王VS女帝
剛雷から放たれる激しい光と轟音。それに紛れて俺は女帝に斬り掛かったが黒冥から放った風刃は指先から放たれた鋼線で相殺され直接の斬りつけも腕でガードされる。
「ちっ……」
地下で戦った殻の時より魔力を込めているというのに傷一つない。
「ほぉ……前に来たヒトよりも上か……」
傷でもついたのか指先を見て舐める。
「前に……来た?」
「ああ。妾のコウの腕一つ切り取って逃げていったがまぁまぁのヒトであったな。捕らえ餌にしようと思うたが逃がしたのは惜しい」
物思いに耽るかのように語られる。
どうやらあの腕の非均等は元からではなく誰かの攻撃によるもの。俺の耳に入っていないと言うことはおそらく帝国の者。
今いる場所がどこかはわからないが多分王国側でも帝国側でもない可能性が高い。何かあって帝国の軍事力がここまで来る可能性はゼロではなく、さらに女帝のコウを破壊できるとすれば一人しか心当たりがない。
……腹が立つことだが腕一本分は勇者(笑)に助けられたと言うことか。
「……」
『陛下……』
俺の不機嫌が伝わるグレナルドが心配する声を上げるが俺はある事を頭の隅に入れながら再び女帝に接近戦を挑む。
グレナルドの知識から指先から出る鋼線は蜘蛛系のモンスターの能力の開、外殻にある突起は龍系、頭にある髪のような青白い炎は氷属性と炎属性を併せ持つと推測される。尾にある刃は宝刀龍に似ているらしい。
女帝の攻撃線を避けながら切り込むが姿勢が変われば攻撃線も変わり、女帝の防御を崩せない。さらに厄介なのは手足尾の攻撃に加えて同時に魔法での攻撃も放ってくるのだが詠唱時間がない。
こちらも黒瘴気と無詠唱の魔法で迎撃しているが女帝の手数が多く凌ぎきられ反撃を受けて下がらざるを得ない。
俺が下がって一息吸おうとするが女帝が口元をゆがませて突進してくる。手の平を俺に向けると裂け目が出来て牙の生えた口があるのが見えた。そこから金属で出来たようなメタリックな蛇が伸びてくる。
不規則に動く女帝が蛇を鞭のように操り俺を打とうとする。俺は空中に跳んで避けるが、女帝は翅を生やして飛行し追撃してくる。
俺は空中歩翔で鞭を躱しながら左手に換装武器を喚び出す。
猟皇、黒い鉄鎖が顕現れて動き回る俺と女帝の間で蛇と鎖が打ち合う。
絡め取れば猟皇の属性、爆破の力でこの蛇を破壊することが出来そうなのだがなかなかそうはさせてくれない。
だが一つ、楽しいことがある。
(グレナルド)
『どうされましたか?こんな戦闘中に』
(戦う相手が強いほどやる気の出る戦闘狂らしい。俺も、君も)
『ははっ、私も武人として血が滾ります』
サラス将軍のいる方が方角から二度目の雷音が響いた。
さらに空中での攻防が続きやっと鎖で蛇を捕らえる。瞬時に爆破させると同時に空いている右手を振る。厄介な鋼線を出す手も潰すつもりで女帝の右手首を刈ろうとする。
まるで鋼でも叩いたかのように硬い感触だったが何かを破壊する音がした。確認もせず反撃を避けるために急ぎ離れ地面に降りる。その俺の耳に怒声が響く。
「イイ度胸ダ、ゴラ゛ァァァァァァァ!!!!」
視界の端に怒り狂う龍人が見えたがそれどころではない。
爆破の煙が風に流されて女帝の姿が見える。右手首があり得ない角度まで曲がり、手の平から垂れる蛇にはひびが入っている。
「おのれぇ……妾が腕を……」
黒い目がキュッと縦に細くなる。頭にある青白い炎が体を覆う魔力のオーラと混じり合い全身を包む。
その炎の中から炎輪がいくつも現れて俺を狙い様々な軌道で飛んでくる。一つ目を躱すときに次やその次も見ながら躱す。
躱した炎輪が軌道を変えて再び俺の方に向く。どうも追跡型か操作しているっぽく俺は水球を出しとぶつけて相殺していく。
女帝は地上に降りると手から炎を纏った風刃をいくつも放ち俺は黒冥を右手に握り替えて黒い風刃で打ち合う。
ほぼ互角の状態から少しずつ俺が押し始めている。
「おのれぇ、おのれぇ!!」
魔法では攻め難しとみたのか左手の爪を揃えて剣のようにし、潰された右手の隙は尾を使って攻めてくる。しかしながら尾は手ほどに器用ではなく回り込ませなければならない分リーチも短い。
右手を潰されている女帝の攻撃は手数が減り、尾の攻撃は黒瘴気が対応し魔法は魔法で相殺する。
俺は黒冥の刃で凌ぎつつ試したいことがありグレナルドに問う。
(これ、剣で出来そうか?)
