのようなこともなくなられました。御挨拶のお言葉は大丈夫です」


 レイラは満足そうな顔をする。先月に公式に妻となってからは俺の前だけだがすまし顔以外の表情もよく見せてくれるようになった。

「陛下がおっしゃったのですよ?臣の心を得るには臣を知ること、と。陛下のお好きな言葉だと、人は石垣、人は堀、情けは味方、敵は仇なり、でしたか?」

「最初の人は城が抜けている。それと敵は仇なりではなく、仇は敵なり、だ。まぁたしかに俺が言ったことだからなぁ……」


 俺が臣下の事を知ろうと資料を作ろうと指示を出すとレイラが各地に密偵を放ち情報を集めまとめ上げてくれた。

 各将軍と補佐官、臣の中でも主たる大臣や補佐官、次官、領主貴族、領地はないが重職に就く貴族など国の重臣や柱と呼べる者たちの全てをだ。

 それには本人だけでなく家族のことなどまで書かれており、俺は年末処理を終えてからはその資料と向き合っている。


 俺は顔に疲れが出ているのか、レイラは少し心配そうな顔をする。

「大丈夫だ。だいたい頭に入っている」

 俺が空元気を見せるとレイラは少し困った顔を浮かべてから、悩ましげに人差し指を唇に当てる。

 レイラは綺麗な女性なのだが、今の仕草で何となく妖艶さが出た。(仕事)の雰囲気ではなく、なぜか()の気配を出す。


 俺に撓垂れかかってくると耳元で囁いた。

「……今夜、私室にて試験いたします。各家ごとに一問、およそ150問になります。……すべて正解なされたら……その、ご無沙汰なので……ご奉仕いたします」


 急に左から妻の、女の顔になったレイラにドキッとしながらも試験に対するモチベーションはとてもあがった。


 最近はとても忙しかったので久しぶりとなり、すごく盛り上がったのは言うまでもない。

誤字脱字がありましたらご指摘の程お願いいたします

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