彼女の手記と心の内
『私が陛下に仕えて四ヶ月、陛下は無理やりながら帝国との交渉を確約させました。
アンリ先王より左に命ぜられ、両親の期待もあって陛下にお仕えしているけど陛下は変わったお方です。
何を思われたか、ロイド君と地下書庫にこもり食事も睡眠もとられそうになかったのでリアと一緒に引っ張り出すのは苦労しました。
三日目になにやらよい書類を見つけたとたいそう喜ばれていましたが、まさかあれが和議交渉の道具になるとは私は思ってもみませんでした。
陛下曰く、「現状に対処するのではなく過去を検める。そうすれば理にかなった話ができる」そうおっしゃられて満足そうに書類をまとめておられました。横で倒れていたロイド君は相当扱き使われたようで、少しばかり可哀相でした。
陛下は日々の執務や和議交渉のための下準備の他に、よく街の視察に行かれる。私服で出かけられて街の人の不満や問題、困り事などを親身に聞かれている。
しかし民も民で陛下だと思っておらず「あんた、陛下に似てるねぇ」と言って陛下も陛下で「陛下はもっと気品がありますよ」などと冗談っぽくおっしゃられる。
本当に変わった方。
時には子供の遊びに混じっていたり、犬猫を捕まえたり。初めて猫を捕まえられたときには「大きいのだな」ともおっしゃられていた。
そういえば自室で飼われている猫は元の世界からついてきたもので、大人になってもこちらの猫の半分もないらしい。
老若男女問わずに話し掛け、時には警備巡回の兵やスラムにまで。どこに行っても陛下は民の話を聞き、次の日にはそれに対する政策をなされている。
そう、陛下はとても真面目で優しい、でも異世界の方だからか少し変わっておられる。
ただ、あの笑顔は』
ここまで書いて私は筆を置いた。
どう思っているのか、それを書けばきっと私心を持ってしまう。いや、今でもそう思うことが私心ありきの気持ちになっている。
リアは軍学校卒業して一年でグリエス君と結婚してしまった。友達が結婚すると、つい自分のことも考えてしまう。
両親がアンリ先王の右と左で、周りは私に大きな期待をしている。指名されて左になって、陛下は頼ってくださって、役目としては充実してるし、お給料も同世代に比べるとかなり高め。
そうなるとなかなか相手がつり合わなくて見つからない。
それに……ううん、想っちゃダメ。
でも、あの子供達に向けていた笑顔がとても優しくて、街の老人達に向ける眼差しが真剣で、政策がうまくいったときには無邪気に喜ぶときもあって。
優しくて、真剣で、少し子供っぽくて……それでいて自分のことより軍臣民のために頑張る陛下……。
あぁもぅ、どうしたらいいんだろう……。
陛下には王妃候補の一覧はお渡ししたけど、350人くらいいたよね……貴族と軍臣の一族から選ばれたそうだけど……あの方はどんな人が好きなんだろう……。
考えがまとまらなくなって机から離れるとベッドに倒れ込む。
趣味で作っているヌイグルミの一つを抱いてみる。白雪兎の長い耳を交互に曲げながらため息をつく。
人を好きになるのって……大変……あっ……やっぱり……好きなんだ……。
私心を持ってしまっていた。そう自覚すると頭に陛下の笑顔が思い出される。
妄想の陛下は私にニコリと笑いかけて、頭を撫でてくれて、優しい声までが想像できてしまった。
もう、ダメかな……。
顔の、いえ、顔だけじゃなく胸の奥からもほてりを感じながら私は部屋の灯りを消して就寝したのだった。
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