『これは……陛下、少し慣れればおそらく』
(頼むぞ)
『はっ!』
何合か切り結びながら呼吸を探る。気合いか残る地力かまだ鋭い剣閃を見せる。競り合い、弾き、受け止め、鎬を削る。
『……陛下、できます』
(助かる)
グレナルドの言葉に俺の力とグレナルドの能力が混ざり新たな力を生み出す。
立ち構えを女帝の鏡映しに取り、動きも合わせる。そして女帝の腕を擬えるように剣を振る。切っ先を擦らせて女帝の攻撃は空を切る。一撃だけでなく何度も空を切り続ける。
武閃流奥義、鏡擊殺。
敵の構えに対と構えること現し身のごとし、相対するものの呼吸を知り、同なる動きを取る。合わせ打ち、敵の先を変える。
原文は忘れたがそんな感じの内容。要は敵と鏡映しに構えて攻撃の軌道も合わせてぶつかった瞬間に相手の攻撃の軌道をずらしてギリギリで躱したり相手の体勢を崩す。言葉にすれば簡単だが身につけるまでには血反吐を吐いた。
祖父ちゃん加減なしだったから。
思い通りにならない切っ先に少しずつだが女帝の動きが力任せに、単調に、雑になってくる。
「……やはり、な」
女帝の大振りの攻撃の軌道を変えて体勢を崩すと一太刀入れる。
「おのれ!!」
脇腹に傷を受けた女帝は苛烈な攻めを見せるがやはり力任せになっている。
母体の生態を聞いたときに推測は立てていた。
まず一つ目、戦い慣れをしていない。狩りのほぼすべてを捕食個体が行うということは母体が戦うことは極希、今のように巣の最奥まで敵が来なければ戦うことはない。
二つ目、そもそも実力の拮抗した相手が限られる。個体として強い母体に対抗できる相手は少ない。巣に最奥に辿りついた者は捕食個体との戦闘で消耗しているはず。俺のようにほぼフルパワーの状態の相手と対することはないだろう。
左腕を肘から切り落としついでに腹も横凪ぎに払う。
クルクルと女帝の腕が宙に舞いドサリと落ちる。
女帝は崩れ膝をつき俺は剣を片手に突きつける。
「アンタの戦闘経験が多ければ立場は逆だったかもしれんな」
「まだ、だ。妾はまだ戦える!!」
女帝はまだ無事な尾を振り上げて俺に向けるが今までのような重さはなく魔力も落ちている。易々と受け止めて、
「詰み、だ。残念だがこの状態からでは逆転は出来ない」
俺は出来るだけ感情を表に出さないようにして声を出す。
両手を失い魔力もほぼ尽きているはず。そして体力的にもそろそろのはずだ。だが、女帝は口元を歪めませて笑う。
「妾の、負けではない……相討ち、だ」
女帝の急激に魔力が高まっていく。おそらく命を魔力に返るような自爆技だろう。だが俺にとっては予想の範囲内。
軽く息を吸いため息を零すと三つ目の、対峙してから気付いた弱点を口にした。
「……アンタは……自分の子供ごと自爆するつもりか?」
